第24話 服の世界 その2
城田と真美はかなり奥の方まで進み、瞬に着せる服を選んでいた。
「瞬くんどんなのが似合うかなー?個人的にはこれとか似合いそうだなって!」
真美が指差したのはカバの着ぐるみ。ちゃんと四足歩行仕様で、オプションでスイカまで付いている。
「それも良いが、これはどうだ?近未来感があって良いと思うぞ」
城田が指差したのは宇宙服。ちゃんと酸素ボンベも付いている。
「わお!それも良いね?セットアップ?」
「セットアップだな。頭と全身のセットアップという組み合わせも、新鮮で良いのではないか?」
「だねー!じゃ、これにしてみる?」
「おいこら待て!!誰がコーディネート対決で宇宙服選ぶんだよ!!」
「瞬くん!?なんでいるの!?」
「二人がボケに走ると思って追いかけて来たんです!!案の定じゃねえか!!」
試着室の前で待っていた瞬だが、城田と真美の奇行を心配して着いてきたようだ。
「おお瞬よ。本人がいてくれると助かるぞ。早速このセットアップを着てみるのだ」
「お前宇宙服のことセットアップって言ってんの!?」
「瞬くん、こっちはどうかな?これもセットアップでアクセサリーまで付いてるよ!」
「カバの着ぐるみじゃねえか!!なんかさっき指差してたのはこれか!!四足歩行なら本当にカバでしょ!!」
瞬が来てイキイキし出した二人は、先ほどまでのツッコミ不在時にしたボケを繰り返す。
やはり瞬がいないと少し物足りないようだ。
「もう!文句ばっかりで進まないな!じゃあ何が着たいっていうの?この犬用の服?」
「犬用って言っちゃってんじゃねえか!!」
「こっちにキリン用もあるぞ」
「だからキリン用って言ってんじゃねえか!!何ネックなんだよ!!」
「タートルネックだぞ」
「もう亀だかキリンだか分かんねえわ!!タートルで済む長さじゃねえだろ!!」
進んで行くうちに動物服のコーナーに入っていた三人は、人間用のコーナーに戻ることにした。
「あ!まわしコーナーがあるよ!私見てもいいかな?黄色のまわしが欲しくてね!」
「見たことねえよそんなまわし!!前から見たらTポイントのロゴみたいになるだろ!!」
「今はVポイントに変わっているらしいぞ。だから我は黄色のブーメランパンツを」
「ポイントから離れろ!?」
マトモに服を選ばない二人に翻弄される瞬。とは言え、彼自身も元々あまり服に興味が無い為、自分で選ぶわけにもいかないのだ。
「服選びって難しいね……。エベレストの山頂でバク宙するぐらい難しいよ」
「エベレスト登頂だけじゃダメでした!?」
「うむ。エベレストの山頂で我のチェキ会を開くぐらい難しいな」
「お前の場合登頂よりチェキ会の方が難易度高そうだな!!」
「何故だ?我とチェキを撮れる機会など滅多に無いぞ?」
「撮りたくねえんだわ!!お前のファンなんかどこにいんだよ!!」
「南アフリカあたりに多くいるぞ」
「お前ネルソン・マンデラ!?」
そんなことを言っているうちに、コーディネートを披露する時間が来てしまった。
「さあ、コーディネートは組めましたか?では私のコーディネートから着て貰います!」
福田は瞬に選んだ洋服を渡した。自信満々の笑みで、瞬が試着室から出てくるのを待っている。
「着替えられました!」
シャっとカーテンを開けて瞬が出て来る。その服装は、ストライプ柄のネクタイ付きシャツにレザージャケット、ヴィンテージ風に色褪せたワイドデニムに厚底のスニーカーというものになっていた。
「なんかこれ、今まで着たことない感じですけどオシャレなのは分かります!」
「そうかなあ?私的には白い長ランの背中に「喧嘩上等」とか書いてあった方がオシャレだと思うよ?」
「暴走族か!!絶対リーゼントだろそいつ!」
「我はウエットスーツの方が良いと思うぞ」
「お前は黙ってろ!!福田さん、このコーディネートのポイントは何ですか?」
着たことの無い系統の服を着てテンションの上がっている瞬が、福田に尋ねる。
「ポイントはやっぱりシャツですね!レザージャケットとワイドデニムでカジュアルベースなんですけど、敢えてインナーにネクタイ付きのシャツを持って来ることでキレイめの要素を足してみました!ストライプ柄でフォーマルになり過ぎないシャツを選んで、カジュアルな服装にも合わせやすくしてみました!古着感もあって今っぽいですよね!」
福田のマシンガンのような説明に、ほえーと口を開ける三人。神である城田も、服のトレンドには疎いようだ。
「こういうの良いですね。着たことなくて新鮮です!でも城田と先輩がこれに勝てるのか……」
「心配するな瞬よ。真面目に選んでやったぞ」
「お前の真面目って信用できないんだよなあ……」
「はい瞬くん!これが私たちが選んで来た服だよ!カッコよく着こなしてね!」
真美が服が入ったカゴを瞬に手渡す。やけにずっしりとしたカゴを持ち、嫌な予感がする瞬だが、諦めて試着室へと戻って行った。
突然だが、試着室に入ってカーテンを閉めた時に落ち着くのは私だけだろうか。
「おい地の文余計なこと言うな!それ聞いても何にもならねえだろ!」
「ちょっと瞬くん!真面目にやって!」
「精一杯真面目にしてるつもりですけれども!?」
そして数分後、瞬がカーテンをゆっくりと開けて出て来た。
だがその顔は明らかに落胆しており、負けを確信しているようだった。
「どうしたのだ瞬よ。先のコーディネートのように、もっと明るい顔で出て来れば良いものを。せっかく我と真美がコート12着を選んでやったというのに」
「なんでそうなるんだよ!!新手の十二単か!!」
「でもでも、ちゃんと似た系統のコートで統一感を出してみたんだよ?どう?」
「ミルフィーユか!!脱いでも脱いでも同じようなコートが出て来るんですけど!?」
もうこの世界に留まることを覚悟した瞬は、改めて福田の方を見る。
すると福田は、両手両膝を地面に着いて落胆していた。
「え!?ええ!?なんで!?」
「負けました……。発想のスケールで私の負けです。おめでとうございます。あなたたちはこの世界から出られます」
「ええ……?これがオシャレなのか……?」
改めて瞬は鏡で自分の姿を見るが、彼にはどうしてもこれがオシャレだとは思えなかった。
「やったー!クリアだね!城田さん、次はどんな世界?」
「次は雪の世界だ。白い雪が積もっている世界だから、我はいつまでも生きられるぞ。楽しみだな」
「お前もう自分のことしか考えてねえな!?」
こうして三人は、服の世界から脱出することに成功したのだった。




