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121.キレる神




 酔っ払ったキリエは、新しい力を顕現させていた。

 彼女の背中から生えている翼。



 その周りには無数の、透明な光の手……【見えざる手】が存在している。

 世界樹マーテルは鑑定スキルで読み取った情報を言う。



「どうやらあの力はキリエの体外に流出した魔力が、腕の形をし、自在に動かせるようじゃな」

「可視化するということは、それだけ高出力高密度な魔力の塊ってことだろう?」



 ヴァジュラの言葉に、マーテルがうなずく。

 メドゥーサは首をかしげる。



「……だからどういうことなの?」

「アレで殴られるとものすごく痛いということじゃ」



 背中から生える無数の見えざる手を備え付けながら、キリエがサーティーンの元へ向かう。



「ひぎいぃ! ひぃいいい! た、たすけてぇえええええ!」



 サーティーンは既に何度か、見えざる手による攻撃を受けている。

 だが、その体にはダメージがまったく入っていない。



「恐らくキリエは無意識に、魔力で相手をしているんだろうね」

「敵を殴って痛めつけ、すぐさま治癒で治す……か。恐ろしいことを考えるのじゃ……」

「体のダメージはなくても、痛みは脳裏にこびりついてるだろうしね」



 ヴァジュラ、マーテルの言うとおり、サーティーンはすっかりキリエに怯えていた。

 彼が受けたダメージは、今まで生きてきて味わったことないものだった。



「いやぁああ! たすけて……たすけてぇええええええええええ!」



 必死に命乞いをするサーティーン。

 キリエは目の前までやってくると、言う。



「謝って」

「は、はひ……?」

「謝って!!!!!!!」



 キリエの目には涙が浮かんでいる。

 そこには明確な怒りがあった。



「アニラさんと、メドゥーサちゃんと、チャトゥラさん! いじめた! ひどい! 友達いじめたらだめでしょ!?」

「あ、いや……おれ別にそいつらと友達ってわけじゃ……」

「駄目でしょ!」

「ハイすみませんその通りですぅうううううううう!」



 キリエの怒りに呼応して、魔力があふれかえり、見えざる手がとんでもない数になっていた。

 文字通り見えないはずなのだが、吹き出した透明の腕が周りの木々を刈り取っていく。



 中空に浮かび、謎の光を背中から発してる。

 その姿はまるで……



「神……」

「そーれふ! わらしが……神だぁ!」

「! や、やっぱり……」



 怯えるサーティーンをよそに、キリエが言う。



「わらしはねぇ~! 神なんれしゅ! 怒らせると天罰がくだります! だから……もう酷いことしちゃいけません! わかりました!?」

「は、はいぃいいいいいいいいい!」

「はいじゃねーだろ! 謝って三人に!」



 這いつくばりながら、サーティーンがアニラたちの元へやってくる。

 そのままシームレス土下座するサーティーン。



「ほんと、まじすんみませんでした……!」

「「「あ、はい……」」」



 背後で荒ぶるキリエを見ていると、サーティーンのことなんてどうでも良いと思ってしまった。

 サーティーンが謝ったところを見て……。



「よし! 一件落着!」



 それだけ言うと……ふっ、とキリエの体から力が抜ける。

 チャトゥラがフェンリルの姿となって、彼女を背中に乗せる。



「ぐぅ~……しゅぴぃ~……」

『キリエ様……疲れて眠ってしまわれたようですね』



 意識を手放したことで見えざる手はキャンセルされたようだ。

 全員が、はぁ……と安堵の息をつく。



「あの破壊力を持った無数の手が、暴れ回ったら……大変なことになってたよなぁ、牛女?」

「そうだね。奈落の森(アビス・ウッド)は更地だろう、確実に」



 ぐーしゅぴ~と安らかに眠るキリエには、とんでもないパワーが宿っているのだと、改めて全員が痛感させられた。



「しかし……意外じゃった。キリエのやつ、自分が神の力を持っていることを、自覚しておったのじゃな」

「「「あ」」」



 先ほど確かにキリエは、そう言っていた。

 いつもノアール神のせい(?)にしていたのだが……。



「おそらくは、キリエも薄々感づいているんだろうね。祈ることで神が力を貸してるのではなく、自分で力を使ってるのだと」



 ヴァジュラはキリエに近づいて、頭をなでる。



「なんでよぉ、認めねえんだ?」

「キリエにとってそれだけ、ノアール神は絶対的なものなんだろうね」

「わからねー……」



 ヴァジュラからの説明を聞いても、アニラは納得いってないようだ。

 まあいずれにせよ、これにて一件落着であった。



「じゃ、じゃあおれはこのへんで……」


 

 ゴキブリのように、かさかさとした動きで、その場から逃げようとするサーティーン。

 奈落の森(アビス・ウッド)には二度と近づかないと固く心に誓っていた。



 目の前であんだけ凄まじい力を見せられたのだ、当然と言える。



「……逃がすと思う?」

「ひいぃいいいい!」



 メドゥーサは髪の毛を蛇に変えて、サーティーンを捕縛する。

 キリエの魔物達に囲まれて、サーティーンは失神しそうになった。



「も、もういいだろ! 逃がしてくれよ!」

「ふむ……いいのかい? 君……死ぬけど」

「はひ……? 死ぬ……?」



 ヴァジュラはニコッと笑う。



「何の成果もあげず、のこのこと逢魔の元へ行ってみたまえ、君は確実に粛清されるだろう」

「あ、う……た、たし……かに……」

「そこで、ちょっと君に相談事があるんだ」



 ぽんぽん、とヴァジュラがサーティーンの肩を抱く。



「命が惜しければ従うんだね」

「それ相談事じゃなくて脅迫……」

「死にたいの?(にっこり)」

「ひぃい! 従いますぅうううう!」

「よしよし。メドゥーサ……じゃなかった、サンティラ。離してあげて」



 不承不承といったかんじで、メドゥーサがサーティーンの拘束を解く。



『何をするつもりなのですか、ヴァジュラ?』

「ま、ちょっと悪巧みだよ。こういう汚いことは、僕に任せておくれ。さ、行こうか」



 ひらひら手を振ると、ヴァジュラはその場から去って行く。

 マーテルは彼女を見てつぶやく。



「森に一人くらい、ああした汚れ仕事をやってくれる存在が……必要かもしれないのじゃ」



 その場にいた聖十二支デーバたちは、同意するようにうなずいたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「そーれふ! わらしが……神だぁ!」 やっと認めたか。 まあ酔いがさめたら忘れるんだろうが。
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