123.宴の始まり
わたしたちは、新しい仲間が加わった宴を開くことになった。
デッドエンド村の中央広場にて。
「な、なんか立派なステージが用意されてるっ」
ステージ中央にはものすごい豪華な椅子があった。
背もたれに【今日の主役】と書いてある……。
「なるほど、ヴァジュラの椅子のことね」
「いんや、あんたのだよ、嬢ちゃん」
「ガンコジーさんっ」
ドワーフのガンコジーさんと、トロルのデッカーちゃんが仲良く手をつないで現れた……。
いや、いやいや……。
「主役って……今日はヴァジュラさんが加わったことに対する宴なんだけど……」
「でもでも、この森の主はキリエちゃんだべっ!」
デッカーちゃんとは女子友達。
様付けを最近になってやめてくれるようになったのだ。
「おや、準備は整ってるようだね」
「ヴァジュラさん! みなさん!」
聖十二支の皆さんが、ぞろぞろと現れる。
布面をつけた美女ヴァジュラさんが、近づいてきた。
「やぁキリエ。体調はどうだい?」
「おかげさまで、ばっちりです」
「それは重畳。皆心配してたんだよ」
「あ……ごめんなさい」
そうよね、みんな優しい子たちだもの。
わたしが酔って(たぶん何かやらかしもあって)、倒れたのを見て、みんなを不安がらせてしまったのだわ。
「ごめんなさい、みんな」
「いいえ、キリエ様がご無事で何よりです」
チャトゥラさんが獣人の姿でひざまづいて、わたしの手を取る。
整った顔をしてるので、ちょっとどきまぎしちゃうわ。
「キリエ様、先ほどは我らをお守りくださって、ありがとうございました」
……はい?
守った……。
「あー、チャトゥラ。キリエは何も覚えてないようだよ」
くま子さんがあきれ調子で言う。
ま、まさか酔って……聖十二支の皆さんに迷惑を!?
なんてこと!
もう……お酒なんて飲まないわ……! 絶対……!
「なんだ、覚えてないのかよ~。すごかったんだぜぇ」
「……キリエ、かっこよかった♡」
アニラさんとメドゥーサちゃんがうなずきあってるっ。
やっぱり何かしたのは確定……。
うう……わたしだけ仲間はずれっ。
圧倒的疎外感……。やっぱりお酒はだめね。
「よし、キリエ。皆そろったようだし、準備も万端さね。そろそろ宴を始めよう」
確かにみんな始まるのを、今か今かと待ちわびているようだ。
あちこちテーブルが置いてあって、そこには美味しそうな料理やお酒がたくさん載ってる。
森の仲間たち……魔物さん、ドワーフさんが、わたしの挙動に注目していた。
「そうね……始めましょう」
「よし、んじゃキリエはステージへいっておいで」
「うう……あの……やっぱりアレに座らないとだめ?」
今日の主役! とでかでか書いてある椅子に座るの、凄い恥ずかしいのだけど……。
でも、皆がせっかく用意してくれたステージ。
それをむげにするのは、わたしにはできないわ。
「わかった……わたし、行きます!」
『『『おおー!』』』
……でもひとりで行くのはちょっと恥ずかしい。
あ、そうだわ。
「ヴァジュラさん」
「ん? なんだい」
わたしは彼女の手を取って言う。
「一緒に座りましょ」
「! ぼ、僕も……かい?」
「ええっ」
だって今日の主役って、やっぱりヴァジュラさんだと思うし。
「いきましょう」
「あ、ああ……君がそう言うなら……」
ヴァジュラはおずおずとついてくる。
「くそっ! ヴァジュラめ! キリエ様に手をつないでもらっただけでなくっ、隣に座る権利までもらうとは! ずるいですよ!」
チャトゥラさんが地団駄を踏み、メドゥーサちゃんが恨めしそうにヴァジュラをにらんでいた。
まあまあ。
わたしたちはステージに上がる。
椅子は結構大きかったので、詰めれば二人で座れそうだわ。
「さ、隣どうぞ」
「い、いや僕は立ってるから……」
「だめっ。座るの」
わたしだけ座って、ヴァジュラさんだけ立たせるのも忍びないしね。
ヴァジュラさんは頭をかきながら、照れくさそうに言う。
「……君と居ると、平静を保てないよ。こういうのなんて言うんだろうね」
「ん? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
まあ何でも無いなら大丈夫ねっ。
わたしたちが椅子に座ると、くま子さんが皆を見渡す。
「野郎ども! 宴が始まるよ! 準備はいいかい?」
『『『おっけーおっけー!』』』
ぐーちゃんが近づいてきて、わたしの手の上に、ジョッキを載せてきた。
お、お酒はちょっと……。
まあでも、乾杯用のジョッキね。
大丈夫、飲まなければ酔わないわ。
「じゃあキリエ……乾杯の音頭を!」
「はい……ええと……みなさんっ」
わたしは皆を見渡す。
集まってる森の民さんたちは、皆笑顔だ。
ジッとわたしの顔を見つめている。
……わたしは、隣に座っているヴァジュラさんの肩に手を載せる。
「新しい仲間が増えましたっ。みんなで仲良くしましょうね!」
ばっ、とジョッキを掲げる。
「今日はお祝いよ! かんぱーい!」
『『『かんぱーい!』』』
みんな笑顔で応じてくれた。
たぶん……みんなヴァジュラさんのこと、受け入れてくれると思う。
よかったって……ほっとするわたしだった。




