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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その二百二十 桐生彩音が何言ってるか分かんない件

西島とのタイテツ対決でボロ負けした俺だが、桐生の顔から笑みが消える事は無かった。曰く、『どうせ私がやっても勝てないから』との事。まあ、正味流石に西島の『アレ』は凄まじかったしな。まあ、そうは言っても、だ。


「……んじゃ、次は何します? 俺は何でもエエんですけど……」


「折角なら二人ペアでやれるのが良いわね。それじゃ……『アレ』なんてどうかしら?」


 そう言って桐生が指差す。その指先の動きを追って。


「エアホッケーか」


 そこにあったのはエアホッケーの筐体。今更説明は要らんだろうが、マレットと呼ばれる器具を手に持って、プラスチックのパックを打つゲームだ。下から空気を出して、パックをホバークラフトの要領で浮き上がらせて打つことからこの名が付いた、まあボーリング場やゲームセンターなんかでよく見る定番の遊具である。


「俺は良いけど……北大路は?」


「俺も構いませんよ? 正直、格闘ゲームとかレースゲームみたいな……ピコピコのゲームよりは、こんな感じの体動かすゲームの方が性に合ってますし。せやから構わへんですけど……西島さんはどないや?」


 視線を西島にずらす北大路。そんな北大路の視線を追って――ええ~……


「……なんかすげー嫌そうな顔してないか、西島?」


「いえ、別に嫌そうなって事は無いんですけど……」


 そう言って今度は視線が桐生に。さっきからあっちこっちと忙しい俺の視線も、西島の後を追うように桐生に向かって。


「……なにやってんの、桐生?」


「なにって……練習よ、練習! イメージトレーニングは大事よ? こう、パックが飛んで来たら……マレットを、こう!!」


 そう言って空気も出てない台の上でスチャ、スチャ、とマレットを左右に振って見せる桐生。いや、マジで何やってんの、お前? ちょ、止めてくれない? ほら、あそこの小学生くらいの男の子が、『おかあさん、あのお姉ちゃんパックも出てないのに何してるの?』とか聞いてるじゃん!! 恥ずかしいって!! ゲーセンのエアホッケーでイメージトレーニングするのは!!


「……いや、彩音先輩が負けず嫌いなのはまあ、知っていましたけど……」


「……せやな。いや、別に構わへんのですよ? 構わへんのですけど……なんやろ? 流石にちょっと……」


「ちょっと? 北大路君、言葉は正確に使うの! たかがゲーセンのエアホッケーで負けたくないからイメトレまでするのはちょっとじゃなくてドン引きだから!」


「……俺、それでも言葉選んだのに」


「必要なし! 東九条先輩でもそう思うでしょ?」


「……ノーコメントで」


「それはコメントしているのも同じです。っていうかですね? 折角のデートなのに勝負、勝負って……ダブルデートって、そういうものじゃ無くないですか? 貴方の彼女、物事に優劣つけないと納得しないタイプなんですか?」


 昔はともかく、今はそうでも無いんだけどな~……まあ、アレだ。


「……桐生もダブルデート自体は初めて……」


 一瞬、言い淀む。


「……初めてだし、ちょっとテンション上がってるんだよ」


「なんで言い淀んだんです?」


「い、いや、なんでもない! ともかく、テンション上がってるって話だよ!」


「なんで誤魔化すんです? 今の絶対、なんかあった間ですよね?」


 ねえ? と視線で北大路に問いかける西島。そんな西島に、北大路が少しだけ気まずそうにこくんと頷いて見せる。それに気をよくしたのか、西島が上機嫌に声を上げた。


「あ、アレですか? 茜ちゃんと古川君とでもダブルデートしたんですか? まあ、流石に妹とのお出かけをダブルデートって言うのはちょっとかもですけど……そんなに嫌がらなくても良いじゃないですか。むしろ微笑ましいって感じで!」


「……いや、流石に俺もそんなダブルデートはイヤすぎる」


「……シスコン?」


「そうじゃないが……北大路、お前、茜が秀明にベタベタ甘える姿見るのどうよ?」


「……脳が理解を拒みますね」


 ノータイムのそのリアクションは酷いが……まあ、そういう事だ。俺なんか兄貴だぞ? そんな妹の姿見るのは気まずいやら気恥ずかしいやら……秀明も微妙に照れているし、こう、共感性羞恥が半端ない。


「じゃあ、有森と藤田先輩ですか?」


「でも、それやったら浩之さんが隠す意味、あらへんくないか? 別に恥ずかしい事でも、やましい事でも無いし……」


「……だよね? えー、それじゃ誰とダブルデートしたんですか?」


 私、気になります! と言わんばかりの表情を浮かべる西島。こいつ、こんなに気になる必要は――ああ、あれか。なまじ誤魔化すから余計に気になるってやつか。


「なんの話をしているの?」


 そんな俺らの会話に、『エア』エアホッケーという名のイメトレを繰り返していた桐生が参戦する。そんな桐生に、西島が一気にまくしたてた。


「あ、彩音先輩! ちょうどよかった!! ねえ、彩音先輩? ダブルデート、誰としたんですか!? 東九条先輩、教えてくれなくて!! そんなに隠されたら気になるじゃないですか!!」


「ダブルデート?」


「ええ! ダブルデート、したんでしょ!? なんで内緒にする必要が――」






「瑞穂さんよ?」






「――あるん……へ? 瑞穂さんって……か、川北さん?」


「ええ。瑞穂さんと理沙さん、私と東九条君でダブルデートをしたの。まあ、殆どバスケットばかりしてただけだけど……」


「……ちょ、ちょっと待って下さい! か、川北さんって……彩音先輩の前で言うのもなんですけど、東九条先輩の事が好きだったんじゃないんですか!? え? ゆ、ゆり――こ、コホン! と、ともかく……え、ええ~!!」


 少しだけ頬を赤らめてそういう西島。そんな西島に、桐生は少しだけ苦笑を浮かべて。








「ええ。瑞穂さんは東九条君が好きよ? だから……その日は瑞穂さんと東九条君、理沙さんと私のペアだったわね?」








「………………は?」


 西島の顎が地に付きそうなほどにあんぐりと開いた。美少女のしちゃだめな顔だぞ、西島……まあ、気持ちは分かるが。何言ってるかわかんねーよな? 俺もだったよ、あの日。





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