95.新たなる来訪者
奈落の森の長老、樹木王さんが進化して世界樹に、そしてマーテルさんという名前になった。
「キリエ様! 御無事でしょうか!」
チャトゥラさんをはじめとした、聖十二支の皆さんがやってきた。
あれ、でも驚いていない様子。
「大丈夫よ。でも、どうしてわたしがここにいるってわかったの?」
「騒動あるところに、キリエあり、さね」
聖十二支とともに、実質的なリーダーのくま子さんもやってきていた。
いやいや……。
「騒動あるところになんて……わたしそんな毎回騒動起こしてないでしょ?」
「……周りにきいてごらんよ」
わたしはくま吉くんを見る。
「ねえ、くま吉くん。わたし、騒動起こしてないよね?」
『あはは! 姉ちゃん面白い冗談言うね!』
面白い冗談!?
い、いや……本気なんだけど……。
「ね、ねえぐーちゃん、スラちゃん。わたし……騒動なんて起こさない、よね?」
『ぴゅい! ギャグだね!』『おもろーい』
そんな……ギャグ扱いだなんて……
わたしはいたって真剣なのに……。
「カイ・パゴスのとき、急にいなくなったでしょ、あんた」
「うう、すみません……」
やらかしてるつもりはないのだけど、どうやら周りをびっくりさせちゃうみたいだわ、わたし。
き、気を付けよう。
もう絶対、勝手にいなくならないし、騒動も起こさないわ、絶対の絶対に!
「で、今度はなにやったんだい?」
わたしはあったことを説明した。
「神の力と名づけによって、世界樹に進化……全くキリエは、半端ないね」
「さすがでございます、キリエ様! やはりすごい! みな、拍手しろ! 拍手だ!」
チャトゥラさんだけがぱちぱちと拍手する。
マーテルさんを含めて、みんな結構深刻な顔をしていた。
「どうしたの?」
そのときである。
「このままじゃあ、ここの資源をめぐって争いが起きるからねぇ」
わたしの目の前に、白髪の美女が、突如として出現したのだ。
「だ、誰だ貴様ぁ!!!!!」
チャトゥラさんがいきなり、爪で切りかかる。
その女性は……ひょいっと避けて見せた。
「おや、チャトゥラくん。ボクを忘れてしまったのかい?」
「忘れるものか、その顔! そのにたついた、むかつく顔は!」
……チャトゥラさんを、くんづけで呼んだ。
知り合いなのかしら。
「離れやがれ、てめえはよぉ!」「キリエ様から離れなさいですわ」「……殺す」
聖十二支のみんなが一斉に攻撃してくる。
でも、その人はひょいひょいっと避けて見せた。
「す、すごい……あの人、なんで避けられるの……?」
その白髪の女性は、明らかに目が見えていない。
なぜなら目を、布で覆っているからだ。
布面で顔の半分くらいを隠している。
布が透けてる様子はない。
でも、まるですべてを見通してるかのように、彼らの攻撃を避けていた……って!
「だめでしょ! ケンカしちゃ、めっ!」
どぉ! とアニラさんたちが吹っ飛んでいく!
え、ええとぉ……
なんで?
自ら吹っ飛んだの?
「ははっ、今代の聖魔王さまは、やっぱり規格外のようだ。めっ、て言葉に言霊を込め、強制的に下位のものを従わせるなんてね」
白髪、目隠しなお姉さんは、にまにまと口元を緩ませながらいう。
「やっぱりって、わたしのこと知ってるの?」
「いいや、知らないよ。でも知ってる」
「ど、どっち?」
すると白髪の女性は頭を下げる。
「お初にお目にかかるよ。ボクは聖十二支が1匹、牛神将【ヴァジュラ】。種族は白澤」
「ヴァジュラ……さん。は、白澤って?」
するとマーテルさんがわたしを庇うかのように、前に出て言う。
「未来を見通す力を持った、瑞獣じゃ」
「おや、樹木王、随分と可愛い姿になったね」
「貴様はあいもかわらず、憎たらしい見た目をしておるな、ヴァジュラよ」
ヴァジュラさんは、聖十二支だからか、ふたりは知り合いみたいね。
でもチャトゥラさん同様に、あんまりいい感情を抱いてないみたい。
「どうして? 仲間じゃないの?」
するとマーテルさんは首を振っていう。
「ヴァジュラは、裏切り者じゃ」
「う、裏切り?」
「うむ、わしら森の民を裏切り、ここを出て行ったのじゃ」
そう言われても、ヴァジュラさんは否定せず、微笑んでいた。
いったい、何をしたって言うのかしら。




