表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/196

28.温泉に入っただけで魔物を進化させてた



《キリエSide》


 わたしは初代聖魔王エレソン様の霊と会って、魂の一部をもらい、声を出せるようになった。

 エレソン様のご意志を受け継いだわたしは、より一層、この森の主として頑張ろうと思ったところだ。


 さて……決意したのはいいのだけど……。


「……お風呂に入りたい」


 わたしがいるのは、旧楽園デッドエンド

 教会の中にいるのだけども……。


 ここの教会、お風呂が無いのよね。

 王都にいるときは毎日湯浴みができていたのだけど、森へ追放された後は、水で濡らしたタオルで、体をふくことで我慢していた。


 けれど……もう限界。

 獣人国ネログーマで久方ぶりのお風呂に入ってから……わたしは、お風呂を我慢できなくなった。


「お風呂がほしいわ。でもわたし、そんなの作る知識も技術もないし……」


 と、そのときだった。


『やっほー姉ちゃん!』『やほー』『ぴゅーい!』


 教会のまどから顔を覗かせたのは、くま吉くん、スラちゃん、そしてグリフォン子供のぐーちゃん。

 この三匹は仲がいいので、たいてい、一緒にいる。


「こんにちは。どうしたの?」

『うぉー! まじだ! まじでしゃべれるようになったんだねー!』


 ああ、そうだった。

 わたしがしゃべれるようになったこと、まだみんなに報告してなかったわ。


 チャトゥラさんとアニラさんだけ知ってる。


「ええ、エレソン様のおかげで、こうしてまたしゃべれるようになったわ」


 エレソン様と、引き合わせてくださった神様に感謝だ。


『姉ちゃんの声、きれいだぜ! な!』『うつくしーい』『ぴゅるるう~♪』

「ふふふ、ありがとう三人とも」


 あ、そうだわ。

 

「ねえぐーちゃん。お母さん呼んでもらえる?」

「ぴゅーい!」


 ぐーちゃんが鳴き声を上げる。

 ばっさばっさ、と翼をうつ音がしたので、教会の外に出ると……。


 立派なグリフォンが華麗に、地上へと舞い降りた。

 彼女はシンドゥーラさん。


 チャトゥラさん、アニラさんと同じ、聖十二支デーバっていう、高位の魔物の一匹だ。


『お呼びですのっ? キリエ様!』

「ええ、ちょっと知ってたら教えてほしいことが……」

『はふぅ……♡』


 と、心地よさそうに目を細めるシンドゥーラさん。

 え、な、なにかしら……?


