124.料理人、みひら
ヴァジュラさんの歓迎会を開くことになったわたしたち。
森の民たちは、用意されたお料理に喜んでいるようだ。
「わぁ……! すごいわ! 美味しそう……!」
わたしたちの前のテーブルにも、料理がたくっさん並んでる。
どれも、本当においしそう!
あれでも……。
「食べ物の実の料理とは、ちがう……?」
食べ物の実とは、もじどおり、食べ物が詰まった木の実のこと。
蓋をパカッとあけるとそこには料理が入ってる。
大抵、そのまま出されることが多いんだけど……。
今日はお皿に綺麗にもりつけされていた。
目の前のビーフシチューなんて、とっても美味しそう!
わたしもヴァジュラさんもシチューをすする……。
「美味しい……!」
「これはとても美味しいね」
「ねー!」
口の中で甘ーいシチューと、とろとろに煮込んだ牛肉が溶け合って、ものすごい美味しいわ!
「一体誰が、こんな美味しい料理を……」
「ふふふ、拙者でござる!」
「美緋羅さん?」
こないだ仲間になった、聖十二支のひとり、鬼族の美緋羅さんがニコニコしながらやってくる。
「へえ、美緋羅さんって料理上手だったのね」
すると美緋羅さんのかげから、ひょっこり、かわいらしい鬼の娘が顔を覗かせる。
「ううん、ちがうよ」
「ひいろちゃん」
美緋羅さんの妹にして、魔王種であるひいろちゃんが言う。
「お姉は料理とぉっても下手……! すっごい下手っぴ!」
「そ、そう……? 普通に美味しいけど」
すると美緋羅さんが胸を張って言う。
「キリエ殿のおかげでござるよ」
「わたしの? どういうこと?」
「うむ。拙者はキリエ殿から、名前をもらって存在進化したでござろう?」
元々、美緋羅さんたちはよそから流れてきた魔物さんだ。
仲間に入れるときに、わたしが美緋羅さんとひいろちゃんに、名前をつけたのである。
「その際に拙者、新たなるスキル……【調理人】を獲得してたのでござるよ!」
「そ、そうなんだ……」
知らなかった……。
ヴァジュラさんがうなずいて言う。
「調理人は料理の技量にプラスの補正がされるレアスキルさ。そのスキルのおかげでメシマズだったけど、凄い料理人に早変わりしたってわけだね」
「そ、そっか……スキルってすごいのね」
「いやいや、キリエ、凄いのは君だよ」
わ、わたし……?
「そうでござる! 存在進化はキリエ殿が名付けてくれたおかげ!」
「キリエちゃんすっごーい!」
い、いや……だから凄いのはわたしじゃなくて、神さまなのだけど……。
信じてくれないのよね……ごめんなさい、ノアール神さま……。
「ささ! たくさん作ったのでござるよ! 食べてくださいキリエ殿! そして……ヴァジュラ殿もっ!」
美緋羅さんからは、ヴァジュラさんへの反感を感じられなかった。
若い世代の聖十二支さんは、昔のことを知らない分、仲良くなるのが早いのかも。
よかった、ヴァジュラさんが孤立するようなことにならなくて。




