77.トロルたちを復活させる、髪の話
わたしはトロルのデッカーちゃんのお父さんをたすけ、さらに取り付いていた悪霊をこの世に受肉させることに成功した。
「我ら!」「キリエ神聖騎士団!」「キリエ神をお守りいたす!」
アトスさんたち三ばか……こほん、三人がそんな風に言う。
神聖騎士団って……。
「誰を護るの?」
「「「キリエ神!」」」
「だから……もうっ、わたしは神さまじゃないのっ!」
「「「いやいやそんな謙遜なさらず」」」
「謙遜じゃない!」
まあ、もういいわ。
「話聞かない頑固な人って厄介ね」
「「「…………」」」
「え、なに?」
魔物さん、デッカーちゃん達が微妙な顔をしていた。
え、え、なに?
「が、ガンコジーさん……どういう視線これ?」
「あ、いや……と、ところでトロルのやつに、事情を聞いてみてはどうかの!」
……うーん。はぐらかされた。
まあいいわ。確かに今は事情を聞く方が先決ね。
『……姉ちゃんも頑固だよね』
「……うむ、相当な」
『……いくら神さまじゃ無くてキリエ姉ちゃんのおかげっていっても信じないもん』
「……それじゃ。話を聞かない頑固者っておまえが言うなってはなしじゃったな」
うんうん、とうなずき合うくま吉君とガンコジーさん。
ううーん、仲良し!
「で、キョシーンさん。お話聞かせていただけますか」
「ああ……実は、われらの集落に、腐姫のやつがきてな」
腐姫……。
魔王種のひとりで、死霊術をつかって、このカイ・パゴスを支配してる、悪い人のこと。
「やつらは軍門に降れといってきた。さもなくば皆殺しにすると」
「…………」
なんて、理不尽。なんて酷い人なのかしら……。
「おとうちゃん……それって……」
デッカーちゃんが何か察したような顔をする。
キョシーンさんは頭をボリボリとかく。
「どうしたの?」
「おら……前におとうちゃんに家を追い出されたんだべ。突然。ドワーフとおまえ付き合ってるんだろうって……そんなの部族として認められぬと」
「突然って……まさか」
気まずそうに、キョシーンさんがそっぽを向く。
「単なる偶然だ」
……そんなわけがない。
多分、キョシーンさんはデッカーちゃんを逃がしたんだわ。
腐姫から、デッカーちゃんを護るために……。
「いいお父さんね」
「うわわわーん! おとうちゃんごめーん!」
涙を流すデッカーちゃんの頭を、キョシーンさんが片手で優しくなでる。
「だが、われは別にそこのドワーフを認めたわけじゃない。そこは勘違いするなよ」
うーん、ほんとかしら?
もうとっくに認めてるんじゃ?
娘をガンコジーさんに託したって解釈もできるし。
「ところで、腐姫がきたあとどうなったの?」
「仲間のトロルを率いて抗戦した。だがわれらでは不死の軍勢に敵わなかった。やつはわれだけを残し、あとは……皆殺しにした」
「むごいことを……」
というか、なんでキョシーンさんだけは残したんだろう……?
いや、待てよ。
「キョシーンさんって名持ち魔物ですよね」
「ああ。かつて魔王種のかたから、名前をもらった」
なるほど……。
キョシーンさんを残したのは、名持ちを手駒にしたかったからね。
あとは名前を持たぬトロルたちは、どうでもいいって……ことか。
なんて酷いことを……。
「仲間のトロルさんたちの魂は……?」
「そこらを漂っていると思う。無理矢理殺されて、さぞ無念だったろうからな」
さっきのアトスさんたち、神聖騎士のひとたちを見て……。
魂を受肉させることが、できた。
なら、やることは一つだ。
「キョシーンさん、皆さんのもとへ連れてって。わたしが……なんとかします」
「! なんとかって……まさか!」
「ええ、魂を浄化し、受肉させます」
「おお! なんと……お礼を言っていいことやら!」
お礼なんていらないわ。
わたしが、ううん、神がそうするべきだと言ってるのだ。
「さっそく案内しよう」
わたしたちはキョシーンさんに先導されて、マナカ湖から離れた林の中へとやってきた。
すでに肉体は一つもなかった。
「不死の軍勢の奴らが、トロルの肉を食っていってしまったな……」
「…………」
つくづく、度しがたい人たちだわ。
まあ、今は怒りをちょっと我慢して……。
「みなさん、聞こえますか?」
わたしは、その場にいる魂達に語りかける。
すると……。
ボッ……!
