第26話 雪の世界 その2
続いてのニュースです。
俳優の源五郎丸武雄氏が、改名することを発表しました。
源五郎丸氏は連続テレビ小説「ちくわ天の衣を剥がして食べる」に出演中ですが、次回の放送分からクレジットに改名後の名前が載るということです。
源五郎丸氏は、「魔が差してやった。苗字を言うのにかかる時間が勿体ないと思った。悪いことをしたとは思っていない」などと供述しており、近日中に警察の捜査が入る予定です。
改名後は左衛門三郎秀夫として活動すると発表しています。
以上、お昼のニュースでした。
真美はどこからか杖を取り出し
「こらこらこら待て待て待て!!」
またあなたですか?今度は何?
「俺が悪いみたいに言うな!なんでいきなりニュース番組挟まった!?」
お昼のバラエティ番組の前にはニュースが挟まるのが定番でしょ?
「これバラエティ番組じゃねえだろ!!今が昼かどうかも分からねえしニュースの内容もどうでもいいし!」
源五郎丸さんが左衛門三郎さんに改名するんだよ?興味無いの?
「ねえよ!!誰だよ!!あと苗字短くしたい雰囲気出しといて改名後の方が長いじゃねえか!!警察が入るのも意味わからねえよ!!」
もう、そんなことにいちいちツッコんでたら話が進まないでしょ?早く本編に入るよ?
「お前のせいだろ!!もうなんでもいいから本編を始めろ!!」
今始めようと思ってたのに止めるから……。まあいいや。始まり始まり〜。
「やっと始まった……」
真美はどこからか杖を取り出し、魔女モードに入る。
「さあ、頑張って幸代さんの帽子を出すよ!帽子と言えば私はいつも黒い三角帽子を被っててね」
「ほんとあれやめて貰えます?魔女丸出し過ぎて恥ずかしいんですよ」
「我は普段エコバッグを被っているぞ」
「お前エコバッグのこと帽子だと思ってんの!?被るもんじゃねえだろ!!」
「だが小さく折り畳めて便利だぞ?」
「そこじゃねえよ!!用途のことを言ってんだわ!!」
「早くボクの帽子を出してくれないですか……」
涙目の幸代がか細い声で三人に懇願する。
だがその声は三人の耳には届いていない。
「でも被りしろがあるものは帽子って言って良いんじゃない?ペットボトルのキャップとか!」
「被りしろってなんだよ!!キャップは被るって言うより乗ってるだけでしょ!!」
「我はピザの箱を被ってみたくてな」
「お前は黙ってろ!!被ってどうなるんだそんなもん!!」
「ピザに乗ってる具って半分ぐらいは落ちてくるよね」
「もうピザの話してんじゃねえか!!帽子関係なくなってるよ!!」
「……」
幸代は再び三人の周りをゴロゴロと回り始めた。
「もう、じゃあ何を被れば良いって言うの?買い物かご?」
「なんで素直に帽子被らないんですか!!黒い三角帽子の方がまだマトモでしたよ!!」
「我はキラウエア火山を被るのが夢だぞ」
「どうやって被るんだよ!?噴火口に頭入れんの!?」
「ちょっと待って瞬くん!なんか暗いよ?」
「え?」
三人が気づいた時にはもう遅かった。
全長20mほどになった幸代がこちらにゴロゴロと向かって来ており、そのまま三人はプチっと踏み潰された。
「さあ、頑張って幸代さんの帽子を出すよ!」
ペラペラになった真美が、同じくペラペラになった杖を掲げて気合いを入れる。
「ふざけ過ぎましたね俺たち。みんなペラペラにされちゃって……」
「我はふざけているつもりなど無かったのだがな」
「お前あれで真面目にやってたの!?救いようがねえな!!」
「こら二人とも!今度こそちゃんとやるよ!」
珍しく真美が二人を叱る。彼女は真面目な時は以下略。
「よーし、私からいくよ!大いなる天より振りし雷よ、その力で悪しき者を射抜け!サンダーアロー!」
真美が杖を上げると、幸代の頭の上に四角い厚紙の箱が出現した。
箱からはポロポロとポップコーンが溢れてくる。
「ポップコーンバケツじゃねえか!!バケツ違いだろ!!」
「でも雪景色ってポップコーン食べながら見たくない?」
「映画か!!雪景色のどの部分がクライマックスなんだよ!」
「そりゃ雪が降り始めるところでしょ!」
「初っ端じゃねえか!!後何見たらいいんだよ!?」
「真美よ。そんなことだからお前の魔法はダメなのだ。我の神の力を見よ」
「お前の力の方がいつも役に立たないけどな!?」
城田が右手を上げると、幸代の頭の上に四角い厚紙の箱が出現した。
箱からはポロポロとポップコーンが溢れてくる。
「いやだからポップコーンバケツじゃねえか!!なんで被せてきた!?」
「そろそろ消えかかっているのだ。ポップコーンを食べさせてはくれぬか?」
「ああほんとだ薄くなってるわ……じゃねえよ!!お前はその辺の雪でも食ってろ!!」
「まだ真面目にやってくれないんですか……」
幸代はもう泣き出しそうだ。
「ほら、今度こそちゃんとやりますよ?二人とも、お願いします」
「分かったよ!今度という今度はちゃんとやる!城田さん、力を合わせよう!私と一緒に呪文を唱えて!」
「良かろう。だが少し待て。口内炎にスプレーをしてからで良いか?」
「お前神なんだから口内炎ぐらいなんとかしろよ!!」
城田がどこからか取り出した口内炎スプレーをかけ、準備は整った。
真美は杖を、城田は右手を上げる。
「偉大なる大地の結晶よ、集まりてその形を成し、」
「我の元にそのぶよぶよに太った姿を現せ。メタボリックシンドローム!」
「後半合ってる!?」
真美の杖と城田の右手から光が放たれ、幸代の頭の上に集まっていく。
あまりの眩しさに、瞬は顔を手で庇った。
そして光が収まってから瞬が幸代の方を見ると、四角い厚紙の箱からポップコーンがポロポロと溢れ出ていた。
「いやポップコーンバケツじゃねえか!!何回擦るんだよ!!」
「今度はガーリックシュリンプ味だよ!さっきまでは塩味でスタンダード過ぎたかなと思って!」
「味関係ねえだろ!!問題は素材が厚紙なことだよ!!」
「だが見てみろ。幸代は満足そうだぞ」
「……え?」
瞬が幸代の方を見てみると、幸代は感動の涙を流しながらポップコーンを食べていた。
「こんな美味しいものは初めて食べました!前のバケツより、こっちの方が美味しくて良いですね!クリアにしましょう!」
「ええ……。ええ……?」
「やったー!やっぱり私と城田さんが組めば無敵だね!」
「そうだな。我と真美が組めば、栄養失調の子どもにも勝てるであろう」
「戦う相手間違え過ぎだろ!!え、本当にこれでクリアで良いの……?」
不完全燃焼の瞬だが、クリアしたことに変わりはない。
「さあ、次は正月の世界だ。ずっと正月だからのんびりできるであろう」
「帰省か!!目的を履き違えてないか!?」
「お正月と言えばおせちだよね!瞬くんはおせちだと何が好き?私は黒トカゲの丸焼き!」
「俺の知ってるおせちと違うみたいですね……」
こうして三人は、雪の世界を後にしたのだった。




