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許嫁が出来たと思ったら、その許嫁が学校で有名な『悪役令嬢』だったんだけど、どうすればいい?  作者: 疎陀 陽
えくすとら!

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えくすとら! その八十六 相手の事も考えましょう


 俺と茜と彩音、それに明美で乗り合わせたタクシーはパーティー会場であるホテルに向かっていた。距離的には然程無いが時間帯的に渋滞を予想して少し早めに出ているが……概ね、三十分くらいか? ちなみに秀明は輝久おじさん達と一緒の車だ。若干、緊張しそうなメンツではあり申し訳ないが……流石にこの状態でパーティー会場に出したら大変な事になりそうだしな、茜と秀明のペア。

「……んで? お前は何拗ねてるんだよ?」

「……別に」

「我儘芸能人か。ほれ、子供じゃないんだからしっかり謝って仲直りしろ。じゃないとお前、パーティー会場で浮くぞ?」

「……いいもん、別に」

「いいもんって……お前な! 秀明、わざわざ俺たちの為に来てくれたんだぞ! そんな言い方あるか!」

 窓の外を見てこちらに一切視線を向けて来ない茜。そんな茜にため息を吐いていると、彩音が遠慮がちに話しかけて来た。

「浩之、そんなに頭ごなしに責めては駄目。茜さん? もしよろしかったら私に教えてくれない? なにが不満だったのか、なにが嫌だったのかを」

「……別に嫌な事なんて……」

「そうね。それじゃ、何が……そうね、何が面白くなかったのかしら?」

「……」

「嫌じゃないし不満じゃなかったかも知れないけど……何かしら、面白くは無かったのでしょう? それを教えてくれないかしら?」

「……」

「折角のパーティーじゃない。面白くない顔をしていては本当に面白くなくなるわよ? 私にも経験あるもの」

「……彩音さんにも、ですか?」

「ええ。自慢じゃないけど私、パーティーではいつも腫物扱いだったもの。誰にも話しかけられないし、話しかけられたら話しかけられたで嫌味を言われて……それで、面白い顔なんて出来ないでしょ? そうしたら余計に誰にも話掛けられなくなって……億劫になったわ、パーティーが」

「……」

「パーティーでぽつんと一人は本当に寂しいわ。茜さんは社交的な方でしょうし、そんな事は無いでしょうけど……そんな顔をしていたら、あまりいい評判が立つとは思えないわよ? なら、その原因を取り除いた方が良いんじゃないかしら?」

 ね? と語り掛ける彩音。自身のあまり思い出したくも無いだろう過去を語ってまで話を聞こうとする彩音に、硬化気味だった茜の態度も少しは軟化したのかポツリ、ポツリと話し始めた。

「その……別に、嫌とか不満じゃないんです」

「うん」

「でも……なんか久々にあったアイツ見てたら……こう、思う所があってですね」

「思う所?」

「……彩音さんも知ってます? その……秀明の好きな人」

「智美さん、よね? 初恋だったって聞いているけど……」

「はい。あいつ、小さい頃からずっと智美ちゃんの事好きで……しっかりきっぱりフラれたって話は聞いてたんですけど……こう、なんて言えば良いのか……」

 しばし、言い淀み。


「――その……どう、接して良いか、ちょっと分からなくなっちゃって」


「……」

「私の知ってる秀明は『智美ちゃんの事を大好き』な秀明だったんですよ。彩音さんの前でこう云うのはなんですけど……智美ちゃんはずっとおにいの事好きだったから、脈は無いって分かってて……それでも、諦めずにずっと智美ちゃんに振り向いてもらう為に、その為だけに頑張っていたんですよ」

「……そうなのか?」

 初耳なんだけど。秀明、そんなに頑張っていたのか?

「……おにい達には見せて無いと思うけど……うん。特におにいには絶対見せないって言ってた。『浩之さん、優しいからな。きっと俺に遠慮しちゃうだろ? そうなると……誰も幸せにならないじゃねーか』って」

「……」

「……だから、秀明が智美ちゃんを諦めた姿ってのが……勿論、秀明が悪くないのは分かっている。分かっているんだけど……なんとなく、腹立たしくなって。お前、あれだけ頑張っていたじゃないかって、一回フラれたぐらいで諦めるのかよって……そう思って……そうなるともう、感情ぐちゃぐちゃになって、その……」

 心持しょんぼりして見せる茜。なるほど……そういう事情もあるのか。

「……それ、秀明に……まあ、言えるわけ無いよな?」

「……うん。でも何だか凄く悔しくてさ? 頑張って、頑張って、頑張って……その姿を見ているから、報われなかったのが悔しい気持ちもあるし、残念な気持ちもあるし……悲しい気持ちもあるんだ。勿論、人の好き嫌いの話だし、どれだけ頑張っても無理な事は分かってるんだよ? だから智美ちゃんを恨んだりも当然していないんだけど……なんだろう?」


 そんな秀明に、どう接して良いか、分からない、と。


「優しい言葉を掛けて、『辛かったね』とか慰めるのって、きっと私達の関係性じゃ有り得ないんだよね。こういう時はいつも誰かが誰かを煽って、バカにして、バカにされた誰かが怒って……それで、最後に笑うんだ。だ、だから……言っちゃダメな事って分かってたのに、つい煽る様な事言っちゃって……そしたら秀明も、『お前なんかより智美さんの方が良い』とか言い出すし……諦めたんじゃないのかよ! って思ったらついつい腹が立ってきて」

「……あの玄関先の出来事に繋がる訳か」

「……うん」

 完全に肩を落としてため息を吐く茜。そんな茜の頭をぐりぐりと撫でる。

「……セット崩れる」

「それは失礼。まあ、お前の言っている事は大体理解した。気持ちもまあ……分からんではない。分からんではないが……総合して、やっぱりお前が悪い」

「……うん」

「ホテル着いたらちゃんと謝れよ? じゃないと、秀明と気まずいままだぞ?」

「うん。その……秀明、許してくれるかな?」

「許してくれるさ。あいつも、お前と喧嘩した事後悔してたし」

「……そっか」

 そう言って少しだけほっとした息を漏らす茜。うん、まあ……完全に子供の意見だな~とは思わんでもないが……こういう関係性なんだろうな、こいつら。

「……彩音もありがとうな? お陰で助かったよ」

「私は話を聞いただけよ?」

「いや、お前が聞いてくれたお陰で茜も自分で何が悪かったか再確認できたみたいだしな」

 人に話すことで冷静になって問題点を洗い出せる事は往々にしてある。俺や明美じゃ関係が近すぎて話せない事も、まだ距離のある彩音になら――


「――茜さんが悪い?」


 ――はなせ……って、え?


「いや……茜が悪いだろ、これ?」

 俺の言葉に彩音は首を傾げて。


「……そうかしら? 私個人の感覚だと……お互い様、むしろ古川君の方が悪いんじゃないかな? ああ、悪いって言うとあれだけど……そうね、酷い人だと思うわ」


「……え?」

 何を言っているのか分からないときょとんとした顔を向ける俺に彩音は苦笑をして。



「……ま、鈍感な浩之にはわからないかも知れないけど……ね?」



 そう言って少しだけワクワクした顔を浮かべて見せた。えっと……なに?



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