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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その百三十二 いや、犬や猫じゃないんだから……


「そういえば」

 その日の昼休み。既に恒例になりつつある俺、桐生、涼子、智美に瑞穂という幼馴染&彼女の食事会の最中、箸でこちらを指しながら智美が口を開く。

「……箸で人を指すな、食いながら喋るな。行儀が悪い」

「……アンタは私のお母さんか」

 ちなみにこの食事会、たまに藤原と有森、それに藤田なんかも参加したりするので結構盛況だったりする。今日は有森と藤田は二人昼飯らしいが。藤原? 彼女は……なんか、他の友達と食べるらしい。呼ばなくていいのか? と瑞穂に聞くと少しだけ疲れた表情で『……理沙には理沙の交友関係があるんですよ。フジョシの』と言ってたのだが……そこで桐生が少しだけ肩を震わせたのが気になると言えば気になる。そう言えば婦女子の発音がいつもと違う気がしたが……まあ気にすることじゃないだろう。

「んで? どうしたんだよ? そういえばって」

「いや、明美、今日から来ているんでしょ? 朝、メッセがあってさ?」

「そうだな。なんか創立記念日とかなんか言ってたけど……」

「明美から『最近、浩之さん成分が足りていません! 遊びに行きたいですけど、浩之さんは二人では行ってくれません!』って」

「……まあな」

 いや、桐生と三人ならいいんだよ? なんだかんだ言って桐生と明美の二人は最近仲良しだし……ただ、幾ら又従姉妹と言えどさすがに異性と二人きりはちょっと、というだけで。そんな俺の表情の変化に智美がため息を吐く。

「……なんだよ」

「『かといって三人で行った日には浩之さんと彩音様のいちゃいちゃを間近で見せられて非常に健康に悪いです、主に心の』との事らしいわよ?」

「「……」」

 桐生と二人顔を見合わせる。いや、いちゃいちゃって……さ、流石に人の居るところではした事がないよ、うん。

「……それだよ、浩之ちゃん」

「……どれ?」

「なんか目を見合わせて二人で頷いたりさ? 『私たちは分かりあってます』みたいなの一人で見せられたら結構しんどいよ?」

 不満そうな涼子の声音と顔に首を傾げる。そ、そっか? 別にそんな事ないけど……

「……言ったそばからシンクロしているし」

 あきれた様な涼子の声に、隣の桐生を見ると同じように首を傾げる桐生。どちらからともなく合った視線になんとなく照れ臭くなってお互いに視線を逸らす。いや、別に嫌な訳じゃないぞ? なんか、分かり合ってるな~って思って悪くは――


「……だからいちゃ付くなら二人の時にしてくれるかな? ご飯が美味しくなくなるじゃん」


 ……涼子から氷点下の声が飛んできた。こ、こわっ! にっこり笑ってるのに涼子さん、目が笑ってないんですけど!!

「……ふぅ。まあ、いいよ。それより瑞穂ちゃん? なんか今日、元気なくない?」

 涼子の言葉に俺はこれ幸いと視線を瑞穂に向ける。助かった! そう思って瑞穂に声を掛けようとして。

「……おい。お前、マジで体調悪いのかよ? 大丈夫か?」

 ぼけーっと箸を加えたまま空を見つめる瑞穂に思わず心配になる。横にいる桐生もそうだったのか、心配そうに視線を瑞穂に向ける。

「……どうしたの、瑞穂さん? 何か悩み事かしら?」

 俺と桐生の声に『はっ!』と気づいたように瑞穂が慌てて視線をこちらに向けて恥ずかしそうに頬を掻く。

「あ、あはは~。すみません、ちょっとぼーっとしてまして。ええっと……なんの話でしたっけ? ワクドの新作メニューです?」

「……んな話はしてねーよ。つうかお前、マジで大丈夫か? 心配事あるなら聞いてやるぞ?」

 解決してやる、と格好良くは言えんが話を聞くぐらいは出来るし、解決策を一緒に考えてやることは出来る。そう思い視線を桐生に向けると桐生も力強く頷いた。

「ええ。私たちに何が出来るか分かりませんが、少しぐらいはお手伝いをさせて貰えると思うから……遠慮なく言ってくれないかしら?」

 俺と桐生の言葉に『たはは』と笑って瑞穂は頭を下げる。

「すみません、その、本当に大した……事じゃないわけでは無いんですが……その……」

 言いにくそうに。


「……西島さんの事で、ちょっと」


「……西島?」

「……西島さん、昨日はああ言ってましたけど……やっぱりクラスでは辛そうなんですよね。今日も学校休んでますし……こう、あそこまではっきり『助けはいらない』って言われるとそりゃ、助ける事なんて出来ないし、そもそも助けるなんて烏滸がましいとも思うんですけど……」

 ちょっと、気になって、と。

「……昨日、納得してなかったか?」

「そう、なんですけど……」

 ……まあ、こいつの言葉を借りるなら『偉大なる上を持つ下の子』という意味で、似たもの同士の感覚を抱いているのは分かるが。

「……それにしても気にし過ぎじゃないか?」

「……昨日の夜、雨宮先輩に電話したんですよ。断られたって。そしたら……その、色々教えて貰って」

「……色々だ?」

「西島さん、三姉妹の末っ子らしいんですけど……上のお姉さんは空手で有名って言ったじゃないですか?」

「ああ」

「下のお姉さん、折が丘高校に通っているらしいんですけど……トップクラスに頭良いらしいんですよ。この間の全国模試も二桁だったらしいですし」

「……マジか」

 西島の下のお姉さんって俺らの同級生の子ってやつだよな。折が丘に通ってたのは知ってるけど、全国模試二桁ってヤバくない?

「……すげーな、それ」

「……西島さん、小学生まで空手やってたらしいんですよ。お姉さんに似てそこそこ強かったらしいんですけど……」

「……所詮、『そこそこ』か」

「……中学生で空手は止めて勉強を頑張ったらしいんです。それで折が丘も受けたらしいんですけど……」

「……落ちた、と」

「……です」

「……」

「……姉妹だけあって西島さんとよく似て……逆ですかね。綺麗な顔立ちしているらしいんですよ、二人とも」

「……劣等感たまりまくりだな、そりゃ」

 似たような顔をしていて、片やスポーツで、片や勉強で負けたんだもんな。そりゃ、拗れるか。

「……昨日もお話しましたけど、西島さんって私と環境似ているんですよね。だから……まあ、気になるというか」

 まあ、いらないって言われたらどうしようも無いんですけどね、と困ったように頬を掻く瑞穂。そんな瑞穂に俺たちは何も言い返すことが出来なかった。




 ……出来なかった、んだけど。



「あら、浩之さん。お帰りなさい」

「――ひ、東九条……先輩? え、え? な、なんで?」



 ……家に帰ると、玄関先で明美――と、西島が立っていた。ええっと……

「……なんで?」

「駅前で拾いました」

 ……いや、犬や猫じゃないんだから。つうか、拾うってなんだよ、拾うって。




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