第12話 遊園地の世界 その1
城田が少しドアを開けると、楽しげな音楽が漏れ出て来る。
「遊園地なんていつぶりだろ?物心ついてからは魔法の研究ばっかりだったからなあ」
「確かに先輩が遊園地にいるのは想像できないですね。行く相手がいなさそうですし」
「失礼だね瞬くん!?私だって友達ぐらいいるからね!?」
「だって先輩、その友達と相撲観戦ばっかり行くじゃないですか。遊園地なんて女子高生らしいところ行かないでしょ?」
「うっ……。それはそうだけど……」
瞬と真美が言い合っていると、城田が一旦ドアを閉めた。
「すまない、忘れ物をしてしまった。取りに行ってからでも良いか?」
「忘れ物……?城田に持ち物とかあったっけか?」
疑問に思う瞬を置いて、城田は先ほどまで乗っていた新幹線のところへ向かった。
そして数時間後、戻って来た城田が持っていたのは、八ツ橋の箱だった。
「おいついでに京都まで行ってきたなお前!?」
「お前たちにお土産だ。本場の味を体感するが良い」
「わーい!私八ツ橋って食べたこと無いんだよね!こんなとこで食べられるとおもってなかったからラッキー!」
呑気に喜ぶ真美を見て、瞬は呆れ果てる。2日待たされたことを覚えていないのか?とため息をつくが、瞬も小腹が空いていたところだったので、ありがたく受け取ることにした。
「じゃ、先輩。これは二人で分けましょうね?」
「おっけー!それで、城田さんまた薄くなってるけど大丈夫そ?」
「ああまたかよ!ミルク飴は……あれ?無い!」
瞬がポケットを探すが、あったはずのミルク飴が無くなっている。
真美が何か知らないか、と彼女の方を見ると、明後日の方向を向いて口笛を吹く真美の姿があった。
「先輩……?何か知ってますね?」
「え、え〜?まっさかー!私は何も知らないでごんすよ?」
「ごんす!?」
「レースの時に仲良くなったプリンセス風の人にあげちゃったとかそんなことは無いからね〜」
「あげちゃったのかよ!!え、ちょっとどうするんですか!城田消えちゃいますよ!?」
「すまない。我はどうやらここまでのようだ……」
城田の体がどんどん透明に近づいていく。城田が消えてしまうと、瞬と真美はレーシングゲームの世界に一生取り残されることになってしまう。
「ああもうめんどくせえ!」
瞬はスタート地点のチェッカー柄の白い部分をちぎり、城田の口に押し付けた。
「何をするのだ瞬よ。これは食べものではないぞ」
「そんなもんお前が食べられると思えば食べものになるだろ!いいから食え!」
「そんな理不尽な……」
瞬は手に力を込め、城田の口にチェッカー柄の白い部分を押し込んだ。
城田の喉がゴクリと鳴り、その体は元の白さに戻っていく。
「ふう。これで城田問題は解決だな。ていうかお前観光してる時に適当に白いもん買って来いよ!何呑気に八ツ橋だけ買ってんだよ!」
「流石に今のは物凄く不味かったぞ……」
「そりゃ地面だからな。白いもん買ってないお前が悪い」
恨みがましい目で瞬を見る城田。だが瞬に救われたことには違いない。諦めた城田は、再びドアノブに手をかけた。
「では、改めて遊園地の世界へ行くぞ」
「「おー!」」
城田がドアを開けると、三人の目の前には大きな観覧車やジェットコースター、お化け屋敷などがある、典型的な遊園地の景色が広がっていた。
「おおー!これは本当に遊園地だね!とりあえずお化け屋敷を23周するところからだね!」
「もうお化け側が飽きるだろそれ!」
「常連サービスでチェキとか撮ってくれないかな?」
「メイド喫茶か!!フレンドリーだなお化け!!」
早速お化け屋敷に向かおうとする真美を瞬が必死で止めていると、三人の元に近づいてくる大きな影があった。三人が振り向くと、黒いネズミのようなキャラクターが手を振っていた。
「やあ!君たちは新しいゲストかな?僕はこの世界のマスコットキャラクター、「ワイヤレスマウス」だよ!」
「マウス違い!!」
「今日は存分に楽しんで行ってね!もうお化けとチェキは撮ったかな?」
「本当に撮ってくれるのかよ!だからメイド喫茶かって!!」
「ねえワイヤレスマウスさん、この世界からはどうすれば出られるの?」
真美がワイヤレスマウスに尋ねる。するとワイヤレスマウスは悲しそうな表情になった。
「君たちはここから出ていきたいの?僕はずっといて欲しいよ?」
「いやそういうのいいから。で、どうやったら出られるの?」
「先輩ちょっとは相手してあげてくださいよ!!」
あっさりとワイヤレスマウスの演技を切り捨てた真美は、ショックを受けるワイヤレスマウスを気にすることなく質問を続けた。
「僕としては閉園時間までいて欲しいんだけどな……」
「あっ、じゃあもういいや。城田さん、ここではどうすればいいの?」
「先輩ドライ過ぎません!?」
悲しそうなワイヤレスマウスに、瞬はちょっとだけ同情した。
「この世界から出るには、ある体験型アトラクションをクリアする必要がある。それは所謂「宝探し」だ。地図に書かれた暗号を読み解き、宝物を見つけることができればクリアだ」
「なるほどね!じゃあその地図はどこにあるの?」
「面倒だから我が出してやろう。ほれ」
ボンっと煙が出て、城田の手に地図が出現する。
「よし!じゃあ早速始めたいところだけど……ねえワイヤレスマウスさん?あなたは宝探しをクリアしたらこの世界から出られるって知ってたんだよね?」
突如真美の矛先がワイヤレスマウスに向く。
「えっ?い、いや、そういうわけじゃ……」
「知ってたんだよね?」
「あ、はい……。知ってました……」
「じゃあ敢えて私たちにそれを教えなかったってことだよね?」
真美の表情は笑顔だが、全く目が笑っていない。真美に詰め寄られたワイヤレスマウスは、じりじりと後ずさりしている。
「な、何が言いたいのでしょうか……?」
「私たちは遊びに来てんじゃねえんだよ!!帰る為に仕方なく来てやってんだ!!次ここに残そうとしたらてめえどうなっても知らねえからな!!」
「ひ、ひいいいっ!!」
ワイヤレスマウスは真美の迫力に腰を抜かし、倒れ込んでしまった。
「よしっと!さ、瞬くん!とりあえずお化け屋敷に……」
「お化けよりあなたの方が怖いですが!?あと宝探しするんじゃなかったのかよ!!」
「良いではないか瞬よ。楽しむのも大事なことだ。我もお化け屋敷というものに興味があるぞ」
「うんお前もどっちかって言うとお化け寄りだけどな!?」
こうして三人の宝探しが始まった。




