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107.女神のワイン



 トロルのデッカーちゃんと、ドワーフのガンコジーさんに呼び出されたわたし。

 洞窟のなかで、彼らはワイン倉を作っていたわ。


「ワインってどういう風に作ってるの?」

「足ふみでワインを作ったんだべ!」

「あしふみ……?」


 実際に現場を見せてもらうことにした。

 洞窟から出て少し言ったところに、大きな木のオケがあった。


『ぶどうだ』『ぶどうがたんまりだ!』『ぶどーじゅーす?』


 魔物ちゃんズ(魔物の子供たちの意味)が、木のオケをのぞきこみながら言う。

 ガンコジーさんは首を横にふるって説明する。


「ワイン用のブドウをこの中にいれて、踏み潰すんだ。あー……少し放置しておくと、酒になる」

『『『ほえー! すげー!』』』


 多分もっといろんな工程があるんだろうけど、子供たちにわかりやすいよう、あえて説明を省略したのだろう。


「ねえデッカーちゃん、ガンコジーさんって、優しいひとよね」


 子供にもわかるよう、優しくかみ砕いて説明してくれるし。

 するとデッカーちゃんが表情を明るくして、何度もうなずく。


「でっしょー! がんこじーはぁ♡ 優しくて素敵なカレシなんだべ~♡」


 べんべんべん! とわたしの肩を何度も叩くデッカーちゃん。

 痛くはないんだけど、身体が……う、うまる……。


『姉ちゃんが埋まってる! だーっしゅつ!』


 くま吉くんがわたしのことを、ずぼっと地面から引き抜く。


「ありがとう。しかし……足踏みかぁ~……楽しそうね」


 ちょっと興味があるわ。


「おらと一緒に踏み踏みしようだべ!」


 ということで、わたしはデッカーちゃんと一緒に、足踏みを体験させてもらうことにした。

 靴と靴下をぬいで、足を川であらってくる。


 ぶどうの色素で服が汚れてしまうとのことで、デッカーちゃんに作業着をかしてもらった。


『おいらが姉ちゃんの髪の毛を、アップにまとめるんだい!』

『ぴゅー! ぐーちゃんがやるのー!』

『すらーのでばーん』


 魔物ちゃんズが言い争いをしてる。

 その間に、デッカーちゃんが髪の毛をアップにしてくれた。


『『『あー!』』』

「ありがとう、デッカーちゃんっ」


 ふふ、わたしと同年代の女の子って、あんまりいないのよね。

 だから……デッカーちゃんはなんというか、普通の友達みたいに話せるから、うれしいのよねえ。


「どういたしまして! さ、キリエ様!」

「キリエで良いわ」

「お、おそれおおいべ……」


 うーん、でも向こうはかしこまっちゃうのよね。

 残念。


 わたしたちはオケに入って、ぶどうをふみふみする。

 ぐっちゃ、ぐっちゃ、とブドウをふむのは、なんだか楽しい。


「あふっ、あ、足の指の間にブドウがはいって、く、くすぐったいっ」

「おいっちーに! おいっちにー! キリエ様もほら一緒に!」


 わたしたちは一緒に、ブドウを踏み潰す。


『いいな~。おいらもふみふみしたいぜ。なんでだめなの?』

「くま吉の坊主よ、おまえさんら全身毛皮じゃあねえか。しみてブドウ色になっちまうのじゃ」

『なるほど~……うーん、それはちょっとなぁ』


 やがて、わたしたちは外に出る。


『おいらが姉ちゃんの足をペロペロするんだ!』『ぴゅー! ぐーちゃんのペロペロのほうがペロペロだもん!』『すらーにおまかせ!』


 今度は誰が、わたしの汚れた足を拭くかでもめていた。

 いいのに……。


 ガンコジーさんから布を借りて、自分で足を拭くわたし。


『『『あー!』』』

「ごめんね、でも友達に足を拭かせるのはちょっとね」

『『『じゃあしょうがいなぁ~』』』


 どうやら納得してくれたみたい、魔物ちゃんズ。ほっ……。

 別にわたしはお貴族さまじゃないし、他人に何かしてもらうのって、あんまりスキじゃないのよね。


 それに友達は対等、魔物さんたちも、亜人さんたちも、みんな仲間だから、何かしてもらうって言うのは……ちょっと、いやかなり心理的な抵抗があるの。

 まあそれはさておき。


「ぶどう酒ってこれ、どれくらいで完成するの?」

「発酵にはまあそこそこ時間がかかるのじゃ。おおい、くまの坊主、樽にオケのもんぶっこむの手伝っておくれ」


 くま吉くんがうなずいて、オケに手をかける。

 そのとき、彼がくんくんと鼻を鳴らした。


『ねー、ガンコジー。なんかお酒の匂いするぜこれ』

「いやいや、まだ発酵してないから、酒のにおいなんてするわけがないのじゃ」

『いやでも、まじだって。来てみておくれよ』


 なんだろう?

 わたしたちはオケの近くに寄る……。


 すると、確かにブドウのなかにまじって、お酒の豊潤な香りがした。


「! こ、これは……!!!!」


 ガンコジーさんが手を突っ込んで、一口すする。


「う、」

「う?」

「うまぁああああああああああああああああああああああい! 酒じゃぁああああああああああああああああああああ!」


 ガンコジーさんが絶叫する。

 そして、がぶがぶと手ですくって、ワイン(仮)をすする。


「なんてうまいのじゃ! こんな上手い酒は……生まれて初めてのむのじゃ!」

「良いブドウ使ってるから?」

「いや違う……これは、ブドウがどうとかってレベルじゃあない」 


 じゃあどういうことだろう……


『出たぜ』


 と、くま吉くんがしたり顔で言う。


『姉ちゃんの……出汁が!』

「だ、出汁……!?」


 なにそれ!?


『前にほら、温泉でさ、キリエ姉ちゃんの出汁が、すげええ健康に良い成分だしてたじゃん?』


 そ、そういえば……。

 ガンコジーさんたちの故郷、カイ・パゴスにて、わたしが温泉に入ったことがあった。


 そのとき、温泉がなんかすごい温泉にパワーアップしていたのである。

 どうやらわたしの持つ、特別な魔力が液体に流れ込んでいたから……らしい。


『ぴゅいい~! 女神のワインだ!』

『めがみのわいん~』


 め、女神のワイン……なんか嫌なネーミングだわ……。


「これは女神のワインじゃ! 貴族に売れば、高値で買ってくれるじゃろう!」


 職人が言うなら、本当にそうなのかもしれない……。

 でも、別に売る気はないわ。


「じゃあこれを宴で出しましょう」

「よいのか? これ1リットルで同じ重さの金貨になるレベルの、すごいワインじゃぞ?」

「別にお金儲けしたいわけじゃあないし。みんながおいしいって思ってくれればそれでいいからね」


 するとガンコジーさんが、あきれたような、でもどこか感心したようにうなずく。


「やはりキリエの嬢ちゃんは、心が美しいな」

「そうかな?」


 うんうん! とデッカーちゃんたちがうなずいてくれた。

 ちょっと気恥ずかしくて、頬をかいてしまうわたしだった。


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[一言] 女神様は昆布だった(笑)
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