えくすとら! その百九十一 成分補充!!
「それで、どうする?」
試合も終わり、秀明と北大路はミーティングで茜は秀明を待ち、西島は所用で一旦家に帰る――まあ、『くっくく……チャンス到来! 私はチャンスを逃がさない女ですよっ!! 此処で万全の準備をしないと女が廃る!!』なんて言いながら獰猛な肉食獣の様な笑みを浮かべる西島に若干引いてしまったが……まあともかく、全員が予定があると言う事で現地解散になった後、残った俺と桐生、それに藤田と有森は体育館から出て一つ伸びをする。バスケは楽しかったけど、流石に座りっぱなしで試合を見るのは少しばかり疲れる。
「どうするって?」
「鈍いな~、浩之? お前だって結構なバスケ馬鹿だろ?」
そう言ってニヤリと笑うと藤田は持っていた鞄を持ち上げて見せる。サイズ的には少し大きいそれは丸く膨らんでおり……って、それ。
「バスケボールか?」
「ごめいとー。お前だってあの試合見てウズウズしてんだろ? 有森は言わずもがなだろうし……」
視線を有森に向けると、そこにはキラキラした目で藤田を見つめる有森の姿が。うん、まあそうなるだろうな、有森なら。
「俺と有森、浩之と桐生チームならいい試合になるんじゃね? タッパ的にはこっちが有利だろうけど……実力的にはいい勝負になんだろ? あんないい試合見せられたら、少しぐらいは体を動かしたいと思うのが人情ってもんだろう?」
少しだけ歯を出して好戦的に笑う藤田。ったく……お前は何言ってんだよ? 折角の休日に、バスケ勝負がしたいなんて。なんだ、お前? 何時からそんなにバスケ好きになったんだよ? ったく、本当に……
「――上等だ。ボッコボコにしてやるよ」
――最高かよっ!! だよな、藤田!! あんないい試合見せられたら、ウズウズして仕方ないよな!! 最近、ネットでバスケのスーパープレイも見たし、ちょっと真似してみたいと思ってたんだよっ!! うし、それじゃこの辺りでバスケが出来る公園でも――
「――そ、その……」
盛り上がる俺の服の裾をちょんと摘まんでくいくいと引っ張る桐生。そんな桐生に視線を向けると、少しだけ上目遣いで申し訳無さそうに。
「…………バスケ、するの?」
「……え、ええっと……わ、わりぃ、桐生! ちょっと盛り上がった! そうだよな! お前の意見、聞いてなかったな! えっと……バスケは嫌か?」
俺の言葉に、桐生がちょっとだけ目を伏せて首を左右に振って見せる。
「う、ううん。別にバスケは嫌じゃないよ? 頑張っている東九条君、格好いいし、バスケットをするのも好きだよ? でもね、でもね?」
――今日はちょっとだけ、二人で遊びたい、と。
「わ、我儘言って御免なさい! で、でも……昨日も別々だったし、その……ちょ、ちょっとだけ寂しいっていうか……」
潤んだ瞳でこちらを見やる桐生。そんな桐生に息を呑んで。
「……わりぃ、藤田。今日の所はバスケ勝負、無しでも良いか?」
桐生の頭を撫でながらそう藤田に声を掛ける。そんな俺の言葉に藤田と有森は微笑とも苦笑とも取れない笑顔を浮かべて深く頷いた。
「全然オッケーだよ。なあ、有森?」
「はい! っていうか、彩音先輩、超かわいいですね! なんかきゅんきゅん来ましたよ!! ね、藤田先輩!!」
「お前、それ俺が同意したら浩之にぶっ飛ばされるだろ?」
有森の言葉に苦笑の色を強くし、藤田は有森の背中を押してこの場を立ち去ろうとする。
「それじゃ、浩之。また夜にな?」
「お先に失礼します、彩音先輩、東九条先輩!! 彩音先輩! 東九条先輩にいっぱい甘えて下さいね!!」
ぶんぶんと両手を振りながら歩き出す有森とその隣で微笑を浮かべる藤田の背中を見送る。仲睦まじく歩くその後姿が見えなくなるまで見送って。
「……んじゃ、行くか? その……デート」
「うん……ほ、本当に御免ね? そ、その、バスケがイヤって訳じゃないのよ? 訳じゃないんだけど……ほ、ほら、ちょっと、その……」
アてられて、と。
「……茜さん、凄く幸せそうに古川君に話しかけてたでしょ? 西島さんも北大路君といい雰囲気だったし……もっと言えば試合前にも、そ、その……」
「……ああ」
木場と小林ね。
「……なんか、皆幸せそうだな~って」
「幸せじゃないのか、桐生?」
「し、幸せに決まってるでしょ! し、幸せなんだけど……」
そう言ってぽふっと俺の背中に頭をくっつける桐生。
「……昨日、二人っきりじゃなかったじゃない?」
「ああ」
「こう……あ、貴方とお付き合いしてから初めてじゃないかしら? 二人で一緒じゃない夜って」
「あー……」
そう言われれば……まあ、うん。
「……昨日は物凄く楽しかったのよ? 不満は勿論、無いの。無いんだけど……やっぱり、寂しさが勝つと言うか……貴方が側にいないと、物足りないと言うか……ともかく」
今日は、『浩之成分』を補給したい、と。
「……おっけー、理解した。それじゃまあ、デートに行きますか……『彩音』?」
「うん! 『浩之』とのデート、凄く楽しみ!!」
俺の言葉ににっこり笑ってそういう彩音の頭をもう一撫で、さて、何して遊ぼうかな? と俺はデートプランに思考を飛ばした。




