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162.恵みの雨を降らせば神



 わたしは迷宮都市ナントへとやってきている。

 砂嵐によって、ナントは閉じ込められていた。


「キリエさん、私はこの街の状況がわかるものを探して参ります。要救助者達の治療など、お任せしてよいでしょうか?」


 商人のサンレッドさんが言う。


「わかりました。分業ですね」


 サンレッドさんに街の状況把握をまかせ、わたしは残りの商人さんたちとともに、ナントの大通りへとむかう。


『あちっち~』『のどかわいた~』『あつーうい』


 魔物の子らがそう訴える。

 たしかに熱くて死にそうだわ。


「キリエの姐さん! あそこに人が倒れております!」


 鼻の良いわんこさんが、救助者を見つける。

 わたしは倒れてるその人の元へとむかう。


 街の人は、青い顔をして倒れている。

 

「み、みずぅ……」


『ミミズ?』『みみず食べるのかなぁ』

『くえぬー』


 いや、違う。

 水が欲しいんだわ。


「スラちゃん、お水を」

『しょうちー』


 ぴゅうう、とスラちゃんが口から水を吐く。

 ばしゃあ! と街の人の顔に水がかかる。


「うう……」

「目覚めない……となると、重度の熱中症ね」


 わたしは天導教会てんどうきょうかいの聖女として、かつて活動していた。

 そのときに、たくさんの病気やケガを負った人たちを診てきた。


 この症状は脱水症。

 しかもかなり重度だ。今水をあげたところで、快復は望めない。


「こんなときは……神さま! どうか……この人を、水不足で困ってる方々を、お救いくださいませ!」


 倒れているのは、この人だけじゃない。

 水が、圧倒的に足りていない。


 わたしは神に祈る。

 すると……。


 ぽた……。

 ぽたぽた……。


『なんだぁ?』『ぴゅ! 空からあめが』『あめー』


 ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 神に祈りが通じたのか、頭上に大きくて分厚い雨雲が出現。

 恵みの雨が、ナントに降り注ぐ。


「んぁ……おれは……いったい……?」


 倒れた街の人が目を覚ます。

 どうやら、神さまのお力が、雨を通して街の人へ降り注いでるんだわ!


『しゅげー、ねえちゃん雨降らしちゃった!』

『ぴゅい! みんな起き上がってるのね! しゅげー』

『しゅげー』 


 魔物の子供さんたちってば、完全にわたしのおかげだと思ってる。

 神さまのおかげなんだけど……。


 まあ、しょうがないわ。

 子供達は、神さまを見たことないんですもの。


 見たことないものを信じろなんて、酷よね。

 ……まあ、わたしも神は見たことないのだけど。


「……あ、あんた……もしかして……」


 街の人が私をみて言う。


「救いの、神……ですかい?」


 ……まただ。

 また、勘違いされてしまう。


 いけないわ。

 ここは、しっかり間違いを『そうだぜ! 神だぜ!』『かみー』『かみー!』


 魔物の子供たちが、間違った宣伝をしてしまう。

 ああちがうの!


「あ、あのですね……」

「そうか……やっぱり! 女神様だったか! 女神さまがおれたちを助けに来てくれたんだぁ! ありがとう女神様!」


 ああ……もう時既に遅し……。

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