えくすとら! その二百二十七 秀明君の浮気相手
俺と桐生の『お前が言うな』の視線を受けた茜と秀明は、慌てた様に両手をわちゃわちゃと振って見せる。
「ち、違うよ! 私たちはおにぃ達とは違うから! ね、ねえ、秀明!!」
「そ、そうっすよ! 俺ら、別にバカップルとかじゃねーっすから!!」
「……説得力の無さよ」
本当に。そんな俺らのジト目に、『うっ』と言葉を詰まらせた後、茜がコホンと一つ咳払いをして見せる。
「そ、そもそも! 私たちは普段逢えないの!! だから、逢っている時間は大事にしたいと思っているから、少しくらいはこう……あ、溢れても可笑しくないし!!」
「なに、そのトンデモ理論」
「そ、そもそもおにぃと彩音さんはいっつも一緒に居るじゃん!! 街中でいちゃラブしなくても、家に帰ってからすれば良いじゃん!! しかも二人きりだし? ヤリたい放題じゃん!!」
「言い方!!」
やめろよ!! 天下の往来で何言ってんだ、コイツ!!
「あ、茜! ちょっと落ち着け!!」
「なによ、秀明!! どっちの味方なの!?」
「お前の味方だよ!! お前の味方だけど……浩之さんの言う通りだろうが! こんな街中で何言ってんだよ、お前!!」
肩でふーふーと息をして威嚇をしてくる茜を宥めながら、秀明が視線だけで『すんません』と謝罪の意思を示す。出来たトップブリーダー……じゃなかった、弟分だよ。
「……まあ、こっちも悪かったよ。それで? お前らはデートか?」
話を変える為にため息を一つ。その後、話始める俺に秀明が笑顔を浮かべて見せる。
「そうです。殆どデートらしいデートも出来て無いんで」
「いいじゃねーか」
「えっと……浩之さんと桐生先輩もデートですか? っていうか、今日は北大路と西島さんのデートに付き合ってダブルデートとか言ってませんでした?」
「その予定だった……というか、今もダブルデート継続中ではあるんだが。ちょっと別行動中だな」
「……ああ。まあ、それも必要かも知れませんね。それでお二人はシングルデートをしているわけですか」
「ただのデートをシングルデートって言うのか?」
言わんとしている事は分からんでもないが。
「もうちょっと別行動したら合流予定だな。まあ、予定は未定ではあるが。あ! 折角だし、お前らも合流するか?」
俺の言葉にイヤそうな顔を浮かべる茜。なんだよ?
「おにぃ、言ってるじゃん。私たちは普段中々逢えないの! 折角の二人きりでのデートなの!」
「……おお」
確かにな。
「別におにぃと彩音さんの二人と一緒に居るのがイヤな訳じゃないよ? イヤな訳じゃないけど……」
ちらりと俺から桐生に視線を移す茜。そんな茜に、桐生がにこやかな笑顔を浮かべて見せる。
「ええ。それはその通りね。っていうか、今のは東九条君が悪いわ」
「……わりぃ」
うん、ちょっと配慮が足りなかったわ。皆で遊ぶのも楽しいけど、そら恋人と二人でデートもしたいわな。
「変な事言ったな。忘れてくれ」
「……いいよ、別に。おにぃの気持ちも分からんでも無いし」
そう言って茜は小さくため息を吐いて。
「そもそも私、北大路嫌いだしね? また喧嘩になったらイヤじゃん」
「……おい」
……お前な?
「……小学校の時の話だろ? 別に北大路に悪気があったわけじゃねーんだし……っていうか、あれは確実にお前が煽ったから悪いんだろうが。流石にそれを何時までもネチネチネチネチ言うのはどうなんだよ?」
つうかお前、もうちょっと竹を割った様な性格だろうが? 少なくとも、小学校の頃の恨み言をつらつらいうタイプじゃなかったと思うけど?
「……別に小学生の頃の恨みつらみがある訳じゃないし」
「なに?」
「だから、別に小学生の時の事を言っている訳じゃないの! まあ、あの頃の私の態度も……まあ、ちょっと考えても最悪は最悪だしね。あそこで一発かましたし、もうその辺の所はどうでも良い。どうでも良いんだけど……」
そう言って少しだけ秀明を睨む茜。そんな茜の視線に、気まずそうに視線を逸らしてそっぽを向く秀明。え? なに?
「……古川君絡みかしら?」
その視線に目敏く気付いた桐生が茜にそう声を掛ける。そんな桐生の言葉に、茜は力強く頷いて。
「――だって秀明、京都に来ても北大路と浮気するんだもん! そんな浮気相手と仲良く出来るほど、私は人間出来て無いから!!」
「ちが! ご、誤解です、浩之さん、桐生先輩! ちょ、茜!! 言い方があるだろうが、言い方が!!」
茜の言葉に、秀明の慌てたフォローの言葉が入った。まあ、俺も秀明が浮気をしているとは思っていないが……良いのか、お前ら? ほれ、見て見ろ。周りの人が『あら? 修羅場?』みたいな顔でこっち見てるぞ?




