第22話 お菓子の世界 その2
「さて、ここが樫本さんの部屋だね!」
「ちょっと緊張しますね。どんな人なんだろう?」
「おらっちも緊張するでやんす……!」
「お前は別に来なくても良かったんだけど!?」
何故か着いてきたスティーブンソンと一緒に、三人は樫本の部屋の前に来ていた。
「この初めての人の家でインターホンを鳴らす瞬間って緊張するでやんすよね」
「だからお前は来なくて良いって!!帰れもう!!」
「ええ!?」
何故か驚くスティーブンソン。本当に彼は何故着いて来たのだろうか。
「そんなことを言ってやるな瞬よ。この男はこの男で、樫本に用があるのだろう。トイレを貸して欲しいとか」
「その理由なら尚更帰れ!?」
「そんなに言い合っても仕方ないでやんすよ。ここは大人になって、一歩引くでやんす」
「お前のせいで始まった言い合いだが!?」
「もう三人とも!うるさいよ!せっかく私がインターホンで子犬のワルツを演奏してるんだから、ちゃんと聴いて!」
「嫌がらせにもほどがあるだろ!!」
真美のインターホン連打による演奏が収まってから、扉が開いて一人の男が出てきた。
「なんの騒ぎでやんすか!?おらっちに何か用でやんすか!?」
「スティーブンソンじゃねえか!!またお前かよ!!てかお前、さっきまでこっちにいなかった!?」
「面倒になってきたぞ。もうこの男が樫本に改名すれば良いのではないか?」
「無茶苦茶言うな!!それじゃ意味無いだろ!!」
「おらっちはそれでも良いでやんすよ?」
「俺たちが良くねえんだわ!!お前の都合どうでも良いんだよ!!」
どういう仕掛けか樫本の部屋から出て来たスティーブンソンは、やたらと三人に絡んで来る。
「ところでおらっちの好きなお菓子が何か聞かないんでやんすか?」
「そりゃお前の聞いてもどうでもいいだけだからな」
スティーブンソンの提案を一蹴する瞬。そんな瞬を、真美が咎めるように会話に入って来た。
「瞬くんそこまで言わなくても良いでしょ!私が聞いてあげる!スティーブンソンさんの座右の銘は?」
「おい質問が変わってるぞ!!」
「おらっちの座右の銘は、「七転び」でやんす」
「「八起き」はどこ行ったよ!?転びっぱなしじゃねえか!!」
「我の座右の銘は「ホワイトアウト」だぞ」
「今すぐ救助隊呼べ!?」
真美のトンチンカンな質問に、真面目に答えるスティーブンソン。城田まで入って来て、もはや瞬のツッコミが浮いているようにすら感じて来る。
「はあ……。もうじゃあ一応聞くけど、スティーブンソンの好きなお菓子は何だ?」
「そりゃもちろん、アーモンド小魚でやんすよ!こればっかり食べてるでやんす!」
「そんな歯に良さそうなもん食ってなんで虫歯だらけなんだよ!!」
「まあまあ、これが何かのヒントになるかもだよ!アーモンド小魚はお菓子に入るってことは分かったしね!」
「遠足のおやつじゃないんだから……。まあこの世界のお菓子の定義は広めだってことですね」
「我の好きなお菓子は黒糖まんじゅうだぞ」
「お前は黙ってろ!!なんで白くないもんばっか食ってんだお前は!!」
一応スティーブンソンからヒントのようなものを得た三人は、樫本の好きなお菓子を探しに行くことにした。
「では出発するぞ。どこから手をつける?我的にはアーモンド小魚辺りが怪しいと思うぞ」
「さっきの会話に引っ張られ過ぎだろ!!馬鹿丸出しか!!」
城田と瞬が言い合っている中、真美が何かを真剣に観察している。
彼女の視線の先には、スティーブンソンが入って行った部屋の表札があった。
そこに書かれていた苗字は、「樫本」だ。
「ねえ城田さん、これって別に間違えてもペナルティは無いの?」
「特に無いぞ。瞬の髪の毛が抜けるだけだ」
「おい大ありじゃねえか!!ちょっと先輩、適当に持って行くのだけはやめてくださいよ!?」
「うん、分かってるよ。でも私、どうしても試したいお菓子があるんだ」
そう言って真美が手にしたのは、アーモンド小魚の小袋だった。
「だからさっきの会話に引っ張られ過ぎだろって!!」
「城田さん、渡す時はどうすれば良いの?」
「ドアポストから入れるだけで良いぞ。ついでに我のブロマイドも入れるか?」
「次からドアポストにガムテープ貼られるぞ!?」
真美は城田の言葉を聞くと、アーモンド小魚の小袋をドアポストから入れた。
「ああ……。さよなら俺の髪の毛……」
パンパカパーン!
瞬が嘆いていると、どこからかファンファーレのような音が鳴った。
そしてスティーブンソンが再び扉を開けて出て来る。
「おめでとうでやんす!この世界はクリアでやんすよ!」
「え……?じゃあ、やっぱりお前が樫本?」
「いや?おらっちはスティーブンソンでやんす」
「じゃあなんでクリアになったんだよ!!」
ツッコミなのか疑問なのか分からない叫びを上げる瞬に、真美が説明する。
「瞬くん、この世界における樫本さんは、言わば概念なんだよ。個人名じゃなくて、この世界の管理人全体のことを言うんだよ。だから、このスティーブンソンさんも樫本さんなんだよ!」
「んんん?分かるようで分からないような……」
「要するに、スティーブンソンは樫本の一人ということだ。アルプス山脈で言えばジョラスだ」
「意味は分かったけどその山は知らねえな!?」
城田の例えでよりこんがらがってしまった瞬だが、クリアしたことには変わりがない。三人はスティーブンソンに背を向け、次の世界へと目を向けた。
「さあ、次は服の世界だぞ。お前たちはいつも制服だから、我が良い服を見繕ってやろう」
「お前のセンスには不安しかねえな……」
「わーい!私まわしが欲しい!」
「もうちょっと服に興味持てます!?」
こうして三人は、お菓子の世界から脱出することに成功したのだった。




