28.温泉に入っただけで魔物を進化させてた
《キリエSide》
わたしは初代聖魔王エレソン様の霊と会って、魂の一部をもらい、声を出せるようになった。
エレソン様のご意志を受け継いだわたしは、より一層、この森の主として頑張ろうと思ったところだ。
さて……決意したのはいいのだけど……。
「……お風呂に入りたい」
わたしがいるのは、旧楽園。
教会の中にいるのだけども……。
ここの教会、お風呂が無いのよね。
王都にいるときは毎日湯浴みができていたのだけど、森へ追放された後は、水で濡らしたタオルで、体をふくことで我慢していた。
けれど……もう限界。
獣人国ネログーマで久方ぶりのお風呂に入ってから……わたしは、お風呂を我慢できなくなった。
「お風呂がほしいわ。でもわたし、そんなの作る知識も技術もないし……」
と、そのときだった。
『やっほー姉ちゃん!』『やほー』『ぴゅーい!』
教会のまどから顔を覗かせたのは、くま吉くん、スラちゃん、そしてグリフォン子供のぐーちゃん。
この三匹は仲がいいので、たいてい、一緒にいる。
「こんにちは。どうしたの?」
『うぉー! まじだ! まじでしゃべれるようになったんだねー!』
ああ、そうだった。
わたしがしゃべれるようになったこと、まだみんなに報告してなかったわ。
チャトゥラさんとアニラさんだけ知ってる。
「ええ、エレソン様のおかげで、こうしてまたしゃべれるようになったわ」
エレソン様と、引き合わせてくださった神様に感謝だ。
『姉ちゃんの声、きれいだぜ! な!』『うつくしーい』『ぴゅるるう~♪』
「ふふふ、ありがとう三人とも」
あ、そうだわ。
「ねえぐーちゃん。お母さん呼んでもらえる?」
「ぴゅーい!」
ぐーちゃんが鳴き声を上げる。
ばっさばっさ、と翼をうつ音がしたので、教会の外に出ると……。
立派なグリフォンが華麗に、地上へと舞い降りた。
彼女はシンドゥーラさん。
チャトゥラさん、アニラさんと同じ、聖十二支っていう、高位の魔物の一匹だ。
『お呼びですのっ? キリエ様!』
「ええ、ちょっと知ってたら教えてほしいことが……」
『はふぅ……♡』
と、心地よさそうに目を細めるシンドゥーラさん。
え、な、なにかしら……?
『本当に、心地よいお声ですわ……♡ うっとりしてしまいます♡』
『ぴゅいいい! ね! ままんもそうおもうよねー! ぴゅい!』
『ええ、素晴らしいお声ですわ♡ もう24時間、365日間聞いていたいくらい……女神様のささやき声のようですわ!』
そんな……大げさな。
それに恐れ多いわ。わたしごとき神の下僕が、神様に匹敵する声のもちぬしなんて。
『それでキリエ様、用事とは?』
「この近くで、お風呂に入れるようなところあるかしら?」
『お風呂……』
「温かい水たまりみたいな」
『ありますわ!』
「じゃあ、そこまで案内してもらえる?」
『OKですわー!』
ということで、シンドゥーラさんに、お風呂は入れそうな場所を教えてもらうことにした。
温泉くらいあればいいかなぁって思っていたのだけど……。
『ここですわ!』
「これは……沼?」
どう考えても、沼だ。
しかもポコポコ……と粘性の泡が、表面にいくつも浮いてる。
動物の骨が、沼の上に浮いていた。
『ままん、ここはさすがに……』
『あ、あれ? おかしいですわね。昔は大浴場だったんですわよここ』
エレソン様が生きていた時代の話かしら。
聖十二支のかたたちは、長生きだって聞くし。
「大浴場が今では完全に毒沼になってますね。もったいない……」
『入りたかったなー、お風呂』『すらもー』『ぴゅうう……』
『こうなってしまっては、仕方有りませんわ……』
魔物のみんなも、がっかりしてる。
ううん……あ、でもいけるかも。
昔大浴場だったのなら、毒を取り除けば、また前のようなお風呂になるかもだわ。
……神様、どうか、魔物さんたちが仲良くお風呂に入れるように、浄化の力をお貸しください。
そのときだった。
パァアアア……! と強い聖なる力を、近くに感じる。
『『『でえええええええええええええ! なんこれぇええええええええええ!?』』』
目を開けると、そこには汚かった沼はもうなかった。
綺麗な温泉に早変わりだわ。
「ふぅ……これでよし! みんなで仲良く……どうしたの?」
みんなが、驚いてるわ。
しかもわたし……というかわたしの背中を凝視してるような……。
『ね、姉ちゃん……! やばい!』『やばいー』『すごいー!』
『ああ、お美しいですわ……!』
「み、みんなやめてよ照れるじゃない……」
わたしが綺麗だって。
まあ褒めてくれるのはうれしいけど、そんなたいした容姿してないわよ。
『あ、きえちゃった』『きえたー』
『ままん、きれいだったね!』『ええ、本当に美しい、やっぱりキリエ様は天の神さまなのですわ!』
……いまいち何を言ってるのかさっぱりだったけど。
まあいいわ。
「じゃ、みんなでお風呂入りましょ」
『『『わっふーい!』』』
わたしは衣服を脱いで、くま吉くん、スラちゃん、ぐーちゃん、そしてシンドゥーラさんと、みんなで露天風呂につかる。
『キリエ様、くま吉は良かったのですの? 雄ですわ』
「まあでも、まだ年齢的に小さな子供だし、ひとりだけ仲間はずれはかわいそうでしょう?」
『なるほど……! さすがキリエ神様ですわ! なんと慈悲深い……』
ううん、わたし神じゃないんだけど……。
何回言っても聞いてくれないわ。
神様、ごめんなさい。
こんな末端の聖女ごときが、神なんて呼ばれてしまって。
『ぴゅぅう……ごくらく~……』『とけるー』『スラちゃんもう溶けてるぜ?』
『やばー』
子供達が楽しそうに、それでいて仲良くお風呂に入ってる。
ふふふ、いい光景だわ。
「とてもいい光景ですわね♡」
「そうですねぇ」
「「はぁ~……♡」」
……ん?
