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106.宴の順番、すごいぞキリエ水!



 ヴァジュラさんを迎える、宴を開くことになった。

 正直、聖十二支デーバの……もっといえば昔からこの森にいる方達は、まだヴァジュラさんを警戒してる。


 だから、この宴で少しでも、ヴァジュラさんが他の聖十二支デーバたちと仲良くなれたらなぁって思ってるのだ。


 旧楽園デッドエンドでは、急ピッチで、宴の準備が進んでいる。

 わたしはくま吉君の背中に乗って移動していた。



 頭にはグリフォンのぐーちゃんが乗っており、腕にはスライムのスラーちゃん。

 基本、わたしが移動するときは、このメンツで行動している。


「いつもごめんね。馬車みたいに使って」

『いいんだ、おいら、キリエ姉ちゃん背中に乗っけるの、好きだし!』

「くま吉君……」


 本当に良い子だわ。

 

『それに姉ちゃんは目を離しちゃだめだって、母ちゃんからきびしーく命令されてんだ。危ないって』

「あ、あぶない……? どうして……?」

『目ぇ離すとすぐに転移でどっかいっちゃうだろ~? 赤ちゃんよりも目が離せないって……あ、やべ』


 くま吉君が気まずそうに目をそらす。


『ごめん姉ちゃん! これ姉ちゃんにはないしょだった。だから、いまの、なし!』

『なーし!』『なーしー』


 うう……くま子さんからの扱いが、幼児以下なのだった……。

 まあでも、ね。

 

 今までの行いから考えると、くま子さんの言ってることはわからなくもないわ。

 直ぐ転移しちゃうのよね……でも、困ってる人はほっとけないじゃない?

 

「あ、おーい! キリエ様~!」

「デッカーちゃん、こんにちは~」


 村から奈落の森(アビス・ウッド)に流れていく川のほとりには、元トロルの少女、デッカーちゃんがいた。 

 前は背が高く、少し太ってて、トロルって見た目だったんだけど、今は人間の少女姿をしている。


 超人っていう種族に進化したのよね。

 デッカーちゃんの足が、葡萄色をしていた。


 頭には頭巾をまいており、これもまた葡萄色をしてる。


「何してのたの?」

「ガンコジーに教えてもらって、お酒造ってたんだべ!」


 ガンコジーさんというのは、デッカーちゃんの恋人で、ドワーフの男の子。

 その彼がわたしに気づいて近づいてきた。


「キリエ嬢ちゃん、またやらかしたんじゃってな」

「あ、あはは……またやっちゃいました……」


 面目ない……。

 ガンコジーさんは苦笑する。


「まあでもまた、困ってるやつを救ってきたのじゃろ? それはおぬしにしかできない凄いことじゃ」

「が、ガンコジーさんっ」

「まあでも勝手にいなくなるのはよくないがの」

「ですよねー……」


 ガンコジーさんは「ところで」といって、ポケットから何かを取り出す。


「わぁ……! 綺麗な髪飾り……! これは……鳥?」


 銀で作られた、小さな髪飾りだ!

 わぁ、きれい~。


「おぬしに、やる」

「え、ええ!? そんな……駄目よ! 駄目駄目!」


 え? とガンコジーさんとデッカーちゃんが目を丸くしてる。

 アアもう! にぶいんだから!


「デッカーちゃんっていう恋人がいるのに、他の女の子にプレゼントするだなんて、いけませんっ!」


 デッカーちゃんは見たところ髪飾りつけてないし、わたしだけもらうのは駄目!

 恋人がいるのに他の女にプレゼントだなんて、デリカシーがない殿方だわ!


「え、ええとぉ~……キリエ様。おらは別にいらないべ」

「あら、どうして?」

「だってそれ発信k……(もごもご)」


 発信……?

 ガンコジーさんが、デッカーちゃんの背後に回って口を押さえる。


『なんだなんだ、いちゃついてるのかー?』『ぴゅいー! じゃれあいだ!』『こーびー』


 こーびー?


『ばっかスラ! 姉ちゃんにはまだ早いからそれ!』


 く、くま吉くんに子供扱いされてしまった……。

 あ、あれ……わたしのほうがお姉さんなんだけど……。


 うぉほんっ、とガンコジーさんが咳払いをする。


「デッカーへは別のプレゼントを作ってる最中じゃ」

「なら……よし! よかったね、デッカーちゃんっ」


 こくんこくんっ、とデッカーちゃんが嬉しそうにうなずいた。

 しかし……ふふ、凄い綺麗な髪飾りだわ。


「気に入ったわ、ありがとう」

「あ、ああ……まあくま子に頼まれたのじゃ」

「くま子さんに?」


 ふぅん……なんでだろう。

 まあでもいいものもらったわ。大切にしよっと。


 するとガンコジーさんが横向いて安堵の息をついていた。なんだろう?


「それで、デッカーちゃんたち、お酒造ってるってほんと?」

「うむ、こっちじゃ」


 そういって、川から少し離れた森の中に、洞窟があった。


『うひょー! ひんやりきっもちー!』


 くま吉君が嬉しそうに言う。

 そういえばこの子って結構毛深いしね。暑いの苦手でしょうから、この冷たい洞窟の中はきもちいんだろう。


「わぁ……! すごいわ、これ、ワインボトル……?」


 洞窟の奥にはワインボトルがいくつも並んでいた。

 お城でみたことがあるような、ボトルがたっくさん!


「こんなにたくさん、どうやって作ったの? そもそも原料どうしているの?」

奈落の森(アビス・ウッド)に生えていたものを、魔物に頼んで採取してもらってきたのじゃ」

「森に……? ぶどうなんてあったかしら……?」


 するとガンコジーさんがあきれたように言う。


超神水ちょうしんすいの影響じゃろう」

超神水ちょうしんすい……ああ……あれ」


 わたしが祈ったら、湧き出た水のことだ。


「あの水は森に恵みをもたらし、何もないところに果実や野菜などを、それはもう大量にならせていたのじゃ」

「ん? んん!? え、なにそれ……そんなの知らない……。ほんとなの?」

「事実じゃ。キリエの水の効果で、森の土壌が変質したのじゃろうな。その影響で、手入れをせずとも、高級な果物や野菜が勝手に生えてくるのじゃ」


 きょ、驚愕の新事実なんですけど……。


『やっぱ姉ちゃんはぱねえや!』『ぴゅい! はんぱねー!』『ぱねえ』


 ううん~……。

 わたしじゃなくて、神さまが凄いのに~。

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