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96.白澤のヴァジュラ



 わたしたちの森に、白澤はくたくのヴァジュラさんがやってきた。

 ヴァジュラさんは、白髪の巨乳美人。


 極東の和装? みたいな服装を、着崩してる。

 結構露出過多で、横乳ががっつりみえてるし、背中なんてぱっくりと開いてる。


 わ、わ、わぁ……は、ハレンチ!


 場所は、旧楽園デッドエンドに移る。

 

「へえ……! 凄いじゃあないか。昔よりかなり栄えてるねえ」


 ヴァジュラさんは、ガンコジーさんたちドワーフさんの技術力により、発展した村を見て言う。

 素直に感心してるようだ。


 顔半分を布面で隠してて、表情はわかりにくいけど。

 みんなが協力して作った村を褒めてくれて、わたしは嬉しかった。


 それに……悪い人には思えないのよね。

 まあ、ヴァジュラさん、白澤はくたくっていう魔物みたいだけど。

 ややあって。


 わたしと聖十二支デーバのみなさん、そして魔物さんたちは、わたしの住居である教会へとやってきた。


「あの……みんな……暑い……」


 わたしの周りにはたくさんの魔物さんたちがいる。

 くま吉君たちをはじめとした、子供の魔物さんたちはわたしにくっついてる。


 聖十二支デーバの皆さん+世界樹マーテルさんは、ヴァジュラさんとわたしの間に立って、壁役となっている。


「そんなに警戒しなくても、別に君たちの大事なキリエちゃんには手を出さないよぅ」

「ヴァジュラ貴様! ちゃんづけとは不敬だぞ! キリエ様だ! もしくは、キリエ神と呼べ!!!!!!」


 チャトゥラさんが文字通り牙を剥いて吠える。

 ええと……キリエ神は間違いなんだけど……。


 チャトゥラさんをはじめとした、聖十二支デーバのみなさんは、みんないきり立っているようだ。

 尻尾や毛を逆立てている。


「あの……みなさん。そんな目の敵にしないで。ヴァジュラさんはお客さんじゃない」

「そうそう、ボクは客人であって、別に刺客じゃあないんだ。茶の一杯くらい出したらどうだい? 気が利かないねえ犬っころのくせに」


 ぎりりり……とチャトゥラさんが歯がみする。

 ううん、仲悪そう……。心苦しいわ。


 人同士が争うのは……。

 ふんっ、とアニラさんが鼻息を着くと、口火を切った。


「で? 牛、てめぇよぉ……何をしに来やがった? 聖十二支デーバの裏切り者がよぉ」


 それだ。


「あの、裏切り者って……ヴァジュラさんは何かしたの?」

 

 すると人間の女性姿のアニラさんが、ヴァジュラを指さす。


「こいつのせいで、エレソンは死んだ」

「! エレソン……様が……?」


 前の聖魔王にして、この森の主、エレソン・イノリ様。

 わたしの遠いご先祖様。


 アニラさん、チャトゥラさんは、聖十二支デーバといって、エレソン様から直接、名前をもらった魔物達。

 ヴァジュラさんも、多分エレソン様が生きていた頃に、チャトゥラさん達と同様に生きていたのだろう。


 そして、名前をもらった……いわば、ヴァジュラもエレソン様の友達、だったはず。

 なのに……殺した……?


「本当なの、ヴァジュラさん?」


 するとヴァジュラさんはニヤリと笑って、言う。


「そうだよ。ボクが殺した」


 実にあっさりと、ヴァジュラさんは言う。

 躊躇うそぶりは、一切無かった。


 目は隠されていてわからなかったけど……。

 そこには、罪を悔いてる様子も、感じられない。

 

 わたしは教会に勤めるシスターのお手伝いをしたことがある。

 シスターたちの仕事に、信者達の懺悔を聞いてあげることもはいってる。


 多くの罪人を見てきたからこそ、わかる。

 ヴァジュラさんは……人を殺してない。


「どうしてそんな嘘つくの……?」


 思わず聞いてしまった。

 チャトゥラさんとアニラさん、そしてマーテルさんは目を剥いていた。


「嘘……?」


 ヴァジュラさんの声に、動揺がまじる。

 このとき初めて、わたしはこの人の、人らしい反応を見たとおもう。


「……どうして君は、嘘だと思うんだい?」


 また薄笑いを浮かべながら、ヴァジュラさんが聞いてくる。

 でも最初にあったときとちがって、どこか、取り繕ってる感じがした。


 動揺を悟られないように、隠してる……そんな気がした。


 でも……どうしてって言われても、ムズカシイ。

 

「直感よ」

「勘……ね」

「うん。わたしには……大切なお友達を、悪意を持って殺したとは、思えない」


 なんで、と言われても明確な答えは用意できない。

 でもこの方の心は、人殺しをしたにしては、綺麗な気がする。


「恐れながら、キリエ様。ご発言をよろしいでしょうか」


 チャトゥラさんがわたしの前に跪いて言う。

 そんなかしこまらなくてもいのに……。

「どうしたの?」

「そこの女は、確かにエレソン様を殺しております。手をかけたのを……私は、この目でハッキリと見ました」

「!」


 ……現場を見ていた、の?

 わたしはヴァジュラさんを見る。

 

 彼女は……また、薄ら笑いを浮かべる。 でもなんでだろう……。


 わたしには、それは本当の心を隠すための仮面に思えた。

 布面で顔を隠してるけど、そういういみじゃあなくて。


 その態度が、本当の心を、包み隠してるように思えてしまう。


「……だとしても、わたしは彼女を悪人とみなしません」

「で、ですが……」

「わたしは、人から聞いた情報だけで、その人を判断するようなことはしたくないわ」


 わたしはチャトゥラの横を通って……。

 ヴァジュラさんの前に立つ。


 みんながいきり立っているのがわかる。

 多分、ヴァジュラさんを相当警戒してるのだ。

 

 そして、わたしの身を案じてくれる。

 ありがとう、みんな。


 でも大丈夫だと思う。


「ちゃんと、あいさつしてなかったわね。わたしはキリエ。キリエ・イノリです。二代目聖魔王よ」


 わたしはヴァジュラさんに手を出す。

 彼女はガシガシ、と頭をかく。


「……ああ、君は、えっちゃんに本当に似てるね」

「え?」


 本当に小さくて、何を言ってるのかわからなかったけど……。

 すぐにまたヴァジュラさんは、薄ら笑いを浮かべて、わたしの手を握る。


「初めまして、元・聖十二支デーバがひとり、白澤はくたくのヴァジュラさ。よろしくね」

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[気になる点] アニラってずっと封印されてて先代死んだのも知らなかったのになんで牛が殺したって知ってるの?犬から聞いた?
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