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99.逢魔



《ヴァジュラSide》


 キリエの元を去った、白澤はくたくのヴァジュラ。

 彼女は森の中をひとりで歩く。


 キリエに保護してもらおうとして、失敗した。

 だというのに、彼女はさほど気にした様子も無く、スタスタと歩いていた。


 まるで、こうなることが予想できたかのようだった。


「いるんだろう、出てきなよ」


 ヴァジュラがそういうと、木の陰から、黒装束の集団が現れた。

 その中のひとり……。


 黒い外套に、銀のアクセサリーをつけた男が現れる。


「サーティーンくん、だったっけ。いい加減しつこいね君も」


 サーティーンと呼ばれた男は、にやりと笑う。


「それがおれっちの使命だからよぉ! ひゃっはー!」


 サーティーンの腕には、XⅢという入れ墨が彫られている。


「使命、ね」

「ああ! てめえを捕らえればよぉ! 【逢魔オーマ】様にほめられっからよぉお! ひゃっはー!」

逢魔オーマ……ねえ」


 このヤバそうな男が、ヴァジュラを狙う13使徒がひとり、サーティーン。

 そしてサーティーンを含めた13人を束ねるのが、【逢魔】と呼ばれる存在だ。

「だからって僕を殺したらまずいんじゃないかい? 逢魔くんはさぞご立腹になられるんじゃあ?」

「そこら辺もんだいなっしん! 逢魔様がほっしてるのはあんたの目だからね」


 サーティーンがヴァジュラの目を指さす。

 今はアイマスクで隠れているが……。


「【未来予知】の魔眼。その目玉は、我らが魔王のために使われるべきだ」


 そう……逢魔とは、魔王種のひとりだ。

 だが屍魔王メドゥーサや、聖魔王キリエとちがって、魔王と名乗っていない。

 自分だけが、魔王を超越する王。

 

 魔王達の、王。

 他の魔王たちとは異なる存在。

 だから逢魔となのっているのだ。


「逢魔様はおまえを13使徒に加えてやると慈悲をかけて下さった。だというのに、貴様はその提案に乗らなかった。逢魔さまがせっかく……せっかく……てめえのこと、気にかけて下さったっつーのによぉおおおおおおおお!」


 サーティーンの体から莫大な量の魔力があふれ出す。

 こういう展開になることは、未来予知できていた。


 ヴァジュラの持つスキルは、文字通り未来をあらかじめ知っておくことができる。

 しかし万能というわけではない。


 未来を知ったからと言って、回避できるとは限らないからだ。

 知っただけでは未来は変えられない。


 変えるための力が必要。

 だから……キリエを頼ったのだが。


「今なら、土下座で許してやるよ。土下座しろヴァジュラ。そーすりゃ、てめえが逢魔様の提案を拒んだことは水に流してやるよ」


 サーティーンはこういいたいのだ。

 ここで服従か、死か、選べと。


「…………」


 服従したら、死ぬまで働かされる。そのうえで、目玉をくりぬかれて死ぬだろう。

 ……どっちにしろ、彼女が今見える未来では、自分は死んでいる。


 ならば……。

【確率の低い未来】に、かけてみることにした。


 ヴァジュラは胸の谷間から呪符をとり出す。

 それを見て……にぃい……とサーティーンが笑う。


「いいぜえ……おれも今は戦いてえって思ってたところだ。ちょいと遊んでやるよ」


 逢魔オーマの配下、サーティーンと、聖魔王の元配下、ヴァジュラ。

 ふたりの魔王の部下が、激突する。

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