60.ナンデこいつここにおんねん
《腐姫Side》
一方、魔王のひとり、腐姫はというと……。
カイ・パゴスの王都、カイの街を占拠していた。
王城を乗っ取り、玉座に君臨する腐姫。
彼女の手には人間の頭蓋骨が握られていた。
脳天はくりぬかれて、その中には人間の血液がなみなみとつがれている。
「ふふん……奈落の森の攻略も順調そうね」
腐姫の足下には無数の骸骨が落ちており、その目の部分から光が照射されている。
光は空中に映像を映し出していた。
それは配下の死霊たちが見た光景。
腐姫は現在、最も新しき魔王、聖魔王キリエ・イノリを殺すべく、彼女の領地である奈落の森に攻め入っていた。
「なかなか強いメンツがそろってるようだけど、わたくしの不死の軍勢のほうが強いわ。なにせ、こっちは疲れ知らずのアンデッドなんだしね……ふふふ」
死霊と生き物の最大の違いとは、疲労の有無だ。
死んでいる者は疲れを知らず、24時間休息を必要とせず働ける。
一方、奈落の森の連中は生物だ。
休息は絶対必要となる。
「不死の軍勢による波状攻撃。ふふ……さぁて、いつ陥落するかしらねえ……楽しみだわ、キリエ・イノリぃ」
とそのときだった。
骸骨の鳥が1羽とんできて、腐姫の肩の上に載る。
かたかた……と鳥がくちばしをうごかして、彼女に現状を報告する……。
「んなあ!? なんですって!? 聖魔王のやつが、カイ・パゴスに!?」
驚きの新事実が発覚した。
てっきり、奈落の森に居ると思われた、キリエ・イノリ。
彼女が今、この腐姫のいるカイ・パゴスに、きているというのだ。
「奇襲ってこと……? いや、でもどうやって向こうは、わたくしがここにいると知ったんだ……? いつの間にか間者でも放っていた……? なかなか狡猾なやつじゃないの」
まあ、狡猾とかじゃなくて、単にこまっている人のもとへ、転移した結果、腐姫の治める場所だったってだけなのだが……。
人とは疑問に対して勝手に答えを用意してしまう。
そして、たいていの場合、的外れのことが多い。
「ふん……良いわ。単身乗り込んでくるとは良い度胸じゃないの。奇策でこのわたくしを仕留めるつもりだったのでしょうけど、それを知られた時点で愚策へと成り下がるのよ」
にんまり、と腐姫が笑う。
「敵地に単身乗り込むなんてお馬鹿さん。袋だたきにしてやるわ……!」




