最終話 元の世界
「黄土色飛んで来たんだけど!!え、ちょ、どうしたらいいの!?」
央度の出した黄土色の光線に瞬は戸惑ってしまう。何もできず、ただオロオロとしているだけだ。
「これを食らったらお前は黄土色の像になる!ジ・エンドや!」
「嫌過ぎるんですけど!?せめて銅像とかにできねえの!?」
「ワイは黄土色の世界の神や。銅なんかできるわけないやろ!」
「終わった……俺は黄土色になっちゃうのか……」
瞬が絶望して下を向いた時、真っ白な影が瞬を覆った。
「やれやれ、手を焼かせるな瞬よ。これぐらい、我が止めてやろう」
そう言うと城田は瞬の方へ向かって右手を上げる。すると瞬の前に真っ白な壁が出現し、黄土色の光線を防いだ。
「城田!!助かった!!」
「うむ。その壁には光線を防ぐためにごま油が縫ってあるから気をつけるのだぞ」
「うわほんとだぬるぬるじゃねえか!!え光線ってごま油で防げんの!?」
瞬が壁の後ろでツッコミを入れていると、シロオリックスに乗った真美が央度の方へ駆けて行く。
「行っくよー!オラウータンパンチ!」
「ゴリラでしょ!!ややこしい技名やめてください!!」
真美のパンチは央度の腹にマトモに入り、央度はその場で膝を着いた。
「くっ……!なかなかやるやないか!でもワイはこんなんで諦めへんで……」
「なあ、お前本当に復讐したいだけなのかよ?」
瞬と真美はそれぞれ乗っていた動物から降り、央度の方へ歩き出した。
たった今殺されかけた相手に近寄り、瞬はまた同じ質問を繰り返す。
瞬はまだ信じているのだ。央度がただ城田にツッコミを入れたいだけの可能性を。
「そんなん……そんなん言われても!ワイは今更立ち止まれへんのや!城田を蹴落とすためだけに今まで耐えてきたのに、今更仲良くなんかできへん!引き下がれへんのや!」
「だってさ、城田。お前はどうなんだ?こいつは本音ではお前と仲良くしたいみたいだけど?」
話を振られた城田は布団から顔を出し、面倒くさそうに答える。
「おいお前いつの間に布団入ってんだよ!!ちょっと目離した隙に!!」
「我は特に敵を作りたいと思っていない。敢えて誰かと争う必要は無いからだ。争いが起きなければ平和。当たり前のことだ。我は何もしたくない。争いなど以ての外だ」
「城田……。ワイは、お前と仲良くしてもええんか?」
央度は不安そうな声で城田に尋ねる。
それに対して、城田はいつも通りのイラッとする声で返した。
「無論、仲良くする分には大歓迎であるぞ。我の仕事も手伝ってくれるのであろう?」
「城田……!お前はワイに対して敵意なんか無かったんやな……。すまんかった」
「いや最初から敵意はねえだろ!!謎の早口言葉言ってただけだぞこいつ!?」
「でもでも、ツッコミって大変なんだね!私いつもボケ側だから、瞬くんの苦労とか央度さんの葛藤とか考えたことなかったかも!勉強になったよ!帰ったらツッコミ参考書作るね!」
「そこまでしなくていいんですよ!!……まあ苦労が伝わればそれでいいんですけど」
央度は少し気まずそうに城田に近寄り、右手を差し出した。差し出された右手に思いっきり右ストレートをかました城田は、ついでに央度の左手にも右ストレートをかました。
「何してんだ!!握手しろよ!!」
「うん?ボクシングの練習ではなかったのか?」
「ちゃうわアホ!!誰がこのタイミングで素手でパンチ受けんねん!!」
「ねえねえ、私も殴っていい?なんか人を殴るの楽しくなってきたかも!」
「最終話でサイコパスになるのやめて貰えます!?とりあえず丸く収まったなら、俺たちを元の世界に帰してくれよ!」
「おお、そうであったな。ではこれが最後の世界移動だ。白いドアを出すぞ」
城田が右手を上げると、いつものように白いドアが出現する。
「これを開けるとお前たちの世界に繋がっている。さあ、帰るが良い。これで我ともお別れだ」