『なにあの、青白い炎っ!?』
「くま吉君、あれが、トロルの霊魂よ」
『ひょええー……れいこん……れんこん?』
魂ね。
「この魂を取り込み、髪の毛を依り代にすれば、アトスさんたちみたいにこの世に復活できるはずだわ」
「おお! それは、ありがたい!」
髪の毛をむしり取るの、ちょっとやだけど……。
まあ、10本とかそこらなら……。
そのときである。
ボッ……!
「え?」
ぼぼぼぼっ!
「ちょっと……?」
ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ……
「どれだけいるのっ!」
霊魂の数は、ざっと……甘く見積もって……200……いや、300はいる、かしら。
「と、トロルって大所帯なのね……」
「各地で街を作るドワーフとちがって、一カ所に固まって集落を作っているからな」
「そ、そう……」
300……300本、かあぁ……
髪の毛、さ、三百本……。
「キリエ様! やっぱむちゃだべ! キリエ様のふわふわとした可愛い御髪を、300本もむしり取るなんて! ハゲになっちゃうべ!」
「いやハゲにはならないと思うけど……」
でも、ちょっと躊躇っちゃうわ……。
いや、が、がまんよ!
人命が……かかってるんですもの!
「嬢ちゃん、わしに任せてくれないか」
「ガンコジーさん? 任せろって?」
「髪の毛を増やす。1本だけもらえないか?」
増やす……。
そんなことが、できるのかしら?
まあでも、ガンコジーさんはすごいドワーフさんだし、できるでしょう。
わたしは1本髪の毛をぬいて、ガンコジーさんに渡す。
彼は懐からスタンプを取り出す。
「そのスタンプは?」
「複製のスタンプ。魔道具じゃ」
「複製……まさか!」
ガンコジーさんは魔道具のスタンプを、わたしの髪の毛にポム……と押す。
すると……。
うぞぞぞぞぞぞぞ……!!!!!
『わー! キリエ姉ちゃんの髪の毛が、増えるわかめみたいになった!』
すごいわ!
ガンコジーさんの魔道具のおかげで、髪の毛が増えた!
「これなら……みんな! おいで!」
トロルたちに語りかける。
彼らが、わたしの髪の毛のなかに吸い込まれていった。
あとは祈るだけ。
神さま、どうか、彼らをこの世に受肉させたまえ……。
カッ……! と光の波動を感じると……。
「うぉ!」「い、いきかえった!」「す、すごい……!」
死んだはずのトロルさんたちが、みんな生き返ったわ!
よかった……。
「ありがとう! キリエ神よ……!」
キョシーンさんが膝をついて、何度も頭を下げてくる。
「仲間をこの世に呼びもどしてくださって……!」
「ううん、わたしの力じゃ無いわ。ガンコジーさん……そこのドワーフさんの力よ」
彼がいなかったら、わたしは今頃ハゲってたし……。
するとキョシーンさんが、ガンコジーさんに近づく。
「感謝する、ドワーフの民よ。それと……今まで君たちを、見下して……すまなかった」
ぺこり……と頭を下げるキョシーンさん。
それをみて、他のトロルさんたちも頭を下げる。
ガンコジーさんは頭をかきながら、
「ま、連れの家族は、身内みたいなもんじゃ」
「が、ガンコジー!!!! ちゅーーーきっ!」
デッカーちゃんがガンコジーさんに抱きつく。
まんざらでもなさそうなガンコジーさん。
その様子を、トロルたちが温かい目で見守っている。
うんうん、一件落着ね。
まあ……あとは、腐姫、あの外道に、説法をしてあげないと。
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