153.聖十二支《デーバ》会談
《くま子Side》
デッドエンド村に、ドワーフ商人のイッコジーが移住することになった。
ところ変わって、デッドエンド村の入口、樹木王のもとには、聖十二支たちが集まっていた。
聖十二支。それは、キリエを守護する特別な魔物達のこと。
彼女には現在、
フェンリルのチャトゥラ、
グリフォンのシンドゥーラ、
竜王のアニラ、
鬼の美緋羅、
メデューサのサンティラ、
白澤のヴァジュラ、
ゴクウのマコラ、
そして……。
「なんであたいも、この会議に参加してるのさ……!」
単なる赤熊に過ぎなかった魔物、くま子も参加していた。
「悔しいことに、キリエ様のご寵愛を最も受けているのが貴様とその息子だからな」
チャトゥラが悔しそうにそうつぶやく。一番の家臣でありたい彼にとって、No.1をくま子に取られてるのが気に食わないのだろう。
「寵愛を受けてるって……単にあのこと最初に出会っただけだけどね」
『この地にて、初めて神の力を受けたということは、特別なことだからのぅ』
「そういうもんかい……」
樹木王の言葉に、くま子はため息をつく。
『それにおぬし自分が存在進化しておることに気づいておるか?』
「は……? 嘘でしょ?」
『本当じゃ。今は緋熊になっておる』
「緋熊……ねえ……」
確かに以前よりも、体に力が満ちているのを感じる。
「くま子。貴様も守護獣が一人となったのだ。我らの会議に参加するのは当然でしょう?」
「はいはい……。んで、議題は? チャトゥラ」
「我らが敵……逢魔について」
逢魔。
何度も奈落の森に攻撃を仕掛けてきた、魔王種の一人だ。
魔王種。それは、特別な力を持つ魔物のこと。
「現在、キリエ様のもとには魔王種が複数体いる。パワーバランスが崩れるのを危惧した逢魔は、こちらに攻撃を仕掛けている状況です」
「でもこないだ、うちらで追い払っただろ……? 一人は仲間に加えたし」
ゴクウのマコラが、首をふるって言う。
「うき……いや、逢魔はまだキリエ様を諦めてない。大灰狼、そして空の民と協力して情報を集めてるが……厄介なことに、やつらの手下が奈落の森の周囲に待機してやがった、うき」
マコラには主に情報収集を任せてる。
彼によると、どうやらかなりの数、逢魔の配下が待機してるらしい。
シンドゥーラが続ける。
『ですが、手をこまねいてる様子でしたわ』
「あん? どういうこったい?」
くま子の言葉に、シンドゥーラが応える。
『キリエ様の張られた結界が、逢魔の侵攻を防いでるのですわ』
「ああ……なんかキリエが無自覚に張ってるって言う、結界のことかい。そんなにすごいのかい?」
ヴァジュラがこくんとうなずいて言う。
「そうだね。邪悪なる意思を持つものを選別する結界だ。正直……規格外の性能をしてるといってもいい」
「そういうもんなのかい?」
「ああ。結界とは基本、単に魔物を入れない、人間を入れない、といったふうに特定の何かを入れないバリアなのさ。邪悪なる意思なんていう、目に見えないものを選別してしまう結界なんて、規格外……というか、実物を見てもまだ信じられないよ」
白澤のヴァジュラは長く生きている。
そんな彼女が驚くほどの結界なのだ。本当に凄いものなのだろう。
「キリエの結界は、逢魔側からすれば相当厄介だ。しばらくは安全だろうね。でも……」
「でも……?」
「キリエはほら、急に結界の外へ行っちゃうから……心配だね」
「ああ……」
今までキリエは何度も、勝手にいなくなることがある。
人の助けを呼ぶ声を聞くと、キリエは聖なる力を使って、いずこへと転移してしまうのだ。
「ヴァジュラの未来視でそれを防ぐことは出来ないのかい?」
「残念ながら、未来視はそんな万能の力じゃない」
遠い未来については、突発的に見える、らしい。
近い未来を予知することはできる。が……。
「キリエの場合は、僕の予知が使えないんだよ」
「そうなのかい……」
「多分聖なる力に、僕の予知が邪魔されてしまうんだろうね」
そうなると、キリエが結界の外へフラッと出て行ってしまうことを防げない。
「たしか、ガンコジーに居場所を知らせる魔道具を作らせたんじゃあなかったかい?」
「ええ。キリエ様はそれを所持なさっている。だから消えたらすぐわかりますが……問題は遠くへ行ってしまうことですね」
転移門はまだ試作段階であり、キリエが飛んだ場所へ直ぐにいけないのだ。
「キリエが居なくなったら、おれさまが直ぐに駆けつけてやるよ。この自慢の翼でな!」
『……いや、アニラには別のことを任せたいのじゃ』
「ああん? 別のことだぁ……?」
くま子にはなんとなく予想がついていた。
「逢魔へのけん制、さね?」
『そのとおりじゃ。やつらが動かぬよう、近くで陣取っておいてくれ』
敵がいつ攻め込んでくるか不明であるが、襲うタイミングを、虎視眈々と狙っていることは明らか。
ほっとくのは下策と言える。
ゆえに、魔王種が一体、アニラを逢魔のテリトリー近くに配置し、向こうが簡単に動けなくするよう見張りを立てるつもりだ。
「アニラ一人で大丈夫かい? やんちゃ娘じゃないか。美緋羅あたりを一緒につけておくべきじゃあないかい?」
『そうじゃな。美緋羅、おぬしも頼む』
こくん、と鬼の美緋羅がうなずく。
「ちっ……おれさま一人でいいんだけどな」
『何かあったときの保険じゃ』
何かあったときというのは、アニラが勝手に暴れたときのことだろう、とくま子は思った。
「現状はそんな感じです。あとはキリエ様が消えてしまわれないか。そこによく目を光らせておかないと……」
と、そのときだった。
『かーちゃーん! 大変だぁ……!』
どどどどど! とくま子の息子、くま吉がこちらに駆けてくる。
もうそれだけで、くま子には何が起きたのか瞬時に理解した。
聖十二支全員が、頭を抱えている。
「キリエが居なくなったんだね……」
『うん! って、あれ、なんでわかったの……?』
くま子は空を見上げる。
「ったく、あの子はまったく……赤ん坊よりも目が離せないんだから……!」




