157.砂蟲すら手なずける聖女
砂漠へ飛ばされたわたし、と魔物の赤ちゃんたち。
そこで、砂漠エルフのキャラバン隊と出会ったのだった。
「初めまして、お嬢さん。私は【サンレッド】。サンレッド行商会のギルドマスターをしております」
キャラバン隊のリーダー、サンレッドさんが私に頭を下げる。
浅黒い肌に、とがった耳の砂漠エルフさんだわ。
髪の毛は銀色で、背が高く、なかなかの美形ね。
まあノアール様には適わないけれども。
「危ないところを助けていただいたこと、とても感謝いたします」
「いえ、困ったときはお互い様です」
偉大なるノアール神様は、彼のもとに集まる信者みな快く受け入れていた、と聖書には書かれているわ。
あのお方はとても慈悲深く、優しい人だったらしい。
その使徒であるわたしも、ノアール様と同じ、みな平等に困っている人を助けるのだ。
「ところで、お嬢さんはどちらから来たのですか? その……服装があまりに軽装だもので」
サンレッドさんたち砂漠エルフさんは、頭にターバンを巻いたり、体全身を覆うマントを身に着けてる。
一方わたしは軽装もいいところだった。
砂漠を渡り歩く恰好じゃないわね。
違和感を覚えても仕方ないわ。
「わたしは、神に言われて、奈落の森からここへ飛ばされてきたのです」
「奈落の森!? げ、ゲータ・ニィガからここ、フォティアトゥーヤァまで!? それは遠くから……」
くま吉くんが近づいてきて、首をかしげる。
『姉ちゃん姉ちゃん、フォティアトゥーヤァってどこだい?』
「な!? ま、ま、魔物がしゃべったぁ!?」
サンレッドさんが仰天してる。
ああ、そうだ。普通、魔物はしゃべらないものね。
でもわたしの周りにいる魔物さんたちは、ノアール神の力で、人の言葉を話せるようになるのだ。
「落ち着いてください。この子たちは神のご加護を受けております。人を決して襲いません」
『そうだぜ! おいらたち、キリエ神の使徒だかんな!』
ち、ちっがーう!
キリエ神じゃないの!
「キリエ神……あなたが神なのか?」
「違います! わたしは単なる聖女、この子たちは幼いので誤解してるだけです」
「そ、そう……しかしあなたの張った結界はとても強力だった。ただの聖女じゃないですよね?」
「ただの聖女ですけど……」
と、そのときだった。
『ぴぴぴ~~~~!!!!!』
ずぉおおおお! と砂が盛り上がって、わたしたちの前に、砂蟲が現れた!?
また、あのミミズ! ひっ……。
『ぴぴぴ~……』
あれ? なんだか、弱弱しく泣いてるわ。
「キリエの姐さん、下がっててくだせえ! あっしがやっつけます!」
雷人狼のわんこさんが、爪で攻撃しようとした。
わたしは砂蟲……ううん、砂蟲ちゃんが、泣いてる姿を見て、思わずわんこさんを呼び止める。
「待って! わんこさん。この子……泣いてるわ」
「泣いてる……? お嬢さん、いったい何を言ってるのですか?」
サンレッドさんも不思議がっている。
わたしは、砂蟲ちゃんのもとへ向かう。
近くで見ると、お、大きいわ……。
押しつぶされてしまうかも、って思うと怖くて足がすくんでしまう。でも、だ。
「あなた、どうしたの?」
わたしは砂蟲ちゃんに触って尋ねる。
『いたいのぉ~。いたいいたいなのぉ』
……やっぱり、だ。
この子も魔物、つまりくま吉くんたちみたいに、心がある生き物なんだ。
『からだいたいいたい』
「大丈夫、待ってて、すぐ痛いのなおしあげるから」
みたところ、体に傷はないけれど、しかし体がいたいという。
神様、どうかこの子を癒す力を、お貸しください。
わたしが祈ると、砂蟲ちゃんの体が光りだす。
みるみるうちに縮んでいき、そして手のひらに収まるサイズになった。
「す、砂蟲が縮んだ!? どうなってるだ!?」
サンレッドさんが驚く一方で、わたしは砂蟲ちゃんを持ち上げる。
「痛いの、なくなった?」
『うん! いたいの、ないなった! ありがとぉ!』
わたしは砂蟲ちゃんを抱えたまま、みんなのもとへ戻る。
「お、お嬢さん、いったい何をしたんですか?」
「この子が体痛いって言っていたので、治癒を施したんです。そしたら元のサイズに戻って」
「そういえば、砂蟲は砂を食べることで体の大きさを可変できると聞いたことがあります」
なるほど、じゃあ砂の食べ過ぎて、おなか痛くなっちゃったのかな。
『おねえちゃん、ありあとー!』
……こうしてみるととても、可愛い子だわ。
そうよね、見た目で怖がってちゃだめ、みんな心ある生き物なのだから。
「魔物と心を通わし、手なずけるだなんて。す、すごい……」




