第七十五話 お詫び代わりにバスケをしろって、結構なバスケジャンキー
此処までが三章のプロローグかな?
「……いやね? そりゃ、別に良いんですよ? 先輩方の喧嘩が長引くよりはね? でもね? 流石にどうかと思うんですよ」
「いや……すまん」
「済まんじゃないですって! 普通はですよ? 『瑞穂、喧嘩は収まったよ。迷惑掛けて悪かったな。お詫びに、今度デートでも行くか』って言うでしょ、普通!!」
「……言わないでしょ、普通」
「言えよ! 私をデートに連れてって!」
「いや、そんなスキーに行くみたいなノリで言われても」
学校からの帰り道。ぷりぷりと怒る瑞穂を宥めながら、俺はその隣を歩幅を合わせて歩く。先日までの喧嘩が丸く収まった事は良かったのだが、どうやらその報告が遅れた事がえらくご立腹らしい。まあ、あんだけ迷惑掛けてりゃそりゃそうではあるが。
「全く……なんですか? 私の事、忘れてたんですか!!」
「いや、別に忘れていた訳じゃないんだが……」
なんだろう。誰か報告すると思ってたんだよな。涼子や智美が報告するのが一番、真っ当な気がするんだが……なんで俺に怒るんだよ、コイツ。
「……もー、良いです。どうせ私なんてそんなモンですから……」
「……いじけるなよ。ホレ、代わりに今日は付き合ってやるから」
そう言って手に持った――瑞穂のスポーツバッグを掲げて見せる。丸く膨らんだソレの中には皆大好きオレンジのボールが入っていたりする。
「これはアレですよ! こないだ秀明とバスケ勝負したっていうから、そのお詫びです! 今回のお詫びは別口で付き合って貰いますからね!」
「……なんで秀明と勝負したお詫びにお前ともバスケしなくちゃならんのだ」
「当たり前じゃないですか! だって秀明ですよ? 秀明とバスケ勝負したんだったら、私としてくださいよね! じゃないと、私が負けたみたいじゃないですか!」
「なにと戦ってんだよ、お前は。っていうか、秀明の扱い、ひどくね?」
幼馴染愛の無いやつだ。茜も含めてだけど……そろそろ拗ねるぞ、秀明。
「良いんですよ、私たちはこれで! それより先輩! つきましたよ!」
話の流れで大体ご理解いただけると思うだろうが、本日バスケ部の部活は休養日という事で、瑞穂と二人でバスケをしに近場の公園までやって来た。瑞穂曰く、秀明とバスケをしたお詫びとのことだが……まあ、正直、なんで秀明とバスケをしたお詫びに瑞穂とバスケをしなくちゃいけないのかは全然理解は出来ていない。ちなみに同じくバスケ部休養中の智美は仲直り記念という事で涼子と――そして、なんと桐生と三人でカラオケに繰り出している。成長したな、桐生。
「……おい、犬っころ。ちゃんと準備運動はしろよ」
「がってん承知!」
「いつの時代だ。っていうか、犬は否定しないのな」
既に我慢の限界と言わんばかり、今にもコートに飛び出して行きそうな瑞穂に一言釘を刺し、俺はスポーツバッグからボールを取り出すと軽くドリブル。そのまま、スリーポイントラインまで近づくとシュートを放つ。
「……っち」
ああ、無情。リングに弾かれたボールに軽く舌打ちをして俺はゴール下まで走るとそのボールをキャッチし、そのままレイアップシュート。ボールはリングの中に吸い込まれた。
「あー! 浩之先輩、ズルい! 私にはアップしろって言った癖に!」
「こんなもん、アップだ、アップ。お前は怪我しない様にしっかり準備運動しろ」
「うー……ストレッチしたら直ぐにワン・オン・ワンですからね!」
「……はいはい」
不満そうな顔のまま、屈伸運動を始める瑞穂を苦笑で見やり、俺はシュート練習を続けた。
◆◇◆
「あー! くそー! 相変わらず上手いですね、浩之先輩!!」
「ふふーん。まだまだ瑞穂には負けん」
「うー! 悔しい! もう一本!」
「こらこら。今日はこの辺で止めとけ」
あれから、数回のワン・オン・ワンを繰り返し、先輩の威厳もあってどうにかこうにか勝ち越した俺は、傍の自販機で買ってきたスポーツドリンクを一本、瑞穂に投げる。上手いことそれをキャッチした瑞穂はキャップを開けて一気にそれを喉に流し込んだ。
「……ぷはー!」
「……おっさん臭いぞ、おい」
「なにをいまさら。いつも通りでしょ?」
「……まあな」
コイツは一々仕草が親父臭い。顔はそこそこ可愛いくせに……なんだろうね、ホント。もったいない。
「にしても、お前も上手くなったよな?」
「……コテンパンにしておいてなんですか? 嫌味ですか?」
「どこがコテンパンだよ。僅差の勝利だろうが」
本当に。正直、アウトレンジのシュートが決まらなかったらヤバかった。流石、現役というか、ディフェンスの一つ一つが中学校時代より段違いに上手くなっている。ちょこちょこ一緒にバスケをしてたが……コイツ、どんどん上手くなってるなと再確認。
「そういえば……秀明はコテンパンにしたって言ってましたけど? 最後は負けたけど、それまでは俺のワンサイドゲームだった! って」
「……あれは反則じゃね?」
身長差もあるし、経験年数だって今じゃ秀明の方が上だぞ? それは流石に勝つって方が無理なんだが。
「ま、そうですよね。むしろ、聖上で一年でベンチ入りってイキってた癖に、現役引退した浩之先輩に一本取られたって所がむしろ格好悪いって言うか……ざまぁ」
「お前ら本当に秀明の事嫌い過ぎね!?」
茜もだけど、秀明に対する『あたり』がきつ過ぎやしないかね?
「さっきも言ったけど、良いんですよ。私たちの関係はこれで。拗らせ幼馴染ーずの先輩方とは違うんですから」
「それを言われると辛いが……すまん。マジで今度なんか奢るわ」
「それは勿論、楽しみにしておきます。でも……そうですね、それよりはバスケの練習に付き合って貰った方が嬉しいですかね~。最近、ちょっと伸び悩んでまして」
「……アレでか? 充分、巧くなってないか?」
元々練習好きのヤツだったが……それでも、やり過ぎじゃないのか、おい。
「まだまだですよ! 秀明は勿論、茜にも負けてられないですし!」
そう言って鼻息荒く握りこぶしを作って『ふんす』と息を吐く瑞穂。止めてしまったとはいえ、元バスケ部として――そして、バスケ好きとしては練習を頑張るその姿は好感が持てる。
「やり過ぎは体に毒だぞ?」
「それ、浩之先輩にだけは言われたくないんですけど?」
確かに。やれやれと呆れた様に肩を竦める瑞穂のそんな姿に少しだけ苦笑を浮かべて。
「……ま、たまにはな」
罪滅ぼし代わりに付き合ってやるか。
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