76.英霊召喚
カイ・パゴスにて、デッカーちゃんのお父さん、キョシーンさんの呪いを解いた。
その直後のこと。
『姐さん! まだ敵がおりますぜ!』
雷狼のわんこちゃんが叫ぶ。
空中に靄のようなものが集合していき……。
それは、複数体の鎧武者となった。
あれが……悪霊。
この世に未練を残していった人たち。
『うらめえしぃいいいいいいいい』『ころさせろぉおおおおお!』『もっと、もっとぉおおおおおおおおお!』
3人の鎧武者達がこちらに向かって襲いかかってくる。
「このものは殺させぬ……!」
キョシーンさんが拳を振る。
風を切る強烈な一撃……。
だがそれは悪霊に当たることなくからぶる。
それどころか……。
「うぎゃぁあああああああああ!」
「おとーちゃんっ!」
キョシーンさんがその場に転がって苦悶の表情を浮かべる。
いけない……!
わたしはノアール神に祈りを捧げる。
すると直ぐに呪いは解ける……。
「厄介じゃの……悪霊の攻撃はくらい、こちらから悪霊には攻撃を与えることができぬ……まあ実体がないからしょうがないとはいえ」
ドワーフのガンコジーさんが悪霊をにらみつけながら言う。
カノジョのお父さんを痛めつけられたのだ、怒って当然だろう。
「キリエ嬢ちゃん、ファルシオンを使うのじゃ」
「ファルシオン……って、さっき拾った、ノアール神の剣のこと?」
「そうじゃ。聖剣ファルシオンは万物を斬る。たとえ相手が実体のないものであってもな」
……なるほど。
ノアール神様の剣ならば、悪霊をきり、祓うことができる……と。
『だすね』
げろ、とスラちゃんが口からファルシオンを吐き出す。
わたしはそれを手に取って、悪霊たちの前に立つ。
『うらめしぃいいいいいいいいい』『ころさせろぉおおおお』『もっとぉおおおおおおおおおおお!』
わたしはファルシオンを手に取って構える。
すると刃が神々しい輝きを発した。
「ファルシオンは持ち主の魔力をうけ、強化するのじゃ! さぁ振るのじゃ! そして敵を切り払うがよい!」
わたしは聖剣を持ち上げて……。
「スラちゃん、食べて」
『はーい』
ばくん、とスラちゃんの口の中に戻す。
「なんじゃとぉおおおおお!? なぜ戻す!?」
「剣なんて、危ないでしょ?」
「あぶないじゃとぉ!?」
わたしは両手を広げて、悪霊……ううん、霊たちに語りかける。
「何か言いたいことがあるなら、聞いてあげます。わたしはキリエ、神に仕える女。あなたたちを苦しみから救ってあげられるのなら、この体を好きになさい」
『姉ちゃん! あぶねーよ! 逃げないと!』
わたしは振り返って言う。
「わたしは逃げないわ。あの人達も何か事情があるはず。聞いてあげたいの」
この世に未練があるということは、それだけ辛い何かがあったってこと。
誰かに話すだけで、少しは楽になれると思う。
「さ……おいで」
『う、うおおぉおお!』
幽霊さんたちがわたしの体に入っていく。
がくん……とわたしの体の力が抜ける
。
「ああそんな……キリエの嬢ちゃんが、悪霊に体を乗っ取られてしまった!」
「キリエ様……! どうすればいいんだべ……」
そして……。
『う、ううう……』
わたし……というか、わたしに取り付いた幽霊さんたちが涙を流し出した。
『おれたちのことを嫌がらずに居てくれたの、あんたがはじめてだ』『怖がらずに話を聞いてくれたのはあんただけだ……』『悪霊に体を自ら明け渡すなんて……おれらを信じてくれたってことだろぉ……』
すぅ……とわたしの体から幽霊さんたちが出てくる。
みんな……泣いていたわ。
「大丈夫なのか……おぬし……?」
キョシーンさんがわたしに尋ねてくる。
「ええ、大丈夫」
わたしは取り付いたあの一瞬、別の空間に居たような感覚に陥った。
多分精神世界だったのだろう。
そこでわたしはこの三人の剣士たちの話を聞いてあげたのだ。
「信じられぬ……取り付かれると憎悪に支配されて、自我を失うというのに……平然となさっている。あなたは……神か?」
また……勘違いされてるわ!
キョシーンさんに、ちゃんと言っとかないと。
「いいえ、わたしはただの神の使いです。さ……霊さんたち、安らかにお眠りください」
わたしは彼らのために祈る。
どうか次の生では、楽しく、平和に暮らせますように……と。
そのときだ。
びょぉお……と一陣の風が吹く。
「「「えええええええええええええええええええええええええ!?」」」
どうしたのかしら……?
目を開けると……信じられない光景が目に映った。
三人の、剣士さんが……そこにいたのだ。
さっきの幽霊の!
「ふぁ!?」
どういうこと!?
「え、え、な、何が起きたの……?」
すると近くで見ていたガンコジーさんが驚愕の表情を浮かべながら言う。
「じょ、嬢ちゃんの……髪の毛が、変改したのだ」
「は!? か、髪の毛……?」
「うむ。嬢ちゃんが祈ったとき、風が吹いた。そのとき、髪の毛が空中をただよい、それが光り輝いた瞬間、そこには剣士達が現れたと言うことだ」
どういうことなの!?
「し、信じられない……肉体だ……! 体がある!」
「体が動いてる! なんで!?」
幽霊さん……ううん、元幽霊さんたちが戸惑っている。
けどわたしにもわからない……!
「おそらくじゃが……受肉したのじゃろう」
「受肉……?」
「こんな話を聞いたことがある。昔呪いのアイテム……呪物というものがあった。それを取り込んだ人間は、その呪いに体を支配されたと。それを受肉という」
はあ……。
だからどういうことだろう?
「おそらくじゃが……キリエ嬢ちゃんに取り付いた幽霊が、嬢ちゃんの髪の毛を依り代に、この世に顕現したのじゃろう」
「か、髪の毛を、依り代に!?」
「神の髪の毛じゃ。魂を定着させ、この世に再び降臨させることも可能なのじゃろう」
わけが……わからないわ!
え、なに? 何が起きてるの!?
その剣士たちは、わたしの前に跪く。
「おれはアトスと申します」「わたしはアラミス」「ぼくはポルトス」
はあ……。
ん? なんか、どっかで聞いたことあるような……名前のような……。
「伝説の剣士様!? 大昔邪竜を討伐したって言う……あの!?」
アトスって、そうだ、竜殺しの三剣士さまのひとりだわ!
そんな英雄がどうして……?
「われら邪竜討伐にむかうも、依頼主である姫を救えなかったことがあった。その無念が我らを地上に縛り付けていたのです……」
な、なるほど……?
「キリエ様のおかげで、無念が晴れました。そして、今からあなた様に、我らアトスたち、三剣士、お仕えいたします!」
……え、ええっと……。
ど、どうしてこうなった……?
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