えくすとら! その百三十八 西島さんは『アレ』が強い
明美と桐生が頑なに目を逸らし続ける。そんな二人の態度に何かを気付いたのか、西島が呆れたように視線をこちらに向けてきた。
「ええっと……東九条先輩? もしかしてこの二人、料理とか出来ない系です? 女子力皆無な感じ?」
「いや……んな事は無いが……桐生は最近は料理を出来る様になってきたし」
晩御飯とか交代制って言ってたけど、最近は桐生の比率が増えて来たしな。いや、俺だってしようとしたんだが……『東九条君が美味しいって言ってくれると、幸せだから』なんて照れた顔で言われたら……ねえ? 風呂掃除と後片付け頑張るしかないじゃん。ちなみに明美の方は。
「お前だって料理、出来ない訳じゃないだろ?」
和食とか作ってたじゃん。いや、どっちかって言うとアレは女子力というより主婦力と言う感じではあるが。
「……私、どっちかって言うと実利重視と言いますか……」
「実利重視?」
「……こちらの生活もあるので、生きるために料理はしますが……お菓子とかは苦手です。そもそも、渡す相手もいませんし……浩之さん、受け取ってくれないですし」
ジト目でこちらを睨む明美。そんな目でにらむなよ。
「……まあ、二人の事は良いだろ? それより……なに? お前、そんな事してたの?」
「そんな事って……まあ、お呼ばれしたらそりゃ手土産くらいは持参しますよ。正直、あんまり興味も無かったんで手作りクッキーになったんですけど」
「……興味なかったら手作りなの?」
「大人数の、体育会系の、成長盛りの高校生男子なんて質より量でしょ? どばっと作った方が良いんですよ、コスパ」
「……なるほど」
まあ、量より質かはともかく……ふむ。
「……今の話聞く限り、別にお前に悪いところは無さそうな気もするんだけどな」
だってこいつ、別に『二人の仲を引き裂いてやろう!』みたいな行動では無いんだろ? お呼ばれしたから差し入れにクッキー持って行ったってのは元スポーツ男子としてもポイント高いぞ。試合後の涼子のお弁当とハチミツレモンとか普通に楽しみだったし――
「……西島? なんで目を逸らすんだよ、お前?」
「……い、いえ……まあ、確かに友達の彼氏を盗ってやろうとかは思ってませんよ? 思ってはいませんけど……わ、忘れたんですか?」
「忘れた?」
「だ、だから! そ、その……」
言いにくそうに言い淀み。
「……か、絡んだじゃないですか……古川君と、東九条先輩に」
「……ああ」
あったね、そんな事も。
「……わざわざそんな事言わなくても良いのに」
「なんか、『良い奴』みたいに思われるの嫌なんですよね。いえ、悪ぶっている訳じゃなくて……」
――普通に自分の能力以上に評価されるの苦手なんですよ、と。
照れ臭そうにそういって頭を掻く西島。そんな西島の姿に、少しだけピンとくる。
「……西島先輩か?」
「……まあ、それもあります。後は一つ上の姉の影響もありますね」
「一つ上って言うと……俺らと同級か」
「はい。上の姉の影響で空手はじめたんですけど……姉程才能がなかったんですよね。それで、比べられるのが嫌で、でも何にもしないのはもっと嫌で……下の姉と一緒の塾に通う様になったんですよ」
「……」
「身内の贔屓目みたいでアレですが、下の姉は学業面で優秀で……模試も全国二桁順位取ったりするんですよね。もう、嫌になっちゃいますよね~。スポーツでは上の、学業では下の姉に勝てないんですから」
そういってたははと笑う西島。
「……ま、私の不幸自慢は良いんですよ。ともかく、私自身が不当に――『誰かの勘違い』みたいな、思い違いで評価に下駄履かせてもらうのが嫌いなんです」
「……」
「さっきも言いましたが、私自身は別にミホの彼氏に色目を使ったつもりはありません。ありませんが、ミホの彼氏以外の……フリーのイケメンが居れば、コナ掛けるつもりは満々でしたし。ですので完全に善意でやったかと言われるとそんな事はありません。私、そんな良い子じゃないですし」
「……言わなきゃバレないのに」
「言わないでもあの行動見れば一発でしょ? 特に東九条先輩には」
確かに。コナ掛けるって意味じゃその通りだったし。
「その……少しいいかしら、西島さん?」
「はい? なんですか、桐生先輩?」
「そ、その……『格好いい』男子が居ればコナ……こ、声を掛けて、お付き合いしたいって、そういう意味よね?」
「はい、そのとお――ああ、東九条先輩の事ですか? 確かに東九条先輩、バスケの時は滅茶苦茶格好良かったですし、この間のテストの順位も良かったでしょ? 優良物件だな~とは思いますが、桐生先輩のカレシならもう勝ち目が無いんで狙うつもりは無いですよ? 寝取りとか趣味じゃないですし、私」
「ねと――そ、それは良かったわ……じゃなくて! そ、その、そんな感じでこう、か、かれ……こ、恋人とか作って良いの? こ、こう、こ、恋って、そ、そういうものじゃないんじゃないかしら?」
「……うわー……桐生先輩、もしかしてヴァージンロードをヴァージンのまま歩くとか思っているタイプです? 東九条先輩、苦労しそうですね?」
「……ノーコメントで」
「ヴぁ!! に、西島さん!! 何を言っているの、はしたない!!」
「はいはーい。桐生先輩がそういう人ってのは分かりました。分かりましたけど……まあ、恋だ愛だに関してはそうですね。別にそこまで……そうですね、『本気』で恋愛したいと思っている訳ではありません。格好良くて優しい彼氏が居れば、それでいいですかね?」
そういって西島はにっこりと笑って。
「悲劇のヒロイン気取るつもりは無いんですけど……ほら、家庭環境が『ああ』だったからですかね? 私、承認欲求、めちゃくちゃ強いんですよね」
来週結婚式なので投稿難しいかもです……




