137.川遊び【閑話】
ある日のこと、奈落の森にて。
わたし、キリエ・イノリは魔物赤ちゃんズとともに、近所の小川まできていた。
最近めっきり暑くなってきたから、水浴びでも……と思ったのである。
毛皮のもふもふな魔物さんたちは特に、毎日暑そうにしてるからね。
『うひょーい! 川遊びだー!』
『ぴゅいー! おみずだー』
『うーみー』
「うみじゃあないわよ! 川よかわー!」
くま吉君、グリフォン子供のぐーちゃん、スライムのスラちゃん、そして鬼妹のひいろちゃんが、川へと飛び込んでいく。
川、といっても小さな川だ。
深さも全然無い。
入ってもせいぜいが、足首くらいまでの深さだろう。
「だからその……みんな? ちょっとどいてくれないかしら?」
わたしの前にはチャトゥラさんをはじめ、聖十二支の皆さんが手を広げて、行く手を阻んでいる。
「キリエ様! いけません! 川で溺れてしまったらどうするのです!?」
「そんな……大丈夫よチャトゥラさん」
心配してくれるのはうれしいけども……。
さすがに、足首くらいまでの深さで川に溺れようがないと思うの。
「大丈夫よ」
「……だめ。キリエ」
「メドゥーサちゃん……」
メドゥーサちゃんが至極真面目な顔をして言う。
「……キリエはワタシたちの大事な存在。川で溺死したら大変」
「だから、その、心配はありがたいけども……溺れようがないから」
魔物の赤ちゃんたちですら、楽しそうにぱしゃぱしゃと遊んでいる。
そんな、安全な場所なのよ?
「駄目です!」「……溺れ死んだらワタシも一緒に入水する」
「ああもぉ~……ヴァジュラさーん……」
過保護組はいくら言っても駄目だと思って、わたしは比較的大人な、白澤のヴァジュラさんを頼る。
よしよし、とヴァジュラさんが頭を撫でてくれる。お姉さんみたい……好き……。
「まあ大丈夫だよ。未来が見えるぼくがいるんだから、水難事故は起こさせないさ。大丈夫、キリエはぼくが守るから」
か、かぁっこいい……。
「ああん? てめヴァジュラぁ! オレ様の女に色目使ってるんじゃあねえぞ!」
突然キレ出すアニラさん。
いや誰の女とかないんだけどな……。
「……キリエはワタシの」
「オレ様のだ! ああん!?」
ああもうめちゃくちゃだよぉ~……。
『キリエ姉ちゃんへの過保護っぷり、すげえ』




