120.激おこぷんぷん神
チャトゥラたちのもとへ降臨したのは、キリエ・イノリ。
キリエはサーティーンの王剣を素手で破壊して見せた。
「キリエ様……」「キリエ……」「……キリエ」
倒れ伏す聖十二支の姿を見て……。
キリエは据わった目で、サーティーンを見やる。
「おまえかぁ~……? ああん? わたしの大事なおともらちに……ひっく、ひでえことしたボケナスはよぉ!」
キリエが切れると、彼女の翼がより強く輝く。
それは周囲に広がると、チャトゥラたちの体を優しく包み込んだ。
チャトゥラの体がとても楽になる。
アニラ、メドゥーサの顔色も元通りになっていた。
「キリエの治癒能力かぁ……?」
「いや、彼女の聖なる魔力による効果だよ」
「牛女!」
白澤の美女、ヴァジュラが、グリフォン・シンドゥーラの背中に乗って現れたのだ。
「魔力ってどういうことだ?」
「言葉通りさ。あれは治癒魔法じゃあない。単に彼女の体からあふれだした、聖なる魔力そのもの」
「魔力に治癒の力なんてあるのか……?」
「ないよ。キリエの魔力は特別なんだ」
「す、すげえ……」
彼女の魔力によって、聖十二支にかかっていた呪いは解除された。
しかも、である。
「し、信じられない……なんでおれも生きてるんだ!」
サーティーンは王剣の代償によって自らも死ぬはずだった。
しかし、今はチャトゥラ達同様にぴんぴんしてる。
「おそらくキリエの魔力はサーティーンにかかっていた呪いすら解いたのだろう。ほんと……慈悲深い子だ」
ヴァジュラが懐かしむように言う。
おそらくキリエの先代、聖魔王エレソンを思い出してるのだろう。
キリエはずんずんとサーティーンに近づくと、にらみつける。
「てめえ……よくもぉ! 大事な大事なおともらちを! せーばい……ひっく! してやりゅぅ!」
友を傷つけた敵に、仇討ちするのに、酔いのせいでろれつが回っておらず、いろいろ台無しだった。
一方サーティーンは呪いを解いたキリエの手腕に呆然としていたものの、すぐさま我に返り、邪悪な笑みを浮かべる。
「馬鹿が! 大将がのこのことでてきやがって! ちょうどいい! 今ここでぶち殺してやるぞ小娘ぇ!」
チャトゥラたちが一斉に、キリエを守ろうとする。
だがヴァジュラは「邪魔だよ。下がっておきな」と忠告。
「しかしヴァジュラ! キリエ様をお守りせねば……」
「あんたらは、わかってないよ。この森最強が、誰かってことを」
この森最強、普通に考えれば暴虐竜にして竜魔王、アニラのことだろう。
だが、今のキリエの体から感じる、莫大な魔力量は、その場にいた誰よりも多い。
アニラすら、キリエがまとうオーラに圧倒させられるほど。
「おまえ……おちおき!」
「は! やってみブベラッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
どごぉん! という音ととともに、サーティーンが消える。
アニラたちは目をむいていた。
「……見えなかった」
メドゥーサがつぶやくとおり、彼らの目には何が起きたのか、見えなかった。
唯一、特別な目を持つヴァジュラだけがわかった。
「あの子、あんな芸当までできるんだね」
さて、何が起きたのか。
サーティーンは見えない何かによる攻撃を受けて、後ろへとぶっ飛ばされたのだ。
それは魔物の突進とかそういうレベルではなかった。
体が粉々になったかと思ったほどの、衝撃だった。
「げほ! げほ! な、なんだよ……」
木々が一直線に破壊されている。
多分サーティーンが吹っ飛ばされた時に折れたのだと思われる。
……一番不思議なのは。
「か、体がいたくない……」
一瞬すさまじい痛みが走ったと思ったら、もうなくなっていたのだ。
何がどうなってるのかわからず、戸惑っていると……。
ずん、ずん、とキリエが悠然と歩いてくる。
彼女が歩いたところから、草花が生えていた。
「な、なんだよぉ! あれ……植物魔法かぁ!?」
「いいや違うね、あれはキリエの聖なる魔力の効果さ」
ヴァジュラが遠くから解説する。
「カノジョの特別な魔力は超再生の力を持つ。触れただけでどんな壊れたものも治すことができるのさ」
壊れた木々が再生していく。
キリエはサーティーンの目の前までやってきた。
「あやまって」
「え?」
バチィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「ふぎゃぁああああああああああああああああああああ!」
またも、見えない何かにぶん殴られて、サーティーンがぶっ飛ばされる。
木々をバキバキとなぎ倒しながら飛んでいき、やがて地面を転がる。
「なんだよぉ……何が起きてるんだよぉ……」
殴られて、強い痛みを感じ、しかし怪我一つしていない。
何が起きてるのかさっぱりわからない。恐怖だ。
「わたしゃぁ~……ゆるちまちぇん……ひっく、友達を、いじめる悪い子には……おしりぺんぺんです!」
ずずずず、とキリエの背後に、見えない何かがあるのを、感じた。
いつの間にか、チャトゥラたちの隣に現れた、世界樹の精霊マーテルが言う。
「見えざる手じゃ……」
「見えざる手、ですか?」
「うむ。鑑定スキルを持つわしには、見える! キリエの周りには、無数の透明な手が広がっておるのじゃ!」




