45.キリエ神、信者が増えて超強化(なお無自覚)
わたしたちの仲間に、鬼姉妹の美緋羅さんと緋色ちゃんが加わった。
美緋羅のすごい剣術を見せてもらった後……。
「ちょっとくまきちー! なぁにこれ!」
わたしたちは、樹木王さんの本体近くまでやってきた。
妹鬼の緋色ちゃんが、歓喜の雄たけびを上げる(女の子だけども)。
『ふふふ、ひいろ。びっくりしたろ、美味すぎてこれ!』
「うん! やばいこれ! ちょーうまー!」
『なー! うめーよなー!』
くま吉くんと緋色ちゃんは、一緒に木の実を手に持っている。
それは特別な木のみで、食べ物果実という。
ふたをパカっとひらくと、中にはシチューをはじめとした、美味しい料理が入っているのだ。
神様が我ら森の民に恵んでくださった、美味しいご飯である。
『すげーだろー? これ、キリエ姉ちゃんが作ったんだぜ?』
「えー! すごぉい! おねえちゃんすっごーい!」
緋色ちゃんが無邪気な笑みを向けてくる。
わたしは首を振るって言う。
「いいえ緋色ちゃん。この食べ物果実は、神様がお恵みくださったものです。神に感謝しながら食べましょうね」
きょとん、と緋色ちゃんが目を点にしているわ。
いきなり神って言われてもわからないのかもね。幼いもの。
するとくま吉くんが、ぼしょぼしょ、と緋色ちゃんに耳打ち。
なるほど! と緋色ちゃんは得心が行ったようにうなずいて、手を合わせる。
「キリエ神さま、おいしいごはん、ありがとー!」
「うんうん……うん? 緋色ちゃん? 神様の名前が違うわ」
するとくま吉くんが神妙な顔つきでうなずく。
『ひいろ、これからご飯食べるときは、そうやってキリエ姉ちゃんに感謝するんだぜ?』
「わかったー! くまきちー!」
う、ううーん……また勘違いされてるわ。
ま、まあ……ノアール神も、子供の間違いは許してくださる……わよね?
うん、あのお方は慈悲深いお方だったと聞くし。
神話によると、ある日、火山亀という恐ろしい魔物が暴れたとき、無辜の民をすくうため、神の炎で焼き払ったというし。
そして金銭など受け取らず、颯爽と去って行ったそうだわ。
ああ、すごい、お優しい人……。
「くまきちー、おねえちゃんお空を見上げて何ブツブツいってるのー?」
『姉ちゃんたまにああなるんだ。天の神さまっていう、空想上の存在と話してるんだってさ』
「へー? おねえちゃんちょっと頭がもがもが……」
『ひいろ、それ以上は言っちゃあいけないね』
くま吉君が、緋色ちゃんを後ろから抱きしめている。
「きゃははっ♡ くまきちってもっふもふだねー!」
ぼふっ、とくま吉君のことを正面から抱きしめる。
『へへっ。なんか、妹ができたみたいだぜ。おいら、一人っ子だからよぅ。うれしいなぁ』
あらあら、二人とも仲が良いわ。
……しかし、あんな風に無邪気に笑っている、緋色ちゃんが、アニラさんと同じく、魔王種となる才能を秘めてるなんて……。
そのときだった。
「! キリエ様! 上空に敵影です!」
耳の良いフェンリルのチャトゥラさんが、ぴくっぴくっ、と耳を動かしながら言う。
でも……おかしいわ。
「敵なんて見えないわよ?」
空には暗雲が広がっているだけだわ。
今にも雨が降り出しそう。
森のみんなは雨が苦手。
屋根のある家がないからしょうがないわ。
「あの雲の向こうに敵が……キリエ様?」
どうかノアール神様。
雨を降らさないでくださいませ。
『キリエ姉ちゃんの背中から、でっけえ翼が!』
『ぴゅいいぃ! しかも、いつもより大きい!』
『でけー』
ああ、神を背後に感じるわ。
いつも以上に、強く……。
「お、おいおいチャトゥラ。こりゃあやべえんじゃねーか? キリエの翼がなんかこう、めっちゃくちゃ光ってるんだけど!?」
「皆のもの、伏せなさい……!!!」
神の力が、より一層感じられた。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!!!!
『『『ビームだぁー! すっげー!』』』
「翼から無数の光の束が!」
「空に向かって飛んでいくぜ!?」
……やがて、わたしは目を開ける。
そこには……さっきまであった暗雲が、綺麗さっぱり消えていたわ。
「ほっ……良かった。ノアール神様は、願いを届けてくれたのね。みんなが雨に濡れて震えないように」
ああ、やっぱりノアール神様は素晴らしいわ。
くるんっ、とわたしはその場で回って、背後を見やる。
……すると、魔物さん達がみんな、唖然とした表情でわたしを見てる。
「どうしたの?」
「キリエ……あんた、ちょっと見ない間に、とんでもないことになってないかい? 兵器かと思ったよ!」
くま子さん(人間の姿)がツッコミを入れる。
へいき……?
『キリエ姉ちゃんすっげー! 翼からこう、びこーって!』
『ぴゅいい! まるでビームの雨!』
『すげー』
翼?
ビーム……?
たしか、わたしが祈っている間、翼的なものが展開してるって聞いたことがあるけど……。
でも、ビーム?
何を言ってるのかしら……?
首をかしげるわたしをよそに、くま子さんが、樹木王さんに尋ねる。
「樹木王よ、ありゃあいったい? キリエはどうしてあんな化け物になっちまったんだい!?」
『ううむ……おそらく、信者が増えたからじゃろう』
「信者が増えた? だから強くなるってのかい?」
『うむ。神とは信じるものが増えることで、その力を増すと聞いたことがあるのじゃ』
「なるほど……美緋羅たちが増えて、信者が増えたから……か」
アニラさんが首を振る。
「そんだけじゃねえ。多分魔王種である、あのちび鬼を配下に加えたことも原因だろう。キリエは配下に魔王種二匹、己自身も合わせると、その体の中に三匹分の魔王種の力が宿ってんだ。そりゃ、空を覆う雲と化け物を、瞬殺できるだろーぜ」
……そういわれても、何一つ理解できなかったわ。
まあただ……雨が降ったら、みんながこまるから、そろそろ建物とか欲しいなって思ったのだった。
「しかし雲の向こうにいたはずの化け物、いったい何者だったのでしょうか?」
「ま、おおかた、ほかの魔王の連中だろうよ。キリエっていう新参の、ちょーすげぇ魔王が現れたんだ。むかついてちょっかい出しに来たんじゃね?」
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