第25話 雪の世界 その1
城田が白いドアを開けると、そこは一面の銀世界。雪がしんしんと降り積もり、視界に入る限りは雪しか無い空間だ。
「ここに来ると何故か落ち着くぞ。理由は全く分からぬが、故郷に帰って来たような気分になるな」
「そりゃここほぼ白の世界だからだろ!雪以外に何かあんのか?」
「もちろんあるぞ。日傘とか」
「なんで普通の傘じゃねえんだよ!!雪を防ぐ努力をしろ!?」
いつも通り二人がアホなやり取りを繰り広げている中、真美だけは黙々としゃがんで何か作業をしている。
「先輩、何してるんです?」
「え?一人ソリティアだけど?」
「何してんだ!!せめて雪遊びしてろよ!!」
「我は普段一人人狼ゲームをしているぞ」
「悲しすぎるわ!!絶対人狼お前じゃねえか!!」
「いや、いつも占い師でやっているぞ」
「じゃあいつ終わるんだよ!!」
雪と何一つ関係無い行動をする三人のところに、一つの人影が近づいて来ていた。
いや、それは人影とは呼べない。大きな球体の上に一回り小さな球体が乗った、到底「人」とは呼べない姿をしていたからだ。
「こんにちは!皆さんは何をしているんですか?」
「何って俺も分かr……雪だるま!?」
「え?雪だるまが喋ってるの?絶対中に人入ってるよ!解剖しよう!」
「発想が怖過ぎるわ!!」
「いや、中には鮭フレークが入っていると思うぞ」
「だとしたら何なんだよ!!雪だるまが喋る理由と何一つ関係ねえだろ!!」
「あ、あのー……。聞いて貰っても良いですか?」
何故かここにいる中で一番常識人そうな雪だるまは、遠慮がちに三人に話しかける。
「どうしたの雪だるまさん?あ、分かった!名前を付けて欲しいんだよね?私が付けてあげる!かまくらとかどう?」
「ややこしいだろ!!同じカテゴリの別物の名前付けんな!!」
「では我が名を授けよう。ダークネスストリートホーリーアタックはどうだ?」
「厨二全開だな!?なんだその知ってる単語とりあえず並べましたみたいな名前!!」
「いや、あの、そうじゃなくてですね……」
全く話を聞いて貰えず、戸惑う雪だるま。だがそんな雪だるまを無視して、三人は名前を決め続けている。
「じゃあ何が良いって言うの?山田とか?」
「適当が過ぎるわ!!投げ出さないでやってくださいよ!!」
「では手帳型スマホケースはどうだ?」
「それ名前!?もう何の話してるか分からなくなってんじゃねえか!!」
「……」
諦めた雪だるまは、三人の周りをゴロゴロと転がりながら回り始めた。三人が口論(?)をしている間に、雪だるまの体はどんどん大きくなっていく。
「ああもう埒が明かない!次で決めるよ!オアフ島はどう?」
「なんでハワイになるんですか!?雪だるまと正反対のとこでしょ!!」
「では我が決めてやろう。ユッキーナはどうだ?」
「それっぽいけどダメだろその名前は!!ん?なんか暗くなってきたような……」
ツッコミながら瞬が異変に気づく。その言葉を聞いて三人が暗くなった空を見上げると、巨大になった雪だるまが三人を見下ろしていた。
「話……聞いて貰えます?」
「「「聞きます聞きます!!」」」
あまりの迫力に押され、三人はようやくちゃんと雪だるまの話を聞くことにした。
いつの間にか雪だるまは元の大きさに戻っている。
「それで、ポルチーニ風パスタは何を聞いて欲しいの?」
「もう名前で遊ぶのやめてあげてくださいね!?」
「ボクは、この世界の管理人、幸代です」
「雪代じゃねえのかよ!!ていうかちゃんと名前あんじゃねえか!!」
「ボクから皆さんに頼みたいことがあるんです。実は、ボクは本当はバケツの帽子を被っていたんです。でもそれが昨日の吹雪で飛ばされちゃって……。皆さんも探すのを手伝ってくれませんか?もし見つけてくれたら、この世界から出してあげます」
「おお、なんか絵本みたいな世界観になってきたぞ」
「絵本ってあれだよね。人体の構造が書いてある大きい本だよね」
「俺の知ってる絵本と随分違いますけど!?」
「いや、絵本とは偉人の肖像画が書いてある本のことだろう。おでこに肉と書いているやつだ」
「小学生の教科書か!!お前そんなんだから神様学校の成績悪いんだろ!!」
「あの……。真面目に探してくれますか?また巨大になって踏み潰しますよ?」
「やりますやります!やるから落ち着いて!」
巨大化の迫力に1度は押されたものの、ボケ続ける城田と真美。そしていつものノリでツッコミを入れてしまう瞬のトリオに、幸代はイラつき始めていた。
「良いことを思いついたぞ。我は神の力、真美は魔法で幸代にピッタリのバケツを出す勝負にするのはどうだ?」
「わお!ナイスアイデアだね!やろうやろう!」
「待てよ城田。その場合俺はどうやって参加すりゃいいんだ?」
「それはもう、足で稼ぐしかなかろう」
「新人記者みたいなこと言われた!!」
「もう何でも良いので、ボクの帽子を探すの手伝ってください……」
涙目の幸代は、懇願するように三人に手伝いを求める。
実際彼の帽子を探すことをミッションとして提示しようと思っていたのだろうが、ここまで話を聞いて貰えないのは想定外だったのだろう。
「よし、では早速バケツ選手権を始めるぞ。準備は良いか?」
「おー!」
「大丈夫かこれ……?」
「大丈夫でしょうか……」
楽観的な城田と真美に対し、不安げな瞬と幸代。このバケツ選手権はどうなってしまうのか?そして幸代は無事城田のサイン入りCDをゲットできるのか?
次回「手に入れたのはサイン入りレコード」
絶対見てくれよな!
「最後何の予告だ!?」
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