132.怒り
……エレソン様の死の真実を、わたしは知った。
年老いて、ひとり死ぬのが恐かったエレソン様は……魔物になることを望んだ。
その弱い心を、逢魔に利用された……と。
「…………」
酷い。なんて酷いことをするのかしら。
「……どうして、そんなことしたのかしら」
……たとえ悪人だったとしても、そこにやんごとない理由があれば……気持ちを理解できるかも知れない。
ヴァジュラさんがうつむいたまま言う。
「たぶん……聖魔王の戦力を削りたかったんだろうね」
「……戦力を削る?」
「ああ。当時うちの森……というかエレソンは世界最大規模の戦力を持っていた。それを逢魔は危惧したんだろうね」
「…………つまり、一番力を持ってるエレソン様が気に入らないから、彼女を殺した……と」
ヴァジュラさんが神妙な顔つきでうなずく。
……そのとき。
生まれて初めて、わたしの心の中に、ふつふつとした、未知の感情がわき上がっているのを感じた。
友達が大好きな、エレソン様。
皆と一緒になれないことを悲しんでいたところに、近づいて、酷いことをした……逢魔。
「……許せない」
私利私欲で、エレソン様の気持ちを踏みにじった。
ヴァジュラさんに、大好きな友達の命を……奪わせた……!
逢魔……許せない……!
ぜったいの絶対に……わたしは!
そのときだった。
わたしの体から、激しい光があふれ出した。
「これは……高位の召喚魔法陣!? キリエ……まさか……!」
「エレソン様を殺した魔王が、今も生きている。そんなの……そんなのぜったいにおかしい……!」
体からたくさんの光があふれ出る。
それは複雑怪奇な模様を描き……。
「あ……れ……」
意識が……遠のいていく。
ヴァジュラさんが何かを叫んでいる。
でも聞こえない。
彼女の声が遠くなり、そして……わたしの意識、感覚が……消えていく。
何が起きてるのかわからない。
でも……何がしたいのかはわかる。
エレソン様に酷いことをした、逢魔に……。
「天罰を、執行します」
わたしの口が自動的に動くと、そんな言葉が発せられた。
その瞬間、わたしの意識はぶちりととぎれたのだった。