「城田さん……!もう白の世界に戻っちゃうの?私寂しいよ!芯だけのりんごを見た時のように!」
「例え合ってます!?そこまで哀愁無いでしょ!!」
涙ぐみながら話す真美に対し、城田は優しく微笑んで返す。
「प्रतिदिनं ३ अण्डानि यावत्」
「日本語で言えよ!!何て言ったんだよ!!」
「ああすまぬ。今のはサンスクリット語で『卵は1日3個まで』と言っていたぞ」
「今言うことじゃねえよ!!最後までバカ全開だなお前!!」
気の抜けてしまった瞬と、涙を流す真美。対照的な二人は、ドアノブに手をかけて白いドアを開けた。
「じゃーねー!城田さん、央度さん、仲良くね!犬と猿のように!」
「仲良くねえ!!……まあ、元気でやれよ。もう会うことはねえと思うけど」
「うむ。我は我でまた白の世界で何もせず生きていくぞ」
「なんかせえよお前は!!まあなんや、自分ら悪かったな邪魔して。帰ったらゆっくり休んでくれや」
「ああ、じゃあな!城田、央度!」
「ばいばーい!」
こうして瞬と真美は、元の世界へと帰って行った。
そして瞬と真美が出た先は、青い海が広がる白い砂浜。後ろにある民家には、シーサーが置いてあるようだ。
「……おい沖縄じゃねえか!!遠い!!遠いって!!」
「わお!綺麗な海だね!まるでゴキブリの背中のよう!」
「それ海の世界でも言ってましたよね!?城田あの野郎、適当に出るとこ設定しやがったな!!え、どうやって帰ればいいんだ……?」
瞬が絶望して頭を抱えている中、真美だけは楽観的だ。
「だいじょーぶだよ瞬くん!私が転移魔法で家まで送ってあげる!」
「おお!それは助かります!……本当にできるんですよね?」
「うん!できると思うよ!じゃー行くよー!タイショウタヌキウドンニニンマエネ!」
真美がどこからか取り出した杖を掲げ、呪文を唱えると、二人の周りが強い光を放つ。
「おお!成功したっぽいですね!でもなんか光強くないですか!?」
「わお!そーだね!まあ多分日本のどこかには出ると思うよ!」
「全然信用できねえ!!あ、なんか吸い込まれる……」
瞬と真美は強い光に吸い込まれ、転移を開始した。
「……いててて。あれ?瞬くんがいない!どうしよう!瞬くんが消えちゃった!」
「先輩踏んでます!!降りてください!!ていうか一回着地してから改めて乗ってきませんでした!?」
「わお!そーだっけ?……それにしてもここって……」
二人が辺りを見渡すと、そこは何も無い真っ白な世界。そして、聞き慣れた声が聞こえて来る。
「お前たち、何をしているのだ?我もたった今帰って来たところだが、もうお前たちがいるとは……。さては旅行だな?」
「そんなわけあるか!!ああ、この声が聞こえるってことは……」
「うん!白の世界に帰って来ちゃったみたい!」
「何してくれてんですか!!いや元はと言えば城田が沖縄に放り出したせいだけど!!」
城田は二人に近寄り、右手を上げて白いドアを出す。
「仕方ない、また我が同行してやる。この神が送り届けようではないか」
「わーい!また色んな世界巡るんだよね?楽しみー!」
「え?まじでまた旅やり直しなの?」
「うむ。次はじゃんけんの世界だ。新たなじゃんけんチャンピオンが誕生しているようだぞ」
「よーし!私頑張っちゃうよー!」
「もういいよ!!」
城田はドアノブに手をかけて、じゃんけんの世界への扉を開いた。その口元は、ほんの微かに笑みを浮かべていた。
これにて完結です!もしここまで到達した猛者がいらっしゃれば、ぜひどの話が面白かったとか、どのやり取りで笑ったとか、このキャラが好きですとか教えてもらえるととっても喜びます!
改めて、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!




