第15話 プラネタリウムの世界 その2
その後も保志崎の解説は続き、三人は順調に星座の知識を学んでいった。
『さて、この世界の星座の解説はこんなところでしょうか。それでは一旦休憩を挟んでから、テストに移りたいと思います。10分後、またここに集まってください』
保志崎の声で、三人は足を崩す。正座のダジャレに文句を言っていた瞬だが、彼も律儀に正座で聞いていたようだ。
「ふう〜、良い話ばっかりで涙が止まらなかったね!泣きすぎて目がしわしわに萎んじゃったよ」
「今すぐ水分補給してくださいね!?」
「我も涙が止まらなかったぞ。歳のせいか、涙腺が緩くなったようだ」
「歳のせいって……お前何歳なんだよ?神だから100歳とかか?」
ふとした城田の言葉に引っ掛かりを覚え、瞬は好奇心半分で城田の歳を尋ねる。
「我は今年で八十八歳だぞ」
「米寿じゃねえか!!無駄におめでたいけど、それが神の基準でどうなのか分かんねえよ!!」
「神としては若い方であるな。犬で言うと二歳だ」
「人間で言って貰える!?」
分かりにくい城田の説明に翻弄される瞬。地味に城田のセリフだけ年齢が漢数字になっていることにも気づいていたが、もうめんどくさいので瞬はスルーしていた。
「あと5分くらいあるね。私はもうバッチリだから、リズム四股踏みの練習でもしてようかな?」
「リズム四股踏みの説明からお願いできます!?」
「真美よ、そんなことだからお前はいつも赤点なのだ。我はちゃんと復習しているぞ。この赤ワインは五十年ものだな」
「何の復習してんだお前は!!ワインをしまいなさい!!」
結局こんな会話を繰り返し、休憩時間が終わってしまった。
再び正座して待つ三人の元に、保志崎の声が届いて来る。
『皆さん、休憩時間が終わりました。準備はよろしいでしょうか?』
「はーい!私はバッチリだよ!」
「我もだ。今なら星一つ一つのクレーターの数まで言えるぞ」
「いつそんな解説されたよ!?全然自信無いんだけど、大丈夫かこれ……?」
自信満々な城田と真美に対し、不安げな瞬。保志崎はそんな三人に、テスト開始の合図をした。
『それではテストを始めます。レディイイイイイ!!ファイッッッッ!!』
「アームレスリングか!!どんな始まり方だよ!?」
『それでは第一問目です。東の空に輝く三つの星。それぞれライト、レフト、センターという名前ですが、これらの星が形作る星座はなんでしょうか?』
「一問目から聞いてない星座の問題来た!?不意打ち過ぎるだろ!!」
保志崎はその柔らかい語り口調とは裏腹に、意地悪な問題を用意していたようだ。
1時間ほど解説を聞いていた三人だが、この星座の解説はされていなかった。
「なんて卑怯な問題……!でも、ここは星の名前から考えるしかないね!」
「であるな。普通に考えれば「ガイヤ座」や「アウトフィールダー座」になるのであろうが……。とりあえず勘で言ってみるのはどうだ?「シャベクリマンザイ座」とか」
「かけ離れ過ぎだろ!!今までの傾向から考えると、そこまで突拍子も無い名前じゃなくて、敢えて外したような名前が多いから……。分かったぞ!「ゴールキーパー座」だ!」
『……正解です。お見事』
「おお当たった!?先輩、これ行けますよ!」
まさかの正解を導き出した瞬は、勢いに乗って正解を連発した。
「使い捨てスリッパ座!」
「リップクリーム座!」
「蟹座!」
「外せるリングノート座!」
「ヘラクレス座!」
「あなたの風邪はどこから?座!」
前回はツッコミで疲れていたが、今回は正解を叫ぶことで疲れ、肩で息をする瞬。
「凄いね瞬くん!ズバズバ正解連発して!私には隣でリズム四股踏みすることしかできなかったよ!」
「ほんと鬱陶しいんでやめて貰えます!?地味に時々マトモな星座が入ってくるのがいやらしいんですよね……」
「流石だ瞬よ。我にはワインを飲むことしかできなかったぞ」
「酒片手に観戦モードになってんじゃねえよ!!だからワインしまえって!!」
『やりますね……。ですが、最終問題は難しいですよ?北東の空に輝く星が見えるでしょうか?これはメイメイという星で、元々ある名前を奪い、短くしてしまう魔女の星です。この星を起点にできた星座の名前はなんでしょうか?』
問題が終わる前に、瞬は既に手を挙げていた。
「もう分かったぞ!大体、この世界の星座にはある程度法則性があるんだ!ジャンルの中からは出ないで、敢えて外した名前を付ける!ということは……」
瞬は息を深く吸い込み、星座の名前を口にした。
「じゅげむじゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょのすいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところにすむところ やぶらこうじのぶらこうじ ぱいぽぱいぽぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなのちょうきゅうめいのちょうすけ座だ!」
「え、ほんとに言ってる!?そこまで言って外したら恥ずかしいよ?」
「そうだぞ。我なら、穴があったら湯を張って風呂にしたいほどだ」
「その例え合ってる!?」
ざわつく三人だったが、保志崎は押し黙っている。
そして1分ほど無言が続いた後、保志崎の声が響いた。
『……正解です。瀬名川瞬さん、お見事です。これであなたたちはこの世界から出ることができます。おめでとうございます』
「「やったああ!!」」
「うむ。我は信じていたぞ」
「嘘つけお前!意味不明の例えしてただろ!」
ツッコミながらも、脱出成功に笑みがこぼれる瞬。
「さて、この世界はクリアだ。次の世界は剣の世界だぞ」
「おっ!なんか初めてちゃんと異世界っぽいのが来たな!」
「魔法の世界とかもあるのかな?私行ってみたい!」
「では、「あなたの風邪はどこから?座」の辺りから出るぞ」
「さっきスルーしたけど疑問形の星座名とかある!?」
こうして三人は、プラネタリウムの世界を後にした。




