えくすとら! その六十八 やってきました、ゲーセンに
北大路の案内で連れて来て貰ったゲームセンター。そこそこ大きめなゲームセンターで、結構な数のゲーム筐体が置いてある。
「……クレーンゲームがあるわね? あ、浩之? あのぬいぐるみ、可愛いと思わない?」
「……今日はやらないぞ?」
「……やらないの?」
おい、しょぼんとするな彩音。分かったよ。一回だけな。多分、一回じゃ絶対取れないだろうけど。
「……一回だけな」
「……取れるまでやりましょう。心配しないで? お金は私が出すから!!」
「あかんって!」
それなら自分で買った方が絶対安いから! つうか、なんでそんなにクレーンゲームに拘るんだよ?
「なに? クレーンゲーム、はまったの?」
「そ、そうじゃなくて……浩之が前にぬいぐるみ、取ってくれたでしょう? 彼も一人じゃ寂しいだろうから……仲間が」
「仲間って」
「あ、あと……真剣に取ろうとしている浩之、その……か、格好いいから」
「……」
……おい、頬を染めるな、頬を。可愛いだろうが。
「……人の見ている前でいちゃつくの、辞めて貰えませんかね~、おにい、彩音さん」
「……無駄無駄。この二人、バスケの試合中のタイムアウトでいちゃつくんだぜ? しかもその頃、まだ付き合ってないのに」
「……ええな~。二人は楽しそうやのに、俺はこれから狂犬と勝負せなあかんのか……」
「おい、誰が狂犬だ、誰が。表、出るか?」
「今入ったばっかやん!!」
「……」
「……」
こちらをじとーっとした目で見てくる三人の視線に、慌てて俺と彩音は視線を外す。う、うん! そうだな! 勝負だもんな!!
「さあ、それじゃ何で勝負する!?」
「そ、そうね! どんなゲームが良いかしら!!」
「……誤魔化し方が雑過ぎませんか、二人とも。はぁ……まあ、いいですけど……それで? 北大路、どんなゲームが良いんだ?」
「おい、秀明。なんであいつに聞くんだよ! 私に聞きなさいよね!! 幼馴染でしょ! 私を優先しなさいよね!!」
「お前はゲーム、そこそこやるだろうが! 北大路は素人みたいなもんなんだから、ハンデが居るだろう?」
「うぐぐ……まあ、仕方ない。それぐらいは受け入れるわよ。その代わり!! ゲームは自分で選んだんだから後で文句言わせないでよ!! ハンデも上げて負けた以上、私に誠心誠意、しっかり謝ってもらうからね!!」
「……お前というヤツは……」
「……なあ、俺、もう謝るから堪忍して貰われへんかな?」
ヤル気満々な茜、疲れた様な秀明、もう許して下さいとばかりに悲しそうな顔をするという三者三様の様子を眺めながら、俺はゲームセンター内に視線を飛ばして。
「あ」
そこに輝く黄色い筐体が目に入った。あれ? これって……
「スマッシュ・ストーリーズじゃん」
スマッシュ・ストーリーズ、通称スマストは対戦格闘ゲーム、所謂格ゲーである。よくある2D対戦格闘ゲームなのだが……このゲーム、ラノベとタイアップしたゲームなのである。『ストーリー』はまんま、『物語』って意味ってわけ。まあ、そんな某出版社との完全コラボで出たゲームなんだが……こう、そのライトノベルレーベルが中々バグった仕様でゲームを出した為、界隈ではネタゲーとして有名だったりする。
「どうしたの、おにい? って、これ、スマストじゃん」
「有名なゲームなんですか、東九条さん?」
「……まあ、有名っちゃ有名だな」
「それじゃこれにしますわ、対戦するゲーム」
「……マジで?」
「どのゲームもやったことあらへんですし……なにやっても一緒ですから。正味、もう帰りたいですし……」
そう言って疲れた顔でため息を吐く北大路。その……す、すまん。
「……昼は奢るから」
「……おおきにです」
「でも、まあ悪い選択ではないぞ? 格闘ゲームならレバガチャでなんとかなる可能性も少しはあるし」
「? なんですか、レバガチャって」
「レバーガチャガチャして取り敢えず戦う」
レースゲームとか音ゲーなら完全に経験の差が出たりするが……まあ、格ゲーならワンチャンある可能性もある。
「……なに? おにいは可愛い実妹よりも、そんな人の事を魔王だなんだというヤツを応援するって言うの?」
「今のお前の応援はしたくないな~……」
いやマジで。
「もう! ともかく北大路! さっさと座れ!!」
「へいへい」
茜の対面の席に腰を降ろす北大路。二人とも百円硬貨をチャリンと入れると、キャラクター選択画面に飛んだ。
「……どれ使ったらええんですか、東九条さん?」
「あー……そうだな~」
「おい、北大路。ヒントあげる。右下にスーツ着た人居るでしょ? そいつが使いやすいから、そいつにしておけ」
「……ほんまですか、東九条さん? あいつ、俺をはめようとしてません?」
「うっさい! おにい、嘘は言ってないよね? 一番使いやすいよね? コマンド、簡単だし!!」
「あー……まあ、嘘ではない。嘘ではない――」
「ほな、これにしますわ」
「――がって、馬鹿!! なんで簡単に決定ボタン押してるんだよ! キャンセル!!」
「このゲームにキャンセルはありませーん。うわ、素人さんですかぁ~? まさか、『マツシロコータ』選ぶとか~。ありえないんですけどー」
「……へ? え? ええ? な、なんですか? 東九条さん、騙したんですか!?」
「……いや、騙してはない。確かに初心者が使いやすいキャラではある。ぶっちゃけ、必殺技のコマンドも強パンチと強キック同時押しとかだし」
「そ、そうなんですか? な、なら――」
「……ただ……その『コータ』、全登場キャラ最弱なんだ」
「――……」
「……元々、異世界転移した銀行員って元ネタのラノベでな? まあ、銀行員が強い訳無いだろうというスタッフにより、ゲーム中最弱のキャラに……」
「……」
いやまあ、他にも近接格闘とか魔法系のラノベもある中で銀行員が登場するとなればそうなるのは分からんでも無いんだが……じゃあ、出すなよって話だが。
「……マジですか? それ、絶対勝てへんじゃないですか!」
「いや、一応ゲーム中最強の必殺技『コータラヴァーズ』という技があって……これを出せば高い確率で勝利は出来るんだが……いかんせん、コマンドが激ムズで……」
素人には絶対使いこなせないと思う。
「……ねえねえ、浩之?」
絶望に染まる北大路を見ながら、彩音がちょんちょんと俺の肩をたたく。
「なんだ?」
「茜さんが選んだキャラクター、北大路君のキャラクターより二回りぐらい大きいんだけど……そういうものなの?」
彩音の言葉に茜の選んだキャラに視線を向けて。
「ぷぎゃー! んじゃ、北大路? コータで頑張ってね~。私はこのマリアを使うからさ!! 『魔王』だけに!!」
……あいつ。ゲーム中最強の火力と抜群の操作性を誇る『魔王マリア』使いやがった。素人相手に。容赦ねえな、マジで。




