第21話 お菓子の世界 その1
お菓子。無限のカロリーを秘めた、神秘の食べもの。
若者たちは白い扉を開き、お菓子を掴む!
スナックオンユアハングリー!その手で、お菓子を掴め!
「ということでお菓子の世界に着いたぞ」
「おい待て今のなんだ!?なんかオープニング前のナレーションみたいなの入ってたけど!?」
「あれはこの世界の説明だ。ちゃんと聞いていたか?」
「聞いてねえし説明になってねえし意味不明だし!要するにここはどういう世界なんだよ!」
瞬が悲痛な叫びを上げる。そんな瞬と既にお菓子を貪る真美をチラッと見て、城田はこの世界の説明を始めようとした。
「いや先輩何してんですか!?なんでいきなりお菓子食べてるんですか!!」
「え?そこにお菓子があるから?」
「登山家か!!良いから食べるのやめてください!」
「ええ〜……。じゃあこのチョコレートフォンデュだけ食べて良い?」
「なんでそんな時間かかるもん食べるんですか!!良いから置いて!」
「荻野さんと萩野さんってややこしいよね」
「どうでも良過ぎるでしょう!?」
二人のやり取りを見ながら、城田は手に持っていたホワイトチョコレートを齧る。
城田は白いものを定期的に摂取しないと消えてしまう為、ゲームセンターの世界で獲得したホワイトチョコレートを常に齧ることにしたのだ。
まあそんなことをしなくても、このお菓子の世界にはホワイトチョコレートなどいくらでもあるのだが。
「瞬に真美よ。気は済んだか?友達の友達同士のようなやり取りもそこまでにしておけ」
「そんな気まずいやり取りした覚え無いけれども!?」
「では、改めてこの世界の説明をするぞ。この世界はお菓子の世界。便座や便座カバーなど、全てのものがお菓子でできている」
「なんで敢えてその二つを例に出した!?」
「そしてこの世界は、樫本という男が管理する世界。樫本はあらゆるお菓子を食べてきた男で、彼が一番好きなお菓子を持って行くと、この世界から出ることができるぞ」
「菓子本じゃねえのかよ!!」
「瞬くん、その字面だとお菓子のレシピ本みたいだから今回は樫本さんで良かったんじゃない?」
珍しく真美が冷静にツッコミを入れる。以前にも説明したが、彼女は真面目な時は真面目なのだ。
「とりあえずその樫本ってやつにお菓子を届ければ良いんだな?で、その樫本はどこにいるんだ?」
「樫本はこの世界の中心、お菓子のアパートに住んでいる」
「家で良かっただろ!!なんで敢えてアパートにした!?」
「本当はマンションが良かったらしいが、家賃が高かったらしい」
「だから家にしとけって!!なんで自分の世界で家賃払えねえんだよ!!」
登場すらしていないのにツッコミどころの多い樫本に、瞬は既に疲れ始めていた。
「まあまあ、とりあえず樫本さんにお菓子の好みを聞きに行かないとね!何が好きなのかなあ?コーンスープ味のアイスとかかな?」
「それだけではないことは確かですね」
「よし、では樫本のところへ行くぞ。徒歩で行くと二十分ほどかかるが……。原付で行くか?」
「田舎道か!!お前神のクセにそんな庶民的なもん乗んな!!」
「ちゃんとマフラーは改造してあるぞ」
「田舎のヤンキーか!!お前乗り物ボケ多過ぎるぞ!?」
三人は結局徒歩で樫本のアパートへと向かった。
そして約40分後。三人は目的のアパートに辿り着いていた。アパートの名前は『虫歯になり荘』というようだ。
「ああだからボロボロなのか……。じゃなくて!!夢の無い名前だな!?」
「やっと着いたー!長かったね!」
「先輩が途中でチョコレートフォンデュし出すからでしょ!?しかも大福をフォンデュってどんな味覚してんですか!?」
「いやー、チョコ大福にしたくてさ。普通の大福をフォンデュしたらより甘くなるでしょ?」
「糖尿になるわ!!せめてパッと食べられるもん食べてくださいよ!!」
「我はちゃんと一口カツをフォンデュしたぞ」
「お前も味覚バグってんな!?ソースじゃねえんだから!!」
三人がアパートの前で騒いでいると、一番手前にある扉が開いて中から男が出て来た。
「なんの騒ぎでやんすか!?おらっちに何か用でやんすか!?」
ところどころ穴の空いた出っ歯の男が、特徴的な語尾で三人に話しかける。
「えーっと……。あなたが樫本さんかな?」
「でしょうね。虫歯だらけだし。おい樫本、単刀直入に聞くぞ。お前のお菓子の好みを教えてくれ」
「え!?ええ!?」
男はかなり混乱した様子で、真美と瞬を交互に見ている。
「どうした樫本よ。ああそういうことか。自分で好みのお菓子を見つけて来るのが前提だろうという戸惑いだな?」
「なるほどねー!そう簡単には教えてくれないんだね!」
「え、ええと……」
勝手に話を進める三人を順番に見ながら、男は口ごもっている。
「ん?どうしたんだ樫本?何か言いたいことでもあるのか?」
「あ、あの……」
「樫本よ。そんなに緊張するでない。神である我に出会ったのだから、気持ちは分からなくもないがな。言うなれば、犬がアヌビスに会ったようなものだろう」
「例えがわかりにくい!!」
「これが本当のいぬのきもちだね!」
「上手いこと言うな!!」
「いや、あの……」
男は遠慮がちに口を開いた。
「あの、おらっちは樫本さんじゃないでやんすよ?」
「「はあー!!??」」
「やっぱりな。我は最初からそうだと思っていたぞ」
「嘘つけお前!樫本樫本って連呼してたじゃねえか!!」
「じゃあじゃあ、あなたは誰なの?それで、樫本さんはどこにいるの?」
真美が男に尋ねる。すると男は上の階を指差した。
「樫本さんならおらっちのちょうど上の階に住んでるでやんすよ。あとおらっちはスティーブンソンでやんす」
「誰だよ!!なんだその名前と見た目のギャップは!?」
「でもでも、ギャップがある人ってモテるらしいよ!瞬くんもギャップを出していこうよ!趣味が泥棒とか!」
「バンジージャンプ並みの落差やめて貰えます!?」
「我の趣味はけん玉だぞ」
「お前は黙ってろ!!」
戸惑うスティーブンソンを置き去りに、三人はいつも通りのやり取りを繰り広げる。
果たして三人は、無事樫本に会ってこの世界から脱出できるのであろうか。




