えくすとら! その百五十七 言い方って大事だよね~
「そ、それは……ご愁傷様というか……」
北大路の言葉に藤田が引き攣った顔で口を開く。いや、まあ……
「……分からんでもないな、それは」
「……ですね。確かにバスケは楽しいですけど……将来的にどうかって言われると、まあ……」
「お、おいおい! お前ら、そんな事考えてバスケしてんのかよ? 好きだからするもんだろ、部活って!!」
藤田の言葉もまあ分かるんだが……ほれ、北大路はバスケ推薦で入ってるんだろうし、秀明だってスカウトだからな。
「高校でバスケしかしてへんですもん、俺。頑張って推薦とか貰わんと将来性どころの話やないです」
「俺も似たようなもんっすね。正直、ある程度成績残して大学とか推薦して貰いたいですし」
こういう事だ。まあ、勉強の代わりにバスケしてる奴らだしな。天英館のバスケ部みたいなエンジョイバスケとは考え方が全然違うんだろうことは分かる。
「まあ、最近は日本のバスケ界も盛り上がってるとは思うけど……野球やサッカーに比べれば段違いだしな。大学バスケもやっぱり人気が高いとは言い難いし」
ある程度人気スポーツの筈なんだけどな、バスケ。こう、なんていうか……『メジャースポーツのマイナー分野』って意味じゃラグビーや卓球とかもそうだと思うんだけど……あっちの方が盛り上がってる気がするし。ちなみに野球やサッカーは『メジャー分野のメジャー』な? 伝われ。
「そ、そうなのか? ああ、でもまあ……そう言われればそれも分からんでも無いか。確かに俺の中学のツレでも陸上で高校行ったヤツも居るし……」
「ま、それはエエんですよ。それで、西島さんですけど……」
そういって少しだけ困ったような表情を浮かべる北大路。なんだよ?
「その……今日一日、一緒に居てみてですね? こう、可愛らしいというか……ま、まあエエ人やな~って思いました。顔もその……こ、好みですし……」
照れた様に頬を掻く北大路に思わず藤田と目を見合わせて――そして、にやーっと笑みを浮かべる。
「おい、藤田。その顔気持ち悪いぞ?」
「鏡持ってきてやろうか、浩之? お前もだぞ?」
「……お二人とも、ですよ。ええっと……それはつまり、どういうことだ? 北大路、西島さんの事を――」
一息。
「……ええっと……そもそも、なんであそこで四人でいたんです、浩之さん達? そういえばなんか流れでバスケ勝負してましたけど……」
首を捻る秀明。あー……説明、してなかったな。
「……良いか、北大路?」
「俺は構わへんですけど……」
「ちょ、浩之!!」
北大路の言葉にうなずき、俺が秀明に視線を向けると藤田が焦った様に声を出した。心配すんな、分かってるって。
「明美の所に婚約の話が来たんだよ、この北大路とのな」
「…………は? ちょ、え? 北大路と明美さんが婚約!? そ、それじゃ北大路が浩之さんの親戚になるってことですか!?」
「話は最後まで聞け。つうか、そっか。この話が進んでお前と茜が結婚したら俺ら、全員親戚になるのか。スリーのバスケのチームでも作るか?」
なにそれ、ちょっと楽しそうなんだけど。スリーのバスケチームとか組めるんじゃね?
「まあ、冗談はともかく……明美も北大路も反対なんだよな、この婚約。んで破談にしたいって事で、西島にご協力願ったって訳だ」
西島の都合は……まあ、伏せさせて貰うさ。あいつの名誉もあるだろうし、俺が勝手にペラペラしゃべって良い事じゃねーしな。
「あー……まあ、明美さんも浩之さん、大好きですもんね。北大路は勿体ない気もせんでも無いけど……でもまあ」
「過去の恋愛は気にせーへんけど、現在進行形で他所の男に惚れっぱなしの婚約者なんて嫌やろ、秀明も」
「……イヤだな、確かに。なるほど、それじゃ北大路も――あれ? でも、西島さんはなんで助けてくれるんですか? そんな仲良かったですっけ? 瑞穂絡みとかっすか?」
――うむ。流石に秀明を舐めすぎていたか。こいつなら『そうっすか!』で納得するかって思ったが……大丈夫だ、藤田。そんな顔するな。安心しろ、俺にちゃんと考えがあるから。そんな俺の自信満々な視線に、藤田も安堵の表情を浮かべて。
「――良い男、紹介してやるって言ったらホイホイ来たぞ、西島」
「浩之!?」
一気に驚愕の顔に変わった。あれ?
「……さ、流石……西島さんと言うべきか……」
一方、秀明は納得顔を浮かべている。うん、これでしっかり西島の名誉は守られたな!
「ち、違うぞ、秀明!! 北大路も!! 別に琴美ちゃんは北大路が良い男だから来たわけじゃない! その、なんだ? 浩之の又従姉妹に助けられたんだろ!? そうだよな!!」
「だ、大丈夫ですよ藤田先輩? し、知ってますから、俺。その、西島さんがバスケの体育館に来た理由とかも、本人から聞いてますし……別に、驚くことじゃないですし……」
「違うって!! いや、マジでそうじゃないから!! っていうか浩之!! お前、何てこと言うんだ!!」
「間違ったことは言ってないぞ? お前だって見ただろうが、北大路の動画見たときの西島の反応。きゃーきゃー言ってたじゃねーか」
「そ、それはそうだけど……」
言い淀む藤田に、俺は少しだけため息を吐く。
「つうかお前、ちょっと過剰反応しすぎじゃないか? 普通じゃねーか? 北大路、お前だって『めっちゃ可愛い子、紹介してやるよ』って言われたら……行かねーか?」
「……実際行くかどうかはともかく……まあ、興味はあります」
「だろ? 別に珍しい話じゃねーよな? 秀明……は参考にならんが、藤田だって一目惚れで西島に特攻したんだろうが」
「そ、それは……まあ」
「どうだ、北大路? お前、『北大路君が格好良かったから、紹介してもらいました』って言われて悪い気、するのか?」
「……しませんね。その……ちょっと、嬉しいです」
「だろ? だから別にそんな変な事言って無いだろうが? それなのに藤田は……なんだ? お前、有森好きすぎて性格まで似て来たのか? 外面だけなんて認めない! みたいなピュアハートになったのか?」
「そ、そうじゃないけど」
「だろ? 外見だって十分男の魅力だろうが。それに惹かれても悪い事はねーよ。だから――」
「あ、でも……」
「――別に西島の評判を落とすことにはならな……どうした、北大路?」
俺の言葉を遮る様にそう言うと、北大路は気まずそうに、ポツリと。
「『北大路君が格好良かったから』言われたら嬉しいですけど……『良い男紹介してやるって言われたからホイホイ来ました!』だと……ちょっと、印象悪いかもです。誰でも良いんかい! って……」
……なるほど。言い方の問題か。日本語って難しいな、うん。おい、藤田? うんうん頷くな。




