164.迷宮へ
迷宮都市ナントに来ているわたし。
都市長の蜥蜴人、キウイさんに会っている。
「それで、この街の異常についてうかがってもいいですか?」
「ええ、もちろん。聞いてくださる……?」
キウイさんが辛そうな顔で言う。
「先日新たに出現した、迷宮主のせいで、この街は閉じ込められてしまったのです」
『めーきゅーしゅ? ねえトカゲのばーちゃん、めーきゅーしゅってなぁに?』
くま吉くんが尋ねる。
キウイさんは彼の頭をなでながら言う。
「迷宮主とは、文字通り迷宮の主のことよ」
『! キリエ姉ちゃんのことな!』『ぴゅい! ねーちゃんだ!』『ねーちゃー』
……確かに、奈落の森はダンジョンと聞いたことある。
そこの長をしてるのだから、わたしも迷宮主……あ、アレ? わたしって迷宮主だったの……?
「迷宮を納める長、それが迷宮主。今までこのナント巨大ダンジョンには、素晴らしい主が居たのです。ですが……」
キウイさんが沈痛な面持ちになる。
「前の迷宮主さんが……いなくなったんですね?」
「はい。新たに外部からやってきた、悪しき者の手によって……落命しました……」
……酷い。
人を殺すなんて、なんてことを!
「新迷宮主は酷い魔物です。迷宮に強制的に人をよこすように命じてきました」
『なんでー?』
「……人を食らうためです」
キウイさん曰く、迷宮はモンスターに例えられることがあるらしい。
迷宮で人が死ぬと、魂と魔力がその土地に吸収され、主の力が増すのだそうだ。
「今までの迷宮主さまは、彼らに何も強制しませんでした。来る者は拒まずの精神。また、迷宮で死んだものを、蘇生させていました」
「とても、慈悲深いかただったんですね……」
「ええ……だから前の迷宮主は、この迷宮都市ナントの人たちから愛されておりました。でも……」
死んでしまった。
新しい、迷宮主に殺されて……。
「…………」
助けてあげたい。
そう思った。この街の人たち、そして……前の主も。
「前の主さんは、今どこに?」
「わからないわ。ただ……死体はこの迷宮のどこかにあるそうよ」
……なら、神の使いであるわたしがやるべきことは、一つ。
「わたし、迷宮に入ります。そして……前の主を探して、助けてきます」
「! ぜひそうしてもらえると……でも、そうすると、恐らく新迷宮主と対立することになるわ」
たしかに、前の主が邪魔だったから殺したのだろうから。
復活させるのは、相手からすれば嫌なこと。
当然……武力による介入が行われる。
「大丈夫です。わたしには……ノアール神様がついてますので!」
神さまがお力をかしてくだされば、わたしだって戦える……。
ううん、説得できるわ。
あくまで、暴力では無く、対話によって、解決したい。
『姉ちゃんがいくなら、おいらも!』『ぴゅい! ぐーちゃんも力貸す!』『すらもー』『むいちゃんも!』
魔物の赤ちゃん達はみんな、やる気になってる。
「ありがとう。でも……危ないわ。皆はここでお留守番を……」
『『『『やー!』』』』
皆が嫌がる。
『姉ちゃん好きだし! 守りてえし!』
『まみーのかわりに、ぐーちゃんがまもるもん!』
『すらーはきりえさましゅきだからー』
『むいちゃんも!』
どうやら言っても聞かないようだ。
「あっしもお供いたしますぜ」
わんこさんもついてくるみたい。
皆がいれば……大丈夫ね。
「ありがとう皆んな。キウイさん、わたしたち、迷宮に潜ります」
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