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50.職人と黄金の手



 わたしは神のお導きで、氷の国カイ・パゴスへと召喚された。

 そこで巨人族のデッカーちゃん、山小人ドワーフのガンコジーさんと出会った。


「ガンコジー! 病気が治ってほんとーによかったべ~~~~~~~~~~~~~~~♡」


 デッカーちゃんはうれしさのあまりガンコジーさんにくっつく。

 元々巨人だったけど、今は……人間? の姿になっている。


 桃色の髪に、豊満なバスト。

 女のわたしでも思わず目線が釘付けになってしまうわ。


「こ、こら貴様デッカー! そんなはしたない格好でひっつくな!」


 ガンコジーさんの顔が真っ赤になっている。

 それもそうね、デッカーちゃん今、体にぼろ布巻き付けてるだけだもの。


「え? きゃー! 今気づいたべー! はずいべー!」


 ばばっ、とデッカーちゃんが顔を真っ赤にしてしゃがみ込む。

 ガンコジーさんは「ふんっ」とそっぽ向くと、羽織っていた上着を、デッカーちゃんにかける。


「これでもきておれ」

「ガンコジー~……♡ はう……好き……♡」


 ガンコジーさん、悪い山小人ドワーフじゃないみたい。

 ふふ。


 それに顔を赤くして、青春ね~。

 デッカーちゃんはガンコジーさんの上着を着る。


 ……でも、正直ピッチピチだったわ。

 しかも下半身はまるだしだし……ひゃあ。


 わたしは懐から祈祷書を取り出して、ページを開く。

 アイテムボックスから、予備のワンピースを取り出した。


「デッカーちゃん、これを着て、その上から上着を……」

「なんじゃとぉ!」


 ガンコジーさんが近づいてきて、わたしの祈祷書に触れる。


「きゃっ、ど、どうしたの?」

「こ、これはアイテムボックス!? 超レアなスキルではないか!」

「そ、そうなの?」

「そうじゃ! すごい……病気を治すほどの治癒術だけで無く、アイテムボックスまで持っているなんて……」


 よ、よくわからないけど……。


「これはわたしの友達の力よ」


 わたしは祈祷書の説明をする。

 友達になった魔物のスキルを、この本を持っていれば再現できるのだ。


 その説明を聞いたガンコジーさんは、愕然となる。


「どうしたんだべ、ガンコジー?」

「……デッカー。おまえさん、とんでもない存在を連れてきたようだぞ」

「そうなんだべ?」

「ああ……コピースキルに完全なる治癒。その二つを持ってるとなると……」


 ガンコジーさんが居住まいを正し、わたしの前で跪く。


「あなたが神でございましたか」

「違います」


 秒で否定しました。

 当たり前! わたしは神じゃない、神に仕える女なのっ。


 神を名乗るなんて恐れ多いわ……!


「ははあ、どうりで美しい女性だと思ったべ。ははぁ~神さま~」

「だからそれやめて……」


 するとガンコジーさんが神妙な顔つきで、わたしにお願い事をする。


「神さま」

「キリエです」

「キリエ神さま、どうか、わしの願いを聞いてくれないじゃろうか?」


 願い……?

 どうしたのかしら。


 こまっている人は、ほっとけないし、話を聞いてみることにしましょう。


「どうしたの?」

「うむ……実は、わしの父は八宝斎はっぽうさいという、凄腕の職人じゃったのだ」

「はっぽうさい……?」


 なんだろう、極東にたしかそんな料理があると聞いたことがあるわ。

 でも料理じゃ無くて、称号? 屋号? みたい。


八宝斎はっぽうさいは代々、受け継がれる屋号なんだべ。ガンコジーは山小人ドワーフの国じゃ、そりゃあもうすんごい職人! だったんだべ」

「だった……?」


 なぜ過去形なのかしら?


八宝斎はっぽうさいとなるものは、特別な【手】を持つとされておるのじゃ」

「【黄金の手】って言うんだべ」


 黄金の手……。


「わしの父は黄金の手を持っておった。その息子であり、次代の八宝斎はっぽうさいであるわしにも、発現する……はずじゃったのじゃ」


 どうやら、その黄金の手っていうのは、特別な物作りスキルを兼ねた手……才能のことを言うらしい。


「わしらの一族は、大昔から八宝斎はっぽうさいの屋号を、代々継承してきた。そして右手に黄金の手を発現させたタイミングで、世代交代という風にしておったのじゃ」

「生まれつき、黄金の手を持ってるってわけじゃないのね?」

「うむ……ある程度、職人としての経験を積まねば、このスキルは発現せぬのだ」


 この世界の人間は、生まれつきスキルを持っている。

 けれど後天的に身につける場合も多々あるのだ。


「あれ、でもお父さんから屋号を継いだってことは……ガンコジーさんにも黄金の手が発現したってことでしょう?」

「いや……父は死んだ。わしが、黄金の手を発現させる前にな」


 ガンコジーさんが自分の右手の甲をさすりながら、悔しそうにつぶやく。

 

「わしが未熟だから……」

「そんなことねーべ! ガンコジーはすごい職人だべ!」


 デッカーちゃんは強く否定する。

 でも彼の表情は晴れない。


「いや、何かが足りないんじゃ……だから、いくら鍛えてもこの手に黄金の手があらわれない……」


 なんとなく、話が見えてきたわ。


「キリエ神様。どうか、わしを導いてくださいませんか」

「ようするに、黄金の手がほしいのね」

「はい。そのために必要な、なんでもいいです、助言などをいただけたらと……」


 助言っていわれても……。

 わたしは単なる神の使徒だから。


 できることっていえば、神にお祈りするだけだわ。

 そうね、彼の手を見ればわかるわ。


 手はタコまみれ。

 それに体調を崩してでも、まだハンマーを持っていた。


 彼は、それだけ頑張ってきたってことだわ、職人として。

 そんな彼の努力を、神さまはきっと見ていてくださるわ。


「手を、拝借しても?」

「うむ……」


 わたしは彼の右手をつつみこみ、祈りを捧げる。

 偉大なる我らがノアール神さま、どうか、この努力家の山小人ドワーフさんに、望む力をお与えください……。


 神にそう祈りを捧げた、そのときだ。


「! 背中から翼が!?」

「やっぱりキリエちゃんは神さまなんだべー!」


 ……神の光を体に感じる。

 そして、目を開けると……。


「お、おおお! ある! わしの右手に……黄金の手が!」


 ガンコジーさんの右手の甲に、太陽の紋章が刻まれていた。

 じわ……と彼は目に涙をためると、その場でひざまづいて、深々と頭を下げてきた。


「ありがとうございます、キリエ神さま! わしの願いを聞き遂げてくださって!」

「ありがとうだべ! キリエ神様!」


 だ、だからぁ~。

 わたしじゃないんだってば、これやったの~。


「わたしは何もしてないわ。だから、神に感謝しましょうね」

「「はい! ありがとう、キリエ神様!」」


 ああだからもう違うんだってば……。

 そのうち、ノアール神さまに怒られちゃうわ……あわわわ……どうしよう……。


「ぴゅいい! キリエおねえちゃん、かんちがい、おもしろっ!」


 ぐーちゃんが、ケタケタ笑いながら、そう言うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノアール神は喜んでいることでしょう。『この調子で俺の仕事を減らしてくれ!』っとw [一言] この調子で、神になってもずっと自覚無いままですかねw
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