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84.光あるものを憎む



腐姫くさりひめSide》


 腐姫は魔王になる前、醜い魔物だった。


『きもいんだよー!』『ちかづくな!』『きゃー! あっちいってー!』


 ……腐姫は自らの醜さを呪った。

 なんでこんな体で産まれてきてしまったのだろうと。


 人から疎まれ、さげすまれ、践まれ、馬鹿にされ……。

 腐姫は人を、周りの存在を憎むようになった。


 特にムカついたのは、生まれつき美しいものたち。整った容姿をしてるものたち。


『わたくしは……こんなに頑張っても、綺麗になれないのに……。あいつらは生まれ持って美しい……ずるい……不平等だ……! ずるい……ずるい……!』


 腐姫の中に負の感情がたまっていく。

 他者を恨み、妬み……そのたびカノジョの中に何か黒いものがたまっていくのがわかった。


 ずるい……ずるい……ずるい……

 妬ましい、羨ましい、妬ましい。


『そんなに欲しいなら、奪っちゃえばいいんじゃないかな?』


 あるとき森の中で、腐姫は魔王と出会った。

 その魔王はとても美しい見た目をしていた。


『うば……う……?』

『そう、奪えば良い。この世は弱肉強食。ならば弱いものを食らって、自分のものにしてしまえばいいのさ』


 魔王は近づいてきて、つん……と腐姫の醜い体に触れる。


『さわ……らないで。ぬめぬめで……気持ち悪いでしょ?』

『そう? 僕は君みたいなの好きだよ』

『……わたくしは、きらい。おまえは、綺麗すぎる』

『あっは~。きらいかー。久しく言われたことなかったなぁ。面白い!』


 にぃ……と魔王は笑って、腐姫に言う。

『君に名前を授けよう』

『なまえ……?』

『そう。名前。この世界において、名前を持つことは重要な意味合いを持つ。強者から名前をもらえば、強く進化することができる』

『しんか……』

『そう、君は醜い化け物から、美しく強い存在へと進化するんだ……どうだい?』


 是非もなかった。

 腐姫はその魔王から名前をもらって進化した。

 

『君は最強の不死の化け物。腐姫。この世のありとあらゆる光あるものを汚し、腐らせるんだ』


 実に楽しそうに、その魔王は言う。


『自分以外の全てを腐らせてごらん? そうすれば、君が最も美しく、輝かしい存在になれるよ』


 その言葉は、呪いだった。

 腐姫が胸に秘めていた黒い感情を増幅させ……。

 

 さらなる進化をもたらし、腐姫は魔王種へと存在進化した。

 その後、この世にあるものを全て、不死の化け物へと変えて行くべく邁進した。

 光あるものを濁らせ、生ある命を冒涜し続けた。

 やがて自分が最も美しい存在となるために。


 ……だが。

 そんな腐姫の前に、一人の心の美しい女が現れた。


 キリエ・イノリ。

 聖魔王を名乗る人間。


 あいつはナニもしてない。

 何の努力もせず、たくさんの魔物やドワーフたちから好かれている。


 それが気に食わない。

 こっちはこんなに辛い思いで、ようやく魔王に進化できたというのに。


 気に食わない……うらめしい……羨ましい……。

 だからキリエを倒して、汚して、穢してしまおうとおもった。


 だが……駄目だった。

 なぜか知らないが、あの女は自分より強い力を持っている。


 なんでだ、どうして。

 こっちはこんなに苦労しているのに。


 どうして勝てないのだ。

 なんで……あんな小娘ごときに……。


 腐姫はとうとう、自分の体を捧げた。

 美しく進化した体を供物に捧げ、神を世に下ろしたというのに……。


 それでも……勝てない……。


『きりええぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!』


 全ての光ある存在が憎い。

 自分にないものを持っている存在が妬ましい。


 だから……。

 自分の全身全霊をもってして、あの光の神を……。


『ドロドロに、ぐちゃぐちゃに、穢してやる……!』

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