75.死霊術
湖を渡り、わたしたちは湖の向こう側へと到着した。
しばらく歩くと森があって、そこに……。
「おとーちゃんっ!」
ひとりの大きな男がいた。
大きく脂肪がたっぷりと蓄えられた姿。
あれがトロル。そしてあれがデッカーちゃんのお父さんか。
彼女は父親が無事だと確認できて、泣き出すほど安堵してる。
わたしも友達が喜んでいてうれしい……のだけど。
……なんだろう、どうにも嫌な感じがする。胸騒ぎというか。
「う……ぐう……」
「おとーちゃん? どうしたの?」
今のデッカーちゃんは人間と同じサイズをしている(超人っていう上位種に進化してるから)。
お父さんは彼女より遥かに大きい。
「うぐ……が……に……」
「に?」
「げ……うぉえおろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「おとーちゃん……?」
お父さんは足を振り上げると、そのまま踏み潰そうとしてきた!
「ぐーちゃん!」
『ぴゅいー!』
ぐーちゃんがバッ……! と飛び出す。 超高速で飛翔すると、デッカーちゃんの襟首をつかんで、その場から離脱。
ずずぅん……という大きな音とともに地面が揺れる。
さっきまでデッカーちゃんが立っていた場所に大きな穴ができていた。
『あぶねえ……あんなのに踏み潰されたら、死んじゃうじゃん!』
「あいつひどい! 娘ころそーとした! あたちぶちころす!」
くま吉くんと妹鬼のひいろちゃんが憤る。
わたしは二人をなだめる。
何か様子がおかしかったからだ。
ぐーちゃんがバサバサとちょうど戻ってくる。
「ありがとう、ぐーちゃん」
「おとうちゃん……どうして……?」
「多分……あの人、呪われてるわ」
「呪い……?」
わたしは樹木王さんの力、鑑定スキルを使用する。
■キョシーン
種族 トロル
状態 死霊化の呪い
どうやらデッカーちゃんのお父さん、キョシーンさんっていうらしい。
「やっぱり、お父さん、死霊化の呪いにかかっているわ」
「な、なんだべそれ……」
■死霊化の呪い(S)
他者に死霊の魂を無理矢理憑依させ、体の自由を奪う呪い。
死霊の魂を肉体から引き剥がすと、宿主は廃人となる。
「そんな……」
スキルで読み取った情報を共有すると、デッカーちゃんが膝をつく。
「おとうちゃん……死んじゃったんだ……」
「いいえ、生きてるわ。ただ、悪霊に取り憑かれてるだけよ」
わたしは彼女の肩を叩く。
か弱き人の涙を、見過ごせないわ。
わたしには苦難を乗り越える力が、神さまから与えられている。
この力を正しく人のために使い、皆を笑顔にすること。
それが、わたしが神から与えられた使命。
「浄化は得意だから」
「大丈夫なんかい、嬢ちゃん?」
「ええ、くま吉君、力貸してね」
こくん、とくま吉君がうなずく。
わたしたちは二人で、キョシーンさんの元へむかう。
「ぢ……がづく……なぁああああああああああああああああああ!」
キョシーンさんが襲いかかってきた。
くま吉君がわたしの前に立つ。
『キリエ姉ちゃんには、指一本触れさせないぜ……!』
キョシーンさんを正面から受け止めるくま吉君。
さすが魔物、凄いパワーだわ。
トロルに負けていない!
そのまま……頼むわよ!
「神さま……どうかデッカーちゃんのお父さんと、そして……迷える魂を鎮めたまえ!」
わたしは神に祈った。
暖かな光を感じる。
「これは……う……うぉおお!」
わたしが目を開けると……。
そこには、正気に戻った顔をした、キョシーンさんがいた。
「おっとーちゃーーーーん!」
「おまえ……ふげっ!」
デッカーちゃんがお父さんに抱きついて涙を流している。
「おとうちゃんっ! よかったよぅう!」
「おまえ……どうして……? その姿……?」
「キリエ様に名前をもらったんだべ。今はデッカーっていうんだべ」
そういえば、最初デッカーちゃんは名前無しの魔物だったんだっけ。
あれ、キョシーンさんって名前があった?
じゃあ、名持ち《ネームド》の魔物だったのかしらね。
「ありがとう……キリエ様!」
デッカーちゃんが笑顔でお礼を言う。
うん、それを見れて、わたしとしては満足だわ。
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