第11話 レーシングゲームの世界 その2
三人がスタート地点に並ぶと、城田が再びロールスクリーンを開けて顔を出した。
「ではこれからレースの説明をするぞ。この世界はレーシングゲームの世界。アイテムを使った妨害や、バグを突いたショートカットなどなんでもありのルールだ。サーキットを3周すればゴール。その中で先着3位以内に誰かが入れば、この世界はクリアとなる。心してかかるのだぞ」
「良かった、1位限定とかじゃないんだね!それならなんとか入れるかも!」
「俺は無理なんで二人で頑張ってくださいね。とりあえずゴールまで体力が保つかどうか……」
諦めモードの瞬と、やる気満々の真美。対照的な二人だが、周りの参加者は真美にも負けないやる気を持っている。
既にエンジンを吹かし、スタートの合図を待つだけの状態だ。
真美も負けじとエンジンを吹かしていると、空中にカウントダウンの文字が浮かび上がった。
「わおもうスタート?わくわくするね!」
「俺だけやることが縛り持久走なんで、とりあえずゴールだけを目標に頑張りますよ……」
「後ろ向きなことを言うな、瞬よ。我はお前の舗店社瑠に期待しているぞ」
「ああもう無理に漢字変換しなくていいから!なんだその店舗が逆になってる気持ち悪い変換!」
城田と瞬が言い合っているうちに、カウントが1になる。
今まで言い合っていた二人にも緊張が走り、エンジン音だけが響き渡る。
唯一真面目にスタンバイしていた真美がゴクリと唾を飲み込むと同時に、カウントが0になった。
プアーン!!大きな音が鳴り、一斉にマシンが走り出す。
「行っくよー!!」
真美はスタートダッシュに成功し、先頭集団に入っている。
ちなみにスタート時点での先頭はかぼちゃの馬車ことスクワッシュダブルホース。真美の呪いが刻まれたレーシングカーは、その後ろにぴったりと張り付いている。
「おい城田!?どこ行くんだ!?」
缶ぽっくりに乗った瞬が最後尾となったが、城田が乗った新幹線はスタート地点と真逆の方向に走り出していた。
「しまった、行先の設定を間違えたようだ。切符代が勿体ないから新大阪までは行くが、それから戻って来て参戦するから安心しろ」
「馬鹿過ぎるだろ!!神なんだから新幹線ぐらい自在に操らんかい!!あとなんで新大阪まではちゃんと行くんだお前は!?」
「お土産は買って来てやろう。豚まんで良いか?」
「あれ車内に匂いが充満するから他ので……じゃなくて!!降りろ早く!!」
「すまない。切符代が貴重なのだ。水族館の世界でペンギンに渡した賄賂が痛かったぞ」
「財力も計画性も無いのかよ!!どうしようもねえな!?」
瞬が頑張って城田の相手をするが、新幹線はスピードを付けて去って行ってしまった。
「救いようがねえなあの神……。まあいいや、俺はとりあえずゴールを目指すか。でもこれ、走った方が速い気が……」
瞬の言う通り、缶ぽっくりでレースに参加するぐらいなら走った方が速い。
だが、このレーシングゲームの世界では何かマシンに乗らないとレースに参加できないのだ。そして、そのマシンでゴールしないとゲームは終わらない。
瞬に割り当てられたマシンは缶ぽっくり。つまり、瞬は缶ぽっくりに乗ってサーキットを3周しないと、永遠にレーシングゲームの世界に取り残されることになる。
「なんじゃそりゃ!?俺だけ違うゲームやってない!?」
『仕方ないであろう。我の力は、真美にレーシングカー、我に新幹線を割り当てた時点でほとんど残っていなかったのだ。我慢してくれ、瞬よ。あ、バニラアイスください』
「城田この野郎!!自分に新幹線なんか割り当てたからそうなるんだろ!てか車内販売買ってんじゃねえ!!」
瞬の脳内に、城田の声が響く。どうやら城田は、離れていても脳内に話しかけることはできるようだ。
『それと瞬よ、お前の缶ぽっくりには隠された機能があるぞ。今からその機能を解放する合言葉を教えるから良く聞kああ頭痛!!』
「アイスで頭痛くなってんじゃねえか!!神なのに!?ちょ、いいから早くその合言葉教えろ!!」
『せっかちだなお前は。しかし良いだろう、教えてやる。合言葉は、「メントスコーラ」だ』
「メントスコーラ……?嫌な予感が……」
瞬が城田の言葉を繰り返すと、足元の缶からシュワシュワと音がし出した。
次の瞬間、瞬の体は宙に舞っていた。
「あああああああ!!!飛んじゃった!!飛んじゃった!!」
『その缶には、我の特性強炭酸水「神キンソン」が仕込まれている。お前が「メントスコーラ」と唱えるとメントスが投入され、高速で飛行できるほどの勢いで吹き出すのだ』
「なんでコーラじゃなくて炭酸水なんだよ!!ああもう速すぎて先頭集団に追いつきそう!!」
瞬が下を見ると、真美がかぼちゃの馬車から降りてきたプリンセスっぽい何かに絡まれているところだった。
「ちょっと!あなたがぶつかって来たからガラスの靴が両足とも割れちゃったじゃないの!!」
「ええ〜、だって妨害ありって聞いてたから……」
「とにかく!!これじゃ王子様に見つけて貰えないでしょ!どうするのよ!!」
「うーん……じゃあ、私があなたの王子様になってあげる!」
「えっ///」
「なんか特殊な恋の始まりが見えた気がするけど抜かして行きますよ先輩!!もうツッコまないですからね!!」
手を取り合って踊り出すプリンセス的な何かと真美を置いて、瞬は空を駆ける。
そのまま瞬は炭酸が吹き出す缶ぽっくりで3周周り切り、ぶっちぎりの1位でゴール。
ゴールする頃には炭酸が抜けており、ちょうどゴールした瞬間に、瞬は地面に降り立った。
「な、なんか勝てた……!」
『見事だったぞ、瞬よ。我ももうすぐそちらに戻るから待っているのだ。新喜劇が始まるからもう少し待っていろ』
「おいなんばまで行ってんじゃねえか!!早く戻って来い!!」
大阪にいる城田に瞬がツッコミを入れていると、かぼちゃの馬車に乗ったプリンセスっぽい何かと真美がゴールインした。
「ああ真美……どうしてあなたは真美なの?」
「そりゃ両親が真美って名付けたからね!良い名前でしょ?」
「あなたのことを想うと、胸が苦しくなるわ」
「それは精神疾患の可能性があるね!良い病院を紹介してあげる!」
「先輩、全然噛み合ってないです」
瞬が声をかけると、真美は振り返った。
「あ、瞬くん速かったね!缶ぽっくりのポテンシャルを見たよ!1位おめでとう!」
「ああどうも……。まあこれでこの世界はクリアなんですけど、城田の奴が戻って来るのを待たないと出られないんですよね」
「そうだね……。とりあえず待とっか?」
城田がサーキットに戻って来たのは、それから2日後のことだった。
「おい2泊してんな!?もっと焦ってくれ!?」
「さあ次の世界に行くぞ。次は遊園地の世界だ」
「聞けって!!」
こうして三人は、レーシングゲームの世界を脱出することができたのだった。




