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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その二百二十六 お前が言うな


「……見たく無かったわ~。おにぃのあのオス顔、見たく無かったわ~」

 完全にゲスを見る目でこちらを見てくる茜。なんだろう? 物凄く居た堪れない。実の妹にあんな目で見られるのもイヤだし。

「その……お二人が仲が良いのは良い事だと思うんですよ。思うんですけど……流石に外ではちょっとどうかと……」

 弟分のこの気まずそうな顔よ。本当にごめん。お兄ちゃん、ちょっと人の目とか気にしなさすぎだったかも知れない。

「そ、そうね! 流石にちょっとやり過ぎだったわね!! あ、ありがとう、茜さん、古川君!! 注意してくれて!!」

 こちらもこちらで居た堪れないのか、桐生が心持大きな声を出して無理矢理に笑顔を作る。そんな桐生の笑顔を見て、茜が『はぁ』と大きくため息を吐いた。

「いやまあ、秀明じゃないけど、おにぃと彩音さんの仲が良いのは良い事だと思うよ? でもさ、おにぃ? 流石に公共の場で『あれ』はどうかと思うけど……」

「その、本当にすまん。流石に目に毒だよな」

「いや、別に目の毒とは言わないよ? あれぐらいイチャイチャしているカップルは沢山いるわけだし……実の兄だとキツイけど、普通なら別にどうとも思わないし」

「……」

「ただ、おにぃは別にどっちでも良いけど……彩音さんのあんなえっちぃ顔、こんな路上で見せても良いの?」

「え、えっちぃ――……顔って……」

 茜の言葉に桐生が大声で否定しかけ、『えっちぃ』という言葉をこの場で叫ぶべきではないという冷静の判断のもとで声を絞る。うん、此処でそんな事叫んだら二次災害も良いところだしな。

「彩音さんの事が大事なら、あんな顔を路上でさせるべきじゃないよ? 物凄く色っぽい顔だったし、道行く人の視線を独占しちゃうんじゃない? まあ、おにぃの趣味が『どうだ! 俺のカノジョ、エロカワイイだろ!』って見せびらかしたい性癖なら別に否定はしないけど……」

「んな性癖あるか!!」

「それじゃ猶更、外では気を付ければ? 女の私だって秀明が性的な目で見られるのは納得いかないしさ? どっちかって言うと潔癖のおにぃなら我慢ならないんじゃない?」

「俺、潔癖か?」

「潔癖だよ。じゃないと、あんだけ幼馴染拗らせてないって。綺麗なままで三人の関係を維持しようとするからあんな無茶、無理、無様の三拍子揃うんじゃん」

 そう言ってけらけらと笑って見せる茜。言い返したいところではあるが……いかんせん、実際に無茶で無理で無様だったしな。そのせいでこいつと瑞穂の睡眠時間もだいぶ犠牲になったんだろうし。

「潔癖はともかく……まあ、桐生がそういう目で見られるのは気持ちがいいもんじゃねーな」

「でしょ? ならイチャイチャはお家でやって下さい」

 そう言って少しだけ呆れた目を俺――じゃなくて、桐生に向ける茜。その視線に少しだけ桐生がびくっと体を震わせる。

「な、なにかしら? 茜さん?」

「いや……っていうか、彩音さんとおにぃって一緒に住んでるんですよね? なら、今以上のいちゃいちゃ、家でしてないんですか?」

「ど、どういう意味かしら!?」

「いや、なんていうか……言葉攻めだけで」

「言い方!!」

「……言葉だけであんなえっちぃ表情するのはどうかなって意味ですよ。普通、家でいちゃいちゃしてたら少しは耐性が付いたりしません? あんな顔するなんて……ねえ、秀明? 彩音さん、凄く色っぽい顔してたよね?」

「え!? そこで俺に振るの!? どう答えても事故案件じゃないか、それ!?」

 視線を秀明に向けてそういう茜に、驚いた様に声をあげる秀明。うん、だれがどう考えても巻き込まれ事故だ。そんな秀明だが、それでも愛する彼女の言葉だからか、『あー』とか『うー』とか言いながら視線を中空に向けたり、地面に向けたりしながら。

「……そもそも、お前が目潰しして来たんだろうが。だから桐生先輩の顔は見てねーよ」

「あ、逃げた」

「に、逃げた訳じゃねーよ!! 実際、見えなかったし!!」

 うん、俺も逃げたと思ったけど。そんな秀明に、茜が呆れた様にため息を吐く。

「……まあ、目潰し仕掛けておいてなんだけど……別にそこまで私は気にしないよ? 秀明だって男の子だし? 『そういう』事に興味があるのも仕方ないかな~とは思うしさ? そもそも、私達遠距離だし? 我慢させているのは分かっているから」

「……まあ、俺も男の子だし。そういう事に全く興味が無いとはいわねーよ。そもそも、そういう事に全く興味が無ければお前と付き合っている訳もねーしな」

「だよね? むしろ、全く興味が無かったらそっちの方が不健全――」


「でも、俺はお前しか見てねーから。だから……んな事言うなよ」


「――……え?」

「だ、だから! 別に誰かに余所見したりしないし……お、俺が好きなのはお前だけだから!!」

「……」

「……」

「……あ、アリガト……」

「……お。おう……」

 頬を真っ赤に染めて下を向く茜と、気まずそうにそっぽを向く秀明。うん。

「……ねぇ?」

「なんだ?」

「なに見させられているの、私達?」

「……何見させられているんだろうな、俺ら」

「というか……これがアレね? よく見る……『お前が言うな』ってやつね?」

「……まあ、うん」

 典型的なお前が言うな、だよな~、これ。


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