『本当に、心地よいお声ですわ……♡ うっとりしてしまいます♡』

『ぴゅいいい! ね! ままんもそうおもうよねー! ぴゅい!』

『ええ、素晴らしいお声ですわ♡ もう24時間、365日間聞いていたいくらい……女神様のささやき声のようですわ!』


 そんな……大げさな。

 それに恐れ多いわ。わたしごとき神の下僕が、神様に匹敵する声のもちぬしなんて。


『それでキリエ様、用事とは?』

「この近くで、お風呂に入れるようなところあるかしら?」

『お風呂……』

「温かい水たまりみたいな」

『ありますわ!』

「じゃあ、そこまで案内してもらえる?」

『OKですわー!』


 ということで、シンドゥーラさんに、お風呂は入れそうな場所を教えてもらうことにした。

 温泉くらいあればいいかなぁって思っていたのだけど……。


『ここですわ!』

「これは……沼?」


 どう考えても、沼だ。

 しかもポコポコ……と粘性の泡が、表面にいくつも浮いてる。


 動物の骨が、沼の上に浮いていた。


『ままん、ここはさすがに……』

『あ、あれ? おかしいですわね。昔は大浴場だったんですわよここ』


 エレソン様が生きていた時代の話かしら。

 聖十二支のかたたちは、長生きだって聞くし。


「大浴場が今では完全に毒沼になってますね。もったいない……」

『入りたかったなー、お風呂』『すらもー』『ぴゅうう……』

『こうなってしまっては、仕方有りませんわ……』


 魔物のみんなも、がっかりしてる。

 ううん……あ、でもいけるかも。


 昔大浴場だったのなら、毒を取り除けば、また前のようなお風呂になるかもだわ。

 ……神様、どうか、魔物さんたちが仲良くお風呂に入れるように、浄化の力をお貸しください。


 そのときだった。

 パァアアア……! と強い聖なる力を、近くに感じる。


『『『でえええええええええええええ! なんこれぇええええええええええ!?』』』


 目を開けると、そこには汚かった沼はもうなかった。

 綺麗な温泉に早変わりだわ。


「ふぅ……これでよし! みんなで仲良く……どうしたの?」


 みんなが、驚いてるわ。

 しかもわたし……というかわたしの背中を凝視してるような……。


『ね、姉ちゃん……! やばい!』『やばいー』『すごいー!』

『ああ、お美しいですわ……!』

「み、みんなやめてよ照れるじゃない……」


 わたしが綺麗だって。

 まあ褒めてくれるのはうれしいけど、そんなたいした容姿してないわよ。


『あ、きえちゃった』『きえたー』

『ままん、きれいだったね!』『ええ、本当に美しい、やっぱりキリエ様は天の神さまなのですわ!』


 ……いまいち何を言ってるのかさっぱりだったけど。

 まあいいわ。


「じゃ、みんなでお風呂入りましょ」

『『『わっふーい!』』』


 わたしは衣服を脱いで、くま吉くん、スラちゃん、ぐーちゃん、そしてシンドゥーラさんと、みんなで露天風呂につかる。


『キリエ様、くま吉は良かったのですの? 雄ですわ』

「まあでも、まだ年齢的に小さな子供だし、ひとりだけ仲間はずれはかわいそうでしょう?」

『なるほど……! さすがキリエ神様ですわ! なんと慈悲深い……』


 ううん、わたし神じゃないんだけど……。

 何回言っても聞いてくれないわ。


 神様、ごめんなさい。

 こんな末端の聖女ごときが、神なんて呼ばれてしまって。


『ぴゅぅう……ごくらく~……』『とけるー』『スラちゃんもう溶けてるぜ?』

『やばー』


 子供達が楽しそうに、それでいて仲良くお風呂に入ってる。

 ふふふ、いい光景だわ。


「とてもいい光景ですわね♡」

「そうですねぇ」

「「はぁ~……♡」」


 ……ん?

 え?


「『『『だ、誰!?』』』」


 わたしの目の前に、柔らかい金髪の、それは綺麗なお姉さんがいる!

 しかもとてもプロポーションがよくて、それでいて上品な顔立ちをしてる。


 貴族様かしら……?


「どうしたんですの、皆さん?」

「あ、いえ……どなたですか?」

「いやですわ♡ シンドゥーラではありませんか」

「え、ええ? し、シンドゥーラさん!?」


 びっくり!

 まさかこの美しい女性がシンドゥーラさんだったなんて!


「人化のスキルを持ってたのですか?」

「何をおっしゃってるんですの、わたくしはチャトゥラと違って、人になるスキルはありませんわ。あれはとてもレアなスキルなのですわ……って、なんですのこれぇええええ!?」


 お湯にうつった自分の姿に驚く、シンドゥーラさん。

 腰のあたりから、ぶわさっ、と翼が広げられた。


 あ、良かった。

 この翼の感じ、シンドゥーラさんだ。


『ぴゅるるーん! ままん、人間の姿!』

『って! おいぐーちゃん! おまえなんかでっかくなってるぞ!?』


 ぐーちゃん……たしかに、元シンドゥーラさんと同じくらいの大きさになってる……。って!


「くま吉くんはなんか、毛の色が金色になってるわ。スラちゃんは……で、デカくなってる!」


 こ、これは鑑定スキルの出番だわ。

 わたしは仲間の魔物のスキルを、習得できるらしい。


 樹木王トレント・キングさんのもっていた鑑定スキルを使う。


■ぐーちゃん

→グリフォン(成人)(S)


■くま吉くん

黄泉熊ゴールデン・ベア(S+)


■スラちゃん

暴食女王クイーン・スライム(S)


 み、みんななんだか、強くなってる?


「わたくしは人化という超レアスキルを覚えましたし、みな進化したのですわ」

「進化……でもどうして?」

「おそらくこの温泉、ひいては、温泉を作ったキリエ様のおかげですわ!」


 曰く……。

 魔物は大量の魔力を吸収すると、存在進化という現象を起こすらしい。


 名前をくま吉くんたちに付けたときも、名前とともにすごい大量の魔力を、わたしからもってかれた。結果、進化した。

 それが今回も同じことがおきて、進化したらしい……。


「この温泉には、キリエ様の聖なる力があふれかえっておりますわ」

「さっき浄化したからかしら……?」


 でもあれは、神様のお力のような……。

 

「キリエ様の聖なるパワーをあびて、魔物達はさらに上位の存在になった……。これもすべて、キリエ様のおかげですわ! さすがです!」

『姉ちゃんすげー!』『すっごーい!』『ぴゅるるん! すごいすごーい!』


 わたしは首を振って言う。


「何をおっしゃります。これも全て、神様のおかげです」

「『『『…………』』』」

「この温泉を浄化したのだって、神様が浄化のちからをかしてくださったおかげ。この温泉は神の力が宿ってる。ゆえに皆さん強くなったのです。神様に、感謝いたしましょう」


 すると魔物さんたちが納得いったようにうなずいて言う。


「『『『ありがとう! キリエ神様!』』』」


 うんうん……うん?

 あれ、キリエ神……?

 いや神様はノアール様なのだけど……。


『さっきのあれ、やっぱそういうことなんだねー』『ぴゅい! きれーだったもん! 神様なら納得!』『きれー』「まさしく、神にふさわしいお姿でしたわ!」


 魔物さん達がうんうん、と納得したようにうなずいてる。

 いや……。


「だから、あれってなんです?」


 力使う前にも言ってたけども。


「『『『はねー!』』』」


 ……羽根?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 毎日キリエ出汁であなたも存在進化! [気になる点] グリフォンは名前受け継ぎだから先代さんの時代に生きてたのは別個体のはずじゃ?
[一言] >「この温泉には、キリエ様の聖なる力があふれかえっておりますわ」 身も蓋もない言い方で言うとキリエ汁がドバーッと出てそれに浸った者達が存在進化した訳ですね
[一言] 長野神とタメ張れるな!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