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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その九十八 純情か!


 明らかにドン引きな様子の茜に対して、それでも一切メゲる事もなく『はっははは』と白い歯を爽やかに見せて喋り続ける英知院……さん。年上だからな。一応、『さん』は付けるよ、うん。

「……相変わらずね、英知院様」

「……お前があった時もあんな感じだったの?」

 俺の言葉につつーっと視線を逸らす桐生。なに?

「……なんだよ」

「その……こ、怖い顔しないって約束してくれる?」

「……内容によるだろう。なんだ? 怖い顔しなくちゃいけない様な事をしたのか?」

「し、したんじゃなくて! そ、その……英知院様も、『成金』でしょう? だ、だから……流石に東九条家の分家の茜さんには『あの』態度なんだけど……わ、私はほら、同じ成金の小娘だから……」

「……あれで遠慮があると申すか」

 衝撃を覚える。いや、そんな事より、だ。

「……なんかされたのか?」

「ひぅ! こ、怖い顔は……そ、その……」

 言い淀み、それでも決心した様に。


「て、手の甲に……く、口付けを……」


「……おい、なんで止める北大路。あいつ、ぶっ飛ばして来る」

「あ、あきませんって!! そんな事したら大問題ですからっ!! む、昔! 昔の事ですさかい!!」

 拳をパキパキと鳴らしながら英知院の元に歩みを進めようとする俺を羽交い絞めにする北大路。『さん』付けがない? いるか、んなもん。つうか離せ、北大路。あいつ、殴れない。

「き、桐生さん!! 止めて! 東九条さん、止めて!!」

「そ、そうよ! それだってもう二年ぐらい前の話だし!! その場で頬を張ったから!! だからそれっきりよ!!」

「……え? その場で頬を張ったんですか? 桐生さん、流石にそれもそれでどうかと……」

 俺を羽交い絞めにしたまま愕然とした表情を浮かべる北大路。そんな北大路に視線をチラリと向けた後、俺は桐生に親指を立てて見せる。

「……グッジョブ」

 俺の仕草に桐生も少しだけ躊躇いながら、それでも親指を上げて見せる。

「……流石に私もやり過ぎかと思ったんだけど……反射的に手が出たのよ」

「それで正解だ。おい、北大路。そろそろ離せ。もう大丈夫だから」

 桐生が自分でオトシマエを付けたんなら言う事はねーよ。若干、『むっ』とはするがな。そんな俺の言葉にため息を吐きつつ北大路が俺の羽交い絞めを解いた。

「……なんか俺、東九条さんが茜さんのお兄さんって今、理解した様な気がしましたわ。基本、危ない兄妹なんですね、東九条家」

「あんな狂犬と一緒にするな」

 失礼な。

「どの口が……ええっとですね? 東九条さんと桐生さんがお付き合い……しているのはまあ分かりますけど、今の話やったら多分、桐生さんが東九条さんとお付き合いする前の話ですよね、さっきの話って?」

「だな」

「……そんな過去の話にまで嫉妬しますか、普通? どんだけ愛が重いんですか、東九条さん……」

 はぁーっと、先ほども深々とため息を吐く北大路。いや、でもな?

「……お前だって自分の彼女が他のヤツに声掛けられてたら嫌じゃねーのかよ?」

「女の子とお付き合いした事あらへんので分かりませんけど……そら、今付き合ってる恋人だったら嫌ですよ? それこそ東九条さんみたいな対応になるとも思いますけど……でも、過去の事ですよね? なんです? 東九条さん、彼女の元カレとか結構気にするタイプなんです?」

「……そうじゃないけど……でも、お前だって気に入らないだろ?」

「気に入らないのは気に入らないですけど……ほいでも昨今、バージンのままバージンロード歩く子の方が少ないと思いますし、そこまでは気にせーへんですかね?」

「おま、なんてことを……」

 若者の性の乱れか! 驚愕に顔を染める俺に、残念な子を見る目で見つめる北大路。

「……どんだけ純情なんですか……まあ、エエですわ。ともかく、何年も前の話でしょう? いや、個人的にはそんときあの英知院、さん? でしたっけ? あの兄ちゃん、二十歳越えてたんでしょ? ほんで二年前なら桐生さんが中学生ですよね? その中学生の手の甲に口付けする方が結構ヤバいと思いますけど……」

 恐ろしい物でも見る目で英知院を見やる北大路。そんな北大路に、何かに気付いた様に桐生ははっと顔を驚かせた後、顰め面を浮かべる。

「……なんだ?」

「……いえ……そう言えば英知院さん、中学校と高校の教員免許持ってるって言ってたな~って……思って」

「……」

「……」

「……世に放っちゃいけないモンスターなんじゃないか、アイツ?」

「さ、流石にそんな事は……」

 無いとは言い切れないのか、桐生が口を噤む。うん、別にアイツがどうなろうが知った事ではないが……

「……どっちの手だ?」

「へ?」

「口づけされたのだよ。どっちの手だ?」

「……左。なに? 上書き……してくれる?」

 期待に籠った瞳でこちらを見やる桐生に苦笑を浮かべる。あんな? んなもん――



「……ホテル帰ったらな」



 するに決まってんだろうが。俺の言葉に嬉しそうに微笑み『……楽しみに待ってる』と左手を胸の前に抱え込む桐生に頬が緩む。いや、そりゃ俺も早い方が良いとは思うんだけどさ? でも、流石にこの場ではちょっと無理というか……でも、やっぱり嫌なものは嫌だし、それぐらいは――


「……つまり……浩之さんはあの英知院? さんでしたっけ? その方と間接的に口づけを交わす、と。後、彩音様? 今の状態ではまだ上書きされていない左手抱きしめてますけど良いんですか、それ? 上書きしてからの方がよく無いです?」


 ――じとーっとした目でこちらを見やる明美の視線に俺と桐生は見つめ合っていた視線を慌てて離す。そんな俺らにジト目を継続しながら、明美がため息を吐いた。

「……はぁ……浩之さん? 貴方、今日は私のパートナーなんですよ? それをまあ、よくもパートナーの前でいちゃいちゃいちゃいちゃ……」

「……す、すまん」

「……はぁ。もういいです。それより! 今はもっと解決しなくちゃいけない事があるんじゃないですか?」

「……解決?」

「別に英知院さんがどれだけ新聞沙汰を起こそうが知った事ではありませんが」

 そう言って人差し指で一方向を指差して。



「――おい、もう一遍言ってみろ? あん?」



「……流石に身内から新聞沙汰は嫌じゃ無いですか? まあ、情状酌量の余地はあるし、未成年なので匿名になるでしょうけど」



 英知院の胸元を掴んで宙に浮かす茜の姿が目に入った。あ、茜!! 手が早いだろ!!



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[一言] >英知院の胸元を掴んで宙に浮かす茜の姿が目に入った。あ、茜!! 手が早いだろ!! 片手で……じゃないですよね?まぁ両手で持ち上げるのもどうかと…(笑)
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