98.か弱きものに手を差して
白澤のヴァジュラさんの呪いを解いたわたし。
「さあ、用事は済んだろう。さっさと帰るがいい、ヴァジュラ」
チャトゥラさんはうなり声を上げながら、ヴァジュラさんをにらみつける。
「そんな……お友達でしょう? 冷たい言い方はやめましょ?」
「キリエ様……しかしこやつはですね、エレソン様を……」
「殺した。でも、わたしはそうは思わないわ」
実際にエレソン様を殺した場面を見たわけじゃないわたしは、どうしても、ヴァジュラさんを悪人と捉えることができないのだ。
ヴァジュラさんは少し真面目なトーンで言う。
「帰りたいのはやまやまなんだけど、ちょっと面倒ごとに巻き込まれててね」
「面倒ごと……?」
「ああ。ちょっと追われてるのさ。13使徒の連中に」
「13……使徒……なんかさっきも言ってたわねそれ」
するとマーテルさんがわたしの前に立つ。
「つまりおぬしは、13使徒から身を守るため、保護して欲しい。そういいたいのじゃな?」
「ぴんぽーん。その通り。さすが年長者、話が早くて助かるよ」
すると……。
バッ……! とフェンリル姿になったチャトゥラさんが、ヴァジュラさんに飛びかかる!
「駄目!」
「やめな」
がしっ!
どがん!
くま子さんがチャトゥラさんの首根っこを摘まむと、そのまま地面にたたきつけた……!
「ありがとう……でも、くま子さんも駄目でしょっ暴力は!」
「犬にしつけは必要さ。それに、止めなきゃチャトゥラは、マジでそこの白澤女のクビをかみ切っていたさね」
……もう。
どうして、みんな仲良くできないのかしら……。
みんな、同じ魔物なのに……。
『姉ちゃん泣かないでっ!』
「え……? あ……」
くま吉君に指摘されて、わたしは泣いてることに気づいた。
だって……魔物同士で争うから……。
『姉ちゃんおいらをもふもふしていいよっ。少し楽になるよっ!』
……そうね。
わたしはくま吉君のお言葉に甘えて、もふっ……と彼の体に抱きつく。
……もふもふ。
もふもふ。落ち着く……。
「すみません……キリエ様……」
チャトゥラさんは人間の姿になって、正座をして、頭を垂れる。
「あなた様を、泣かせるつもりは毛頭、ございません……」
わかってる。
チャトゥラさんだって、優しい人なんだって。
わたしたち森の民のため、守ろうとしての行動なんだって。
「……じゃあ、仲良くして」
「…………………………善処します」
凄くいやそうにしてた。
やっぱり禍根が残ってるのね、二人の間に。
「そんで、ヴァジュラ。あんたの追われてるっていう、その13使徒っつーのはなんなんだい?」
くま子さんが尋ねる。
するとヴァジュラさんは頭をかいたあと……。
「やっぱ、なしで」
「はぁ!? なんだいなしって」
「いやぁ、どうやら思った以上に僕、嫌われてたみたいでさ。だから、僕は帰るよ」
ひらひら、とヴァジュラさんが手を振る。
そんな……帰るだなんて……。
「じゃあ、その13使徒はどうするの?」
「ま、何とかなるさ」
「なんとかって……」
でもこの人、その13使徒ってひとたちに、呪いをかけられてたのだ。
明日には死ぬ呪いをだ。
わたしたちに頼ってきた、ヴァジュラさん。
多分カノジョは帰りたくなかったのだろう。
チャトゥラさんたちと、ケンカわかれしたみたいだし。
……それでもここにきたってことは、それほどまでに追い詰められてたんだわ。
「ごめんね。キリエちゃん」
すっ、としゃがみ込んで、わたしの涙を指で掬う。
「君を泣かせるつもりは無かったんだ。ごめんね」
「ヴァジュラさん……」
その声にはどこか、優しさが含まれてるようだった。
「じゃね~」
「あ、ま、待って……!」
わたしが止める間もなく、彼女は懐からクリスタルを取り出す。
確かアレは……。
「転移結晶!」
「そう。じゃあね」
ぱきんっ、とヴァジュラさんが転移結晶を砕くと、その場から消えてしまった。
たしか……転移の魔法が付与された結晶だわ。
「…………」
この場から転移して、いなくなったヴァジュラさん。
ふぅ……とチャトゥラさんは安堵の息をつく。
「これで一安心ですね。さあ、みんな、持ち場に戻りましょう」
「駄目!」
「き、キリエ様……?」
わたしは声を荒らげていた。
「駄目よ! みんな、ヴァジュラさんを探して! わんこさん!」
すっ、と雷狼のわんこさんが現れる。
「彼女を探して! 大至急!」
『御意!』
わんこさんが仲間の大灰狼たちを引き連れて、去って行く。
チャトゥラさんはわたしに言う。
「キリエ様……追いかけるのですか?」
「はい。あの方をここに置きます」
「……厄介ごとを抱えることになったとしても?」
「はい」
わたしはまっすぐにチャトゥラさんを見やる。
彼の瞳には、憤りのようなものが見えた。
多分わたしがあまりにきかん坊だからだろう。
でも……
「わたしは、危険にさらされてる仲間を、ほっとけない」
チャトゥラさん、アニラさん、そしてマーテルさん。
残りの聖十二支さんたちは、やっぱりどこか不服そうだ。
厄介者が出て行ったのだから、そのままにしておけと、言いたいのだろう。
でも……わたしにはできない。
目の前で困ってる人に、手を差し伸べないのは。
神さまがわたしに、そうしてくれたように。
「わたしは……悲鳴すら上げられない、か弱き者の味方でいたいの」
チャトゥラさんが長い沈黙のあと、はあ……とため息をついた。
くま子さんがぽん、とチャトゥラさんの肩を叩く。
「わかったよ。キリエ、あんたの意思を尊重する。ヴァジュラを見つけ、そしてうちで保護。それでいいだろ、リーダー?」
「……しかた、ありませんね。わかりました」
よし、方針が固まったわ。
すぐに、ヴァジュラさんを助けに行かないと!
【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】
良ければブックマークや評価を頂けると嬉しいです!
現時点でも構いませんので、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると幸いです!
ポイントが入ると、更新を続けていくモチベーションが上がります!
よろしくお願いします!




