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111.ばーぶー



 くま子がキリエの元へ向かったところ……。



「ばぶ~♡ ばぶばぶ~♡ きゃーきゃー♡」



 場所はデッドエンド村(キリエたちの生活する村。そうなづけられた)の近く、酒蔵の前にて。

 キリエは顔を真っ赤にして、ほわほわ笑いながら、くま吉に抱っこしてもらっていた。



「く、くま吉……キリエはどうしちまったんだい?」



 自分の息子であるくま吉は、困惑気味に言う。



『ガンコジーちゃんの作ったワインを、一口飲んだんだよ。そしたら、なんか急に顔真っ赤になって、赤ちゃんみたいに……』



 くま吉に後ろから抱きしめられるような形で、キリエが座ってる。

 大きなクマのぬいぐるみとでも思ってるのか、あぐあぐ……とくま吉の腕を口にいれていた。



『き、キリエ姉ちゃん! よだれがついちゃうよ! やめてー!』

「や!」

『いや、や……じゃなくて……』

「やー! あー!」



 ……普段の真面目で優しいキリエはどこへやら。

 顔を真っ赤にしたキリエは、まるで駄々っ子のように、首を横に振った。



「どうやら酔っ払うと幼児退行するタイプみたいさね……」



 くま子がキリエの状態を見てそう分析した。

 ヴァジュラも同意するようにうなずく。



「普段から信徒として、らしいふるまいを強いてるからかな。酒に酔って抑えていた感情が解放されて、わがままになってるだろうね」



 なるほど、とくま子とマーテルが感心したようにうなずく。

 チャトゥラは慌ててキリエに言う。



「き、キリエ様! どうしたのですか? 何か悪いものでも食べたのですか!?」

「いや、だからチャトゥラ。酒飲んで酔ってるだけさね……」



 キリエのことを崇拝してるチャトゥラからすれば、今のキリエは乱心してるように見えるようだ。

 キリエはジーッとチャトゥラを見つめて言う。



「わんわん!」

「え?」

「わんわーん!」



 キリエはチャトゥラの尻尾を掴むと……。



「あぐあぐ」

「ぎゃー! き、キリエ様! おやめください! 尻尾なんて口にいれちゃ、ばっちぃですよ!」

「ちゅぱちゅぱ」

「やめてくだされ!!!!!!!!」



 しかし辞めろと言われてもキリエは辞めない。

 チャトゥラ、そしてくま吉は、彼女のおもちゃにさせられていた。



 くま子はその姿を見てため息をつく。



「ま、しばらくすりゃ元に戻るだろ。ふたりとも、あとは頼んだよ」

『母ちゃん! そんな、どうにかしておくれよぉ~』

「しばらくクマぬいぐるみしてあげるんだね」

『そんなぁ~……』



 くま子たちはくま吉たちに後を任せて、宴の準備を進めることにした。



「しかし幼児退行……か。どう思う、ヴァジュラ?」

「そうだね、キリエは、かなり自分を抑圧してるようだね」



 くま子も同じ意見だった。

 普段のキリエは、神の使徒として、己をかなり抑えて混んでいるようである。



「神にふさわしい女になるんだと、ある種強迫観念じみたものが彼女にはあるんだろう」

「そこまでわかるのかい?」

「なんとなく……ね」



 ヴァジュラが布面ごしに、背後のキリエを見やる。



「くまたん♡ ちゅき~♡」

『お、おいらも好きだけど……ちゅぱちゅぱやめておくれ』

「やーん♡」



 無邪気に笑うキリエは、とても楽しそうだ。

 今の彼女が素だとしたら……。



 普段のキリエを、ちょっとかわいそうに思えてしまう。



「そーいや、キリエは親がいないんだった」

「なるほど……だから神にすがって……今の彼女がいると」

「かわいそうに。あれが本来の彼女なんだろうさね」



 別に今のキリエを否定してるわけではなかった。

 ただ、神の存在が今のキリエを作ってるのだとしたら……。



「神ってやつを、あたいは好きになれないね」



 子供を持つ親として、キリエを自由にさせない神という存在を、憎らしく思うくま子だった。


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[一言] >子供を持つ親として、キリエを自由にさせない神という存在を、憎らしく思うくま子だった。 ノアール神「俺は悪くねえ!俺は悪くねえ!」
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