え?
「『『『だ、誰!?』』』」
わたしの目の前に、柔らかい金髪の、それは綺麗なお姉さんがいる!
しかもとてもプロポーションがよくて、それでいて上品な顔立ちをしてる。
貴族様かしら……?
「どうしたんですの、皆さん?」
「あ、いえ……どなたですか?」
「いやですわ♡ シンドゥーラではありませんか」
「え、ええ? し、シンドゥーラさん!?」
びっくり!
まさかこの美しい女性がシンドゥーラさんだったなんて!
「人化のスキルを持ってたのですか?」
「何をおっしゃってるんですの、わたくしはチャトゥラと違って、人になるスキルはありませんわ。あれはとてもレアなスキルなのですわ……って、なんですのこれぇええええ!?」
お湯にうつった自分の姿に驚く、シンドゥーラさん。
腰のあたりから、ぶわさっ、と翼が広げられた。
あ、良かった。
この翼の感じ、シンドゥーラさんだ。
『ぴゅるるーん! ままん、人間の姿!』
『って! おいぐーちゃん! おまえなんかでっかくなってるぞ!?』
ぐーちゃん……たしかに、元シンドゥーラさんと同じくらいの大きさになってる……。って!
「くま吉くんはなんか、毛の色が金色になってるわ。スラちゃんは……で、デカくなってる!」
こ、これは鑑定スキルの出番だわ。
わたしは仲間の魔物のスキルを、習得できるらしい。
樹木王さんのもっていた鑑定スキルを使う。
■ぐーちゃん
→グリフォン(成人)(S)
■くま吉くん
→黄泉熊(S+)
■スラちゃん
→暴食女王(S)
み、みんななんだか、強くなってる?
「わたくしは人化という超レアスキルを覚えましたし、みな進化したのですわ」
「進化……でもどうして?」
「おそらくこの温泉、ひいては、温泉を作ったキリエ様のおかげですわ!」
曰く……。
魔物は大量の魔力を吸収すると、存在進化という現象を起こすらしい。
名前をくま吉くんたちに付けたときも、名前とともにすごい大量の魔力を、わたしからもってかれた。結果、進化した。
それが今回も同じことがおきて、進化したらしい……。
「この温泉には、キリエ様の聖なる力があふれかえっておりますわ」
「さっき浄化したからかしら……?」
でもあれは、神様のお力のような……。
「キリエ様の聖なるパワーをあびて、魔物達はさらに上位の存在になった……。これもすべて、キリエ様のおかげですわ! さすがです!」
『姉ちゃんすげー!』『すっごーい!』『ぴゅるるん! すごいすごーい!』
わたしは首を振って言う。
「何をおっしゃります。これも全て、神様のおかげです」
「『『『…………』』』」
「この温泉を浄化したのだって、神様が浄化のちからをかしてくださったおかげ。この温泉は神の力が宿ってる。ゆえに皆さん強くなったのです。神様に、感謝いたしましょう」
すると魔物さんたちが納得いったようにうなずいて言う。
「『『『ありがとう! キリエ神様!』』』」
うんうん……うん?
あれ、キリエ神……?
いや神様はノアール様なのだけど……。
『さっきのあれ、やっぱそういうことなんだねー』『ぴゅい! きれーだったもん! 神様なら納得!』『きれー』「まさしく、神にふさわしいお姿でしたわ!」
魔物さん達がうんうん、と納得したようにうなずいてる。
いや……。
「だから、あれってなんです?」
力使う前にも言ってたけども。
「『『『はねー!』』』」
……羽根?




