えくすとら! その百五十四 お泊り会、開催!
「お、お邪魔します……」
「遠慮すんなよ、上がれ、上がれ、北大路」
「……別に遠慮は要らんが……お前が言うなよ、藤田」
アラウンドワンでバスケの後、カラオケに行った俺たち――ちなみに桐生さんワンマンライブは開催されなかったが、演歌を五曲歌って桐生はご満悦だった――は、ある程度アラウンドワンで遊んだ後、解散して家に戻って来た。桐生と西島は明美の家にお泊りで、俺と藤田と秀明、それに北大路の四人は俺んちにお泊りだ。まあ、解散と言っても晩飯は皆で食おうって話になっているので本来の意味で解散とは言えんのかも知れんが……ともかく、今は俺んちのリビングでぐてーんとくつろぐ藤田、ちょっと緊張する秀明、借りてきた猫みたいになってる北大路と俺の四人でしばしの休憩だ。
「あっちは涼子が飯作ってくれてるし、それが出来るまでちょっと待ちって感じかな? 何する? ゲームでもするか?」
確か、テレビ台の所に……おお、あった、あった。
「えっと……浩之さん?」
「どした、秀明?」
「ご馳走になるのにアレなんですけど……今日のメニューってなんですかね、浩之さん。いや、涼子さんのメニューならなんでも美味いのは分かってるんですけど……」
少しだけ申し訳無さそうに、それでも期待に籠った目でこちらを見る秀明に苦笑を浮かべて見せる。
「喜べ。さんざんお前らがお代わりした、カレーだってさ。しかも、あいつ昨日の夜から明美んちで仕込みをしているから……こないだより美味いぞ、きっと」
「涼子さんのカレーの二日目って事ですか!? マジでラッキーっすね!!」
ばんざーいと両手を挙げる秀明の肩に腕を回して、藤田もニカっとした笑みを浮かべる。
「だな! 賀茂のカレー、マジで美味かったし……しかも、前回より美味いんだろ? 腹、空かしとくか! どうする? この辺、公園あるんだろ? もうちょっと運動しておくか?」
俺の言葉に小躍りし出す秀明と藤田。涼子的には『同じメニューとか……芸が無いよ……』とちょっと凹んでいたが……まあ、大人数だしな、今回。それに涼子のカレーはマジで美味いし。そう思う俺の視界の端で、遠慮がちに手が挙がる。北大路だ。
「あの~……その、『涼子さん』? 『賀茂さん』? いう方が晩御飯作ってくれはるんですか? その……エエんですかね、俺もご相伴に預かっても」
「遠慮すんな。明日試合だろ? 涼子のカレーはマジで美味いから、それ喰って元気出して試合に行ってこい」
「えっと……材料費とかは……」
「明美が全部揃えてくれたから甘えておけ。そもそも、今回の西島の件にしたって……まあ、お前にも都合が良い話だろうけど、一番は明美の都合だしな。『これぐらいはさせて頂きます』って言ってたから気にするな」
北大路もアレだろうが、明美の方がマジ度が強そうだしな。輝久おじさん、やるって行ったらやる人だし。ただ……マジ度が強い分、此処で回避したとしてもどっちにしろ同じな未来しか見えんのだが。
「そ、そうです? ほなら……今度、また奈良土産でも持って東九条さんの本家にご挨拶伺いますわ」
「遠慮すんなって言ってんのに……」
まあ、この辺の律義さが北大路の良い所でもあるんだろうが。
「……なあ、浩之? 俺は材料費代、良いのか?」
「そうっすね。俺も幾らか出しますよ?」
「藤田もいらねーし、秀明もいらねーよ。そもそも食事会も女子会もあいつの提案だしな」
「いや、ですが……」
「まあ、秀明に関しては茜の彼氏だろ? あいつ、茜の事妹みたいに思ってるし……お前だって明美と知らない仲じゃねーだろ? あいつにとっては『妹の彼氏で、幼馴染にご馳走する』って感覚なんだよ」
「……俺は?」
「有森は茜のツレ……の上に、結構仲いいツレなんだろ? 中学校の頃からの知り合いだし、瑞穂がケガしたときも直ぐに茜に連絡入れたの有森と藤原だからな。『茜さんのお友達なら、それは私の友達も同義です。そのお友達の彼氏なら、私の友人も同じでしょう?』って事らしいぞ」
「……」
「……」
「……まあ、言わんとしていることも分からんではない」
微妙な表情を浮かべる二人に俺も頷く。頷くのだが……
「……懐に入れたら猫可愛がりするヤツなんだよ、あいつ」
「にしても、範囲が広すぎねーか? 百歩譲って秀明や有森はともかく……やっぱ俺、材料費払うわ。いくらだ?」
「そ、そうですよ! 流石にそんなに甘えるのは……」
財布を出そうとする藤田と秀明を押しとどめる。
「……ちなみに明美の言葉だが……『秀明さんも、浩之さんのご友人の藤田さんも無理に払おうとするかも知れませんが……そうなった場合、言ってください。『私、お金はあるので』と』だって」
「……悪役令嬢みたいなセリフだな。つうか読まれてるのかよ、俺らの行動」
「『浩之さんのご友人でしょう? なら、『そうなの、ラッキー!』みたいな人では無いでしょうし、気も使われる方だと思います』だって」
「……」
「『その様な事に気を回されなくて結構。もしどうしてもと仰るなら、こちらにいる間にパートナーと一緒に遊びにでも連れて行ってください』だって」
「……分かった」
「……そうっすね。それじゃ、その方向で恩返しさせて頂きます」
苦笑を浮かべて財布を仕舞う藤田と秀明。そんな二人に俺も笑顔を浮かべて……その後、その顔を苦笑に変える。
「……ちなみにこの伝言に続きがあってだな」
「続き?」
「ああ」
一息。
「『そんな事に気を回されるより……本気の涼子さんのカレーを食べて、心を折られたお互いのパートナーの心配をした方が良いのでは無いですか?』だって」
その言葉に藤田と秀明の顔が青ざめた。桐生? うん……俺もフォローに全力を尽くそうと思います……




