えくすとら! その百九十五 桐生さんのイメージチェンジ!
「……は?」
少しだけ照れた様にそう言う桐生に西島がきょとんとした顔をして見せる。ええっと……桐生さん?
「い、いえ、西島さんが邪魔なら良いのだけど……その……」
「別に邪魔じゃないですけど……え? でも桐生先輩、私、服を買いに行くんですよ? しかも今回はちょっと『攻めた』恰好しようかと思ってますし……」
そう言って上から下まで桐生を一瞥。
「……桐生先輩好みの格好じゃないんじゃないですかね?」
まあ、西島の格好はギャル系……というのかどうかは知らんが、どっちかと言えば今っぽいと言うかなんというか……対して桐生は『ザ・令嬢!』みたいな清楚系の服が多いし。西島の言う通り、桐生の服の好みとはだいぶ違う気はする。
「……その……前々からちょっと思ってたのよ。西島さんの服装って……こう、今っぽいというか……か、可愛いでしょ?」
「あー……」
まあ、西島は顔立ちも可愛らしい顔しているし、性格も明るい……のかどうかはあの性根の曲がり方を見ると若干疑問符もわかんでも無いが、ともかく良くしゃべるし良く笑う西島にギャル系の『明るい』服装は良く似合うと言えば良く似合う。
「私、服もどちらかと言えば寒色系が多いっていうか……どっちかと言えば地味系の服が多いのよ」
「……桐生先輩に良く似合ってると思いますよ? 桐生先輩、顔も綺麗系じゃないですか? ああいう清楚系の服のが良いと思いますけど……」
桐生の言葉に西島が首を捻る。まあ確かに? 桐生の手持ちの服って言えば黒っぽい服が多い気がするのはする。
「そうね。確かに私はどちらかと言えば老け顔だし」
「いえ、老け顔とは言って無いんですけど……」
「でも、『可愛い』顔立ちかと言われればそうでは無いでしょう?」
「……まあ。あ、これは別に不細工とか――」
「分かってるわ」
「――分かっているのなら良いですケド……っていうか桐生先輩、センスいいですし分かってますよね? 私は童顔よりだから可愛い服着ますけど……桐生先輩が着るとコスプレっぽくなりません? っていうか、あんまり似合わない気がしないでも無いんですけど……」
「分かってるのだけれど……」
そう言ってちらっと俺を見る桐生。なんだよ? 首を捻る俺に、西島がポン、と手を打って見せる。
「ああ、ナルホド。東九条先輩の為ですか」
「ひ、東九条君の為ってワケじゃ……でも、たまには私もちょっとは違った格好しないと東九条君も……こう、飽きちゃうかも知れないじゃない? 西島さん、言ってたわよね? 服は女の子に取って『装備』だって」
「言いましたけど……っていうか、東九条先輩が桐生先輩に飽きる? 逆じゃないです? 東九条先輩、お茶漬けですし」
「おい」
まあ、西島の言う事も一理あるが。俺が桐生に飽きられることこそありこそすれ、俺が桐生に飽きる事はない。
「飽きられちゃう、はちょっと言い過ぎたかもだけど……西島さんも分からない? 私、東九条君と同棲しているのよ? 私の手持ちの服、全部東九条君は知っているのよ? パジャマ姿すら知っているのよ?」
「あー……」
桐生の言葉に西島が少しだけ顔を顰めて見せる。
「ギャップもへったくれもあったもんじゃないですね、それ。なるほど、同棲しているカップルは妙に所帯染みてきてドキドキも何にもなくなるってやつですか」
うへーと言いそうな顔の西島に桐生もため息を吐いて見せる。
「……平たく言えば、そうよ。私は……そ、その、今でも結構ドキドキするけど、でも東九条君がそうとは限らないじゃない?」
「……俺だって充分ドキドキしとるわ」
「アリガト。でも、これからもそうとは限らないじゃないの。だからまあ……ちょっとイメチェンというか……そう言う感じでちょっと『違った』感じの服も欲しいかなって」
「……」
桐生の言葉にうんうんと頷いた後、西島がじとーっとした目をこちらに向ける。なんだよ?
「……愛されてますね~、東九条先輩」
「……ありがたい話だよ、ホントに」
「そうですよ。女の子が可愛い恰好するのは――まあ、テンション上がるってのもありますけど、やっぱり想い人に『可愛い』とか『綺麗』とか言って貰いたいからなんですよ? 分かって――ああ、東九条先輩はその辺問題ないですか」
「まあ……その、綺麗とか可愛いは言うようにしてます、ハイ」
「なんで敬語。まあ、いいですけど……うん、そうですね! それじゃ桐生先輩、一緒に服、見に行きましょうか。あ、私の好きなショップで良いですか? 多分、桐生先輩の今までの好みとは真逆の格好になると思いますけど」
「むしろ、望むところよ。言ったでしょ、イメチェンって。その……ご迷惑じゃないかしら?」
「迷惑じゃないですよ。一人じゃないと服とか選べません、とか言いませんし、私。友達と服見に行くのも好きですし……それにこんな綺麗な桐生先輩を着せ替え人形に出来るなら楽しみとも言えますし」
そう言ってにやっとした表情を浮かべて見せる西島。
「……どーです、桐生先輩? 桐生先輩、制服のスカートもちょっと長めですよね? 折角だし、ミニとか挑戦してみません? 桐生先輩、腰の位置も高いし似合うと思うんですよね、ミニ」
暗に恥ずかしくて無理かな~みたいな西島に、桐生は真剣な目で一つ頷いて見せる。
「……そうね。それも選択肢の一つね」
そんな桐生に西島はきょとんとした後、少しだけ焦った様に声をあげる。
「……自分で言っておいてなんですけど……良いんですか、桐生先輩? ミニってミニスカートの事ですよ? ミニスカですよ、ミニスカ。太ももとか丸見えですよ? その……完全なイメージですけど、桐生先輩、そんな恰好『はしたない』とか言いそうなんですけど……」
「はしたない、とまでは思わないわよ? まだ高校生の私達ならミニスカートは全然選択肢に入ると思うし。ただ……恥ずかしいのは恥ずかしいわね」
「でもミニを着てみる、と。なんですか? そんなに東九条先輩に気に入られたいと?」
西島の言葉に一つ頷いて。
「――そうね。勿論それもあるけど……その、ね? 今まで東九条君が一番『喰い付き』が良かった恰好って……」
ミニスカメイドなの、と。
「………………レベル、たっけー…………」
なにやってんだよ、お前らと言わんばかりの西島の視線が俺に突き刺さった。
……何があれかって、完全に『いや、違うんだよ!』とは言えないんだよな~、うん。あの桐生、めちゃめちゃ可愛かったし。




