158.目的
わたしは砂漠の国フォティヤトゥヤァへと転移してきた。
砂蟲ちゃんを助けたあと。
オアシスにて。
『きゅっきゅっきゅ~♡』
小さくなった砂蟲ちゃんが、くま吉君たちと遊んでいる。
『やろーども! よーくきけ! 新入りの登場だ! あいさつ!』
『きゅっきゅー! 砂蟲の、【ムイちゃん】っきゅー!』
名前がないのは可哀想、ということで、わたしが命名したのだ。
『今日からおいらたちの仲間だ! よろしくな!』
『ぴゅい! よろしく~』
『しくよろ~』
くま吉君、ぐーちゃん、スラちゃんがあいさつをする。
四人とも仲良くなってよかったわ。
一方、砂漠エルフのサンレッドさんと、話しているわたし。
「ところで、サンレッドさん。あなたたちはどこへ向かわれていたのですか」
彼ら砂漠エルフの行商人さんたちは、どこかへ向かう途中、ムイちゃんに襲われたらしい。
「我々は南に下った先にある、【ナント】という迷宮都市へ向かっている途中なのです」
「ナント……迷宮都市?」
聞いたことないわ。
「巨大内迷宮の周りにできた都市を、迷宮都市といいます。ゲータ・ニィガですとガオカーナが有名ですね」
聖女だったもので、迷宮には行ったことがないのだ。
「迷宮の周りにそもそもどうして都市が?」
「ダンジョンに挑むものたちに、アイテムをうったり、彼らが食事する場所を提供したり……と色々と需要があるのです」
なるほど……人が集まれば、そこが都市となるのね。
勉強になるわ。
「ただ……迷宮都市ナントは現在、危機的状況にあるようで」
「! 何かあったの?」
「はい。ただ……詳細はわからないのですが、ナント支部から救難信号が送られてきたのです。そこで、我らが補給部隊として向かっている……と」
よく見れば、サンレッドさんの周りには、武装した人たちがいた。
商会お抱えの冒険者かしら……?
それにしても、救難信号……なるほど。
神さまは、迷宮都市ナントに居る人たちを助けろ。
そういう意図で、わたしをここへ派遣したのね。
『姉ちゃんムツカシイ話しおわった~?』
くま吉くんが、魔物の赤ちゃんたちを載せて、近づいてくる。
「ええ。これから迷宮都市ナントってところに向かいます」
『ふーん、どうやって?』
「歩いて……かしら」
するとサンレッドさんが言う。
「そうですね。ただ……徒歩だとさらに数日かかりますね。砂漠だと砂に足を取られてしまいますから」
なるほど……。
するとムイちゃんが言う。
『きゅきゅ! むいちゃんに……おまかせ!』
カッ……! とムイちゃんが光り輝く。
すると……巨大な姿へと変身したのだ!
『おー! すげー!』
『でっかーい』
『ぴゅい! くまきちといっしょ、おおきくなったー!』
あ、なるほど……。
名付けたことで、力を得たのね、ムイちゃん。
急成長したムイちゃんがわたしたちを見下ろす。
『きゅきゅ! おくちのなかにはいって! むいちゃんが、はこぶよー!』
そ、そっか……砂蟲は地中を走る魔物さんよね。
だ、だから……ムイちゃんの中に入れば、人が歩くより速く、街に到着する……。
け、けど……。
ミミズみたいなお口に入るのは……ええい、だめよキリエ!
差別なんて持っちゃいけないわ! みんな仲間……!
それに、せっかくムイちゃんがやる気を出してくれてるんですもの!
「じゃ、じゃあムイちゃん、中入っていい?」
『きゅきゅ!』
んがぁ……! とムイちゃんが口を広げる。
ひっ……口……イソギンチャクみたい……ううう。
ええい! 女は度胸!
わたしはムイちゃんの中に入る……。
すると、だ。
「あ、あれ……? なにこれ……?」
そこには、高級ホテルもかくやといったほどの、凄い広いお部屋があったわ。
ソファもあるし、家具も……なにこれ?
「うぉお! な、なんだこれは……?」
サンレッドさんも驚いている。
魔物の赤ちゃんたちも目を剥いていた。
『なんじゃこりゃ! ホテルじゃん!』
『むいちゃんほてる!』
『すらちゃんみたいな?』
あ、なるほど……。
スラちゃんも体の中に、色んなモノを収納するスキルを持っていたわ。
ムイちゃんにも同様、空間を作り出すスキルが発現した……ってことかも。
「すごいですキリエさん……。配下の魔物に、こんなすごい力を付与するなんて」
「いえいえ。配下じゃありません。友達です。それに……力を授けたのは、天の神さまですよ」
ここは間違って欲しくない。
力はあくまで神さまのものなのだから。
くま吉君がサンレッドさんに近づいて、こそっと耳打ちする。
『姉ちゃんちょっと謙虚なんだ』
「なるほど……謙虚なお方なのですな」
なにはともあれ、砂蟲のムイちゃんのなかに入ったわたしたちは、迷宮都市ナントを目指すのだった。




