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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その百四十五 肉食系女子、西島さん

来週、6月24日に『許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?』が発売予定です! 皆様のお陰で此処まで来れたこの作品、書籍版でもどうぞよろしくお願いします。


 西島と藤田とワクドで話してから一週間後の金曜日。月曜日も休みの三連休前のこの日、俺と桐生、それに西島は地元の駅に来ていた。

「……大丈夫ですかね、東九条先輩? 今日の私の恰好、北大路君好きそうです? 一応、清楚系で攻めてみたんですけど?」

 そういって手鏡見ながら前髪をちょいちょい弄った後、俺に向けてそんなことを聞いてくる西島。いや、んな事言われても。

「……知らん」

 北大路の好みなんぞ知らんよ。

「知らんって! なんですか、その冷たいカンジ! 桐生先輩、大事にされてますか? この人、ちゃんとオシャレしたら褒めてくれたりします?」

「あら。東九条君は女性のオシャレに関しては照れることもなくきちんと評価してくれるわよ? 可愛い恰好したら可愛いって褒めてくれるわ」

「うぐ……んじゃ、なんで私には何にも言ってくれないんですか!!」

「北大路の好みなんて知らんからだよ。その格好についての評価なら、まあ似合ってると思うぞ。清楚系、っていうところに若干思わないものが無いと言えば嘘になるが」

 お前、腹の中真っ黒だろうが。そんな俺のジト目に、西島はちっちっちと人差し指を振って見せる。どうでも良いけどそのしぐさ、地味にうぜぇ。

「北大路君、バスケばっかりしてきたんでしょ? じゃあ、きっと女性慣れしてないハズ! 違いますか!?」

「いや、知らんが……まあ、彼女がいたみたいな話はしてなかった気はする」

 そこまで詳しくはないが。まあ、少なくとも今付き合ってる女の子とかは居ないんじゃないかなとは思うよ、うん。

「でしょう!? なら、きっと女性に対してさして免疫はない筈です!! そして、そういう女性慣れしていない男子が求める女の子像は――」

 そういって、自身の髪をふぁさっとかき上げて見せて。


「――清楚」


「……そうか?」

 それ、好みによるんじゃね?

「……そうなの?」

「桐生?」

「そうに決まってるじゃないですか、桐生先輩! 対して女子慣れしてない男子は皆求めるんですよ、清楚系の女の子を!! 世の真理です!!」

「おい」

 どんな真理だ、それは。

「そ、そうなのね……そういえば東九条君、好みは『大和撫子』って言ってたし……大和撫子と言えば清楚の代名詞みたいなもの……」

 ……まあ、確かに大和撫子は清楚の代名詞的なところはあるよ? あるけど。

「……あくまで好みってだけで、好きかどうかは別の話だぞ?」

「……そうなの?」

「ああ」

「その……ちなみに、東九条君の『好き』なタイプは……どんな子?」

 何かに期待をするような桐生の視線。そんな視線に少しだけ照れくさくなり、俺はそっぽを向く。

「そりゃ……悪役令嬢系じゃね?」

「ふふふ……そう。それは良かったわ」

「お前、嫌いじゃないのか? 悪役令嬢呼び」

「嫌いよ。でも……そのお陰で、貴方の『好き』なタイプになれたのなら……まあ、そこまで嫌じゃないわ」

 華の咲くような綺麗な笑顔を浮かべる桐生。そんな桐生に俺も笑顔を返して。


「うおっほん」


 口元に手をやって西島が一つ咳払い。その音にはじかれたように俺と桐生は西島に視線を向けて……んな目で見るなよ。悪かったってば。

「仲が良いのは良いですが……場所、考えてやってもらえます? ここ、駅前ですよ? 何考えてるんですか、バカップル」

「ば、バカップル……」

「バカップルですよ、桐生先輩。なーにが悪役令嬢系ですか。どこの世界にそんな系統あるんですか? 馬鹿じゃないんですか?」

 西島の抉るような言葉が俺の胸に突き刺さる。う、うん……確かに悪役令嬢系はないな、うん。

「……と、ところで! お前、なんか気合入ってるけどどうしたんだ? こないだ言ってたじゃないか。マウントが取れるんなら良いって!」

 そう。

 今日の西島は清楚系――まあ、腹の中は真っ黒だが、格好だけは清楚系だ。基本、顔の造形は良い方なのでさっきの言葉通り似合っているのは似合っているのだが……

「……別にニセモノの恋人で良いんだろう?」

 お互いに利害関係の一致で恋人の『フリ』をするって話じゃなかったっけ? そんな俺に、西島は良い笑顔を浮かべて。

「ええ、言いましたね。確かにニセモノの恋人でも十分……というか、まあマウント取れるんなら良いかって思ってましたけど……北大路君、イケメンですし? 家柄も良くて運動神経も良くて優しいんだったら、ちょっと狙ってみるのもアリかなって」

「狙ってみるって」

「最初はニセモノでも良いんですよ。ニセモノでも良いんですけど」

 一息。



「――別に、本当に付き合ってしまっても構わないんでしょう?」



 ……もうね? 西島の目が完全に肉食獣のそれなの。なに、この子? まじで全然ブレねーじゃん。

「……大丈夫かしら、北大路君」

「……分からん。ただ……今はあいつが捕食されないことを祈るばかりだ」


「――あ! 東九条さーん! ご無沙汰してまーす!! わざわざ迎えに来てもろうてすみません!! これから三日間、よろしくお願いしますー!!」


 そんなことを思う俺の眼前に、ガラガラとトラベルケースを引きながら笑顔でぶんぶんと手を振る北大路の姿が映った。本当に……大丈夫か、北大路。



次回投稿は6月24日金曜日、一巻発売を記念して『なろう版特典SS』を投稿させて頂きます。昔ながらの……というか、桐生さんと東九条君のイチャコラを書いた感じになっております。時間軸は一巻の最後、二人がちょっと仲良くなったところまでですので、昔を思い出して楽しんで頂ければ!!

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[一言] 北大路逃げてぇ!!!!!!
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