第14話 プラネタリウムの世界 その1
三人がドアを抜けると、そこには多数の星が空を彩る、薄暗い空間が広がっていた。
「わお、神秘的だね!私も星になりたいな〜」
「意味変わってくるからその発言はやめてくださいね!?」
「二人とも、静かにするのだ。この世界では、星と星座について天から解説をしてくれる者がいる。この世界から出るにはその解説からしっかりと学び、最後に出されるテストに答える必要があるぞ」
城田が二人を注意しつつ、プラネタリウムの世界の説明をする。
「はいはーい!私テストは得意だよ!普段授業中は魔術の研究しててほとんど聞いてないけど、いつも25点前後は取れるよ!」
「おい赤点じゃねえか!!卒業かかってるんでちゃんと授業聞いてください!?」
「ふむ、それは心強いな。我も昔は神様学校というところに通っていてな。テストではいつも40人クラスで38位だったぞ」
「ここ落第生ばっかか!!むしろお前の下に誰がいたのか気になって仕方ねえわ!」
「アポロンとかヘパイストスとか……」
「じゃあ十分神様だわ!ごめんな落第生とか言って!!」
まさかのオリンポス12神の名前を出され、瞬は半ギレで城田にツッコミを入れる。
前にもこんなやり取りがあった気がするな、と思いながら瞬が星空に目をやると、星たちがキラキラと輝き出した。
そして天から優しく、包み込むような温かい声が響いて来た。
『皆さん、プラネタリウムの世界へようこそ。私はここの案内人、保志崎です』
「星崎じゃねえのかよ!!」
『今日は皆さんに、星座のことをお話していきます。ちなみに、椅子はありません。床がカーペットになっていますので、ぜひ正座して聞いてくださいね』
「おいダジャレがしょうもねえな!!」
「ちょっと瞬くん!静かにして!ところで正座ってどうやるんだっけ?両手と頭を地面につけて逆立ち?」
「先輩、それは三点倒立です。どうやったら正座と三点倒立間違えるんですか!?」
真美が三点倒立をしようとするのを瞬が止めていると、保志崎が再び話し出した。
『それでは早速解説を始めていきましょう。北の空に輝く三つの星が見えるでしょうか?これはそれぞれハヤイ、ヤスイ、ウマイという星です』
「牛丼屋か!!チェーン店のキャッチフレーズだろそれ!!」
『この三つの星には物語があります。ハヤイはホテルのフロント、ヤスイは警備員として働いていました。そして夜勤明けのハンバーガー屋で、二人は運命の出会いを果たします』
「なんでそこは牛丼屋じゃねえんだよ!!」
保志崎の解説に、ツッコミが止まらない瞬。だが城田と真美は、ツッコミを入れる瞬を白い目で見ている。
解説を真面目に聞いている二人には、瞬のツッコミがノイズでしかないのだ。
「瞬よ、少し静かにできぬか?文字通り白い目で見てしまうぞ」
「誰が上手いこと言えと!!確かにお前目も含めて全身白いけども!!」
「ほんとだよ瞬くん。これ以上騒ぐと、私あのウマイとかいう星爆破させて隕石降らせるよ?」
「俺よりウマイが可哀想!!理不尽が過ぎますって!!」
騒ぐ三人が見えていないかのように、保志崎は解説を続ける。
『そしてハヤイとヤスイは恋に落ち、夜勤明けに度々逢瀬を繰り返すようになります。そんな二人を温かく見守っていたのが、ウマイでした。ウマイの手筈で二人は結婚することになり、豪勢な結婚式を挙げたのでした』
「おお、良い話ではないか。星座とはやはり、趣深いものであるな」
相変わらず真面目に解説を聞く城田は、星たちの物語に感銘を受けている。
『こうして三人は引き裂かれ、その悲しみから生まれたのがこの星座、「オヤコドン座」だと言われています』
「いやなんで引き裂かれたんだ!?不意打ち過ぎるぞ!!」
『単にタイミング悪く地方転勤が重なっただけです』
「なんだそのリアルな話!!こいつら星になったの割と最近の話だろ!!」
『オヤコドン座に文句があるのですか?』
「ありまくるわ!!そもそも星座の名前は絶対に「ギュウドン座」だろ!!なんで親子丼なんだよ!!」
はあはあと肩で息をする瞬。矢継ぎ早にツッコミを入れて、彼は疲れ果ててしまっていた。
「凄く素敵な話だね……!美しくて儚くて、涙が止まらないよ……」
「そうだな。我は滅多に感動などしないのだが、この話には感動したぞ」
「嘘だろ二人とも!?涙腺が緩すぎやしないかい!?」
涙を流す城田と真美を見て、瞬は驚愕の表情を浮かべる。
実際高校生である瞬がこんな夜勤と転勤の話を聞かされても、将来への不安が募るだけである。
『では、次の星座に移りましょう。西の空に輝く、四つの星が見えるでしょうか?これはそれぞれ、ヨコヅナ、オオゼキ、セキワケ、コムスビといいます』
「おお!相撲!?相撲だよね!?これはスモリストの血が騒ぐよ〜!!」
「さっきからマトモな星がねえな!?」
聞きなれた番付の名前が付いた星を見て、真美は大興奮だ。久々に相撲関連の話題が出て、今までで一番イキイキしている。
『この四つの星は、頂点を目指して戦った戦士です。戦う前には土俵に塩を撒き、邪気を払ったと言います』
「うんただの土俵入りだな!?」
「何言ってるの瞬くん!土俵入りが一番ワクワクするところなんだから!」
「先輩は黙ってて!!」
星たちにも負けず目を輝かせる真美と、呆れ返る瞬。そんな二人を迷惑そうに見ながら、城田は相変わらず真面目に解説を聞いている。
『大柄なヨコヅナと、小さなコムスビが戦った際、コムスビは土俵際ギリギリでヨコヅナを待ち、詰め寄って来たヨコヅナを、体を捻って土俵の外に出したそうです』
「うっちゃりだー!!最高の瞬間だよね!」
「先輩だけなんか違うもん見てません!?」
「おい二人とも、感動的な語りなのだから邪魔をするな。赤ワインが不味くなるだろう」
「こら酒飲むな!!ていうかお前せめて白ワイン飲めよ!!」
いつの間にかグラスを手にしていた城田が、二人の大騒ぎを注意する。
『こうしてうっちゃりが成立し、お互いの健闘を称えあった四人は、星になって「キックボクシング座」を形作りました』
「だからなんで「スモウ座」じゃねえんだよ!!」
「キックボクシングという技も、相撲にあるからな。我は知っているぞ」
「えそうなの!?私知らなかったんだけど!!悔しい〜!!」
「それはそうだろうな。我が今考えたからな」
「適当に喋んな!!」
『そしてこれが、アンドロメダ座です』
「唐突!!」
こうして、聞いたことの無い星座の解説は続いていった。